共働きの夫婦は、もしものときに備えて高い保険に入りがち。見直しの余地がかなりありそうだ(写真:kikuo / PIXTA)

人生のリスクは、さまざまです。たとえば、病気になって働けなくなる、入院や通院が必要になる、介護状態になる、大黒柱である夫が亡くなるなどなど。どれも精神的にきついことですし、経済的なダメージもあるでしょう。しかし、これらをすべて、あるいはその多くを保険で解決できると考えてもいいのでしょうか。今回の相談は、それについて考えてみましょう。

「働くママ」として「病気になったら」の大きな不安


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徳田愛美さん(36歳・フリーランス)は結婚して小学校入学前の子どもが1人の3人家族。夫も36歳です。美容関係の仕事をしていてフリーランスなので年収は変動します。夫と合わせると現在は800万円ほどです。

現在、病気やけがを保障するシンプルな終身医療保険に入っていますが、保障内容に心もとなさを感じ、別のファイナンシャルプランナーに相談に行ったそうです。すると最新の医療保険に入り直すだけでなく、「ほかの保険にも加入すべきだ」と勧められました。

徳田さん:今は人生に起こるリスクのほとんどを保険でカバーできる時代だから、保険料は高くなるけれど、もしものことを考えれば必要なことだと言われました。

岩城:ということで、新たに複数の保険を勧められたのですか。徳田さんが現在、加入している医療保険は、入院や手術に対して給付金が出るものですね。保険料は月額3187円です。そして勧められたのは、「終身医療保険」と「終身がん保険」。保険料はこの2つだけで月額1万1062円ですね。

徳田さん:今は入院期間が短くなって、治療も通院で行うことが多いということで、この保険を勧められました。これから年齢が上がってくると、病気になる確率も高くなると言われましたし、保険を見直すのは最後のチャンスだから、もしものことがあっても困らないように充実させましょう、と。

岩城:見直すのはこれが最後のチャンス? なるほど、そういうこともおっしゃるのですね。保険料は3つで、年間割引を利用しても年間13万円台になりますね。

徳田さん:高いなとは思ったのですが、子どもも小さいですし、夫は非常に忙しくてあてにならない、親にも頼れない状況ですし。もし入院でもすれば、収入も途絶えベビーシッターさんや家事代行サービスなどを利用しなくてはならなくなります。治療費以外にもおカネがかかりそうですから、これくらいは必要かなと思いました。

確かに、徳田さんのように不安を持っている人は多いようです。生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」(2016年)でも、「病気やケガに対する不安」「老後生活に対する不安」「死亡時の遺族の生活に対する不安」「自分の介護に対する不安」のうち、「病気やケガに対する不安」を持っている人は「90.1%」で、最も高くなっています。そして、この3つの不安に対する準備を見ると、「医療保険に加入している」が84.2%と最も高くなっています(「死亡保障73.5%、「老後保障」64.8%、「介護保障」47.8%)。

保障を充実させても、病気にかかるリスクは減らない

岩城:しかし、これははたして経済合理的な行動なのでしょうか。徳田さんは、高額療養費制度のことはご存じですか?

徳田さん:知っています。夫の勤務先の健康組合では高額療養費の付加給付もあります。なので夫は会社の団体保険に入っているだけです。

岩城:付加給付があれば、自己負担はさらに軽減されますね。高額療養費制度では、同じ月に同じ病院でかかった療養費が、自己負担限度額を超えたときに支払われます。たとえば、医療費が100万円かかったとします。窓口負担(3割)は30万円ですが、そのうちの21万2570円は高額療養費として支給され、実際の自己負担額は、8万7430円です(70歳未満の給与所得者で、月額28万円以上53万円未満の場合)。さらに自己負担の軽減をはかるため、健保独自の給付(付加給付)がある場合もあります。自己負担限度額のうち、基準額を超えた分が「付加給付」として支給されます。

しかしながら、前出の調査で「入院経験がある人の、直近の入院時の高額療養費制度の利用経験」をみると、「高額療養費制度を利用した」は 60.5 %、「利用しなかった」は 29.2 %ということですから、まだまだ知らない人も多いようです。

徳田さん:実際には、入院したとしてもある程度の貯蓄があれば、そう困ることもないとわかってはいるのです。でも保険を提案されると、保障を充実させるともっと安心なのかもと思ってしまうのです。

岩城:保障を充実させるともっと安心、ですか。確かに、人は、自分の不安を解消するための対策を講じると、安心感を覚えますね。「保険に守られている」というフレーズは、保険会社もよく使いますしね。しかし、保障をたくさん持ったからといって、病気の罹患率が下がるわけではありません。この連載でも再々お伝えしているように、保障は必要最小限にとどめるのが原則ですし、徳田さんの場合、保険は本当に必要なのでしょうか。

医療費や入院することで生じる費用は、貯蓄から支払えばいいですし、万が一治療が長引いたとしても、直近12カ月間にすでに3カ月以上高額療養費の支給を受けている場合には(多数回該当の場合)、その月(4カ月目)以降の負担の上限額は4万4400円に下がります。このように、私たちが毎月保険料を支払っている公的健康保障制度はかなり手厚いので、貯蓄をしておけば、医療保険に入る必要はほとんどありません。「もしも」のために、医療保険に加入して保険料を支払うよりも、その分の保険料を貯蓄に回すほうがよほど安心だと思います。

「就業不能保険」に入るのは、正しい選択?

岩城:そして、さらに、「就業不能保険」を勧められたのですね。

徳田さん:そうなんです。やっぱり、私にもしものことがあったら、と。

岩城:就業不能保険は、働けないリスクに対する保障する保険です。医療保険でカバーされるのは入院中ですが、在宅での療養の際に保障をしてくれるというものです。病気やケガで長期間就業不能状態になったとき、お給料のように給付されます(損保では「所得補償保険」と言います)。

欧米では、歴史も長く、広く普及していますが、日本では知名度が低かったのです。しかし大手保険会社が人気タレントを起用してコマーシャル展開したことから、多くの人に知られるようになりましたし、取り扱う会社も増えました。おっしゃるように、住宅ローンを抱えていたりすると、公的保障だけでは不安だと思われる方も多いでしょう。事実、生活保護世帯の開始理由のうち、40.3%が「世帯主の傷病」だというデータもあります。また、死亡率に対する障害発生率(障害発生率÷死亡率)をみると、 男子は60〜80%、女子はさらに大きく35〜44歳では210%。障害発生率は、死亡率に対し小さくありません(「わが国におけるディサビリティ保険市場の発展と課題」ライフネット生命より)。

岩城:しかし、会社員ならまず会社の年次有給休暇(年休)が利用できますし、それでもまだ働けずに、お給料がもらえない場合は、今度は健康保険から「傷病手当金」が受け取れます。平常時の標準報酬日額の3分の2を、最長1年6カ月間受給できます。さらに治療が長引いた場合は、障害年金の対象となる可能性があります。

徳田さん:でも、私は今フリーランスですし。しかも私が寝込んでしまったら、家事や育児を頼まなくてはならなくなるので、金銭的負担は大きくなりますよね。

岩城:そうですね。自営業の方は、有給も傷病手当金もないし、障害基礎年金も1級2級に該当した場合だけですから、「就業不能保険」の必要性は高いといえますね。

しかし、考えなくてはならないのは、やはり保険料です。リスクをすべて保険でカバーしようとすると、保険料が大きくなってしまいます。「そのせいで、貯蓄ができない」となってはいけません。徳田さんが提案されている就業不能保険の保険料は月額4170円ですね。見直しも含めた先の3つの保険と合わせると、4つで年間18万円台の保険料です。そして、さらにもう1つ変額保険も勧められたのですか? これはどういう理由で?

保険で貯蓄もできるという「セールストーク」に乗るな

徳田さん:死亡保障があって、さらに子どもの教育資金を作ることができるものだそうです。今は低金利なので「ある程度リスクをとる必要がある」と言われました。月払い、長期分散で、毎月積み立てていくことでリスクを小さくしながらおカネを増やせる、と説明されました。私は、これまで投資をしたことがないので、この商品はいいかもと思ったのです。

岩城:なるほど。ドルコスト平均法で、長期投資を行うとリスクが小さくなる。これまで運用したことがない徳田さんにとって、コストを支払っても保険会社に運用を任せたほうが、安心だと思われたのですね。でも、「長期投資」や「ドルコスト平均法」だと必ずおカネを増やせるということはないですし、これで安心だと信じるのはいかがなものでしょうか。

コストに見合う成果が出るかどうかはわかりませんし、おカネの置き場所としては、iDeCoや来年の2018年から始まる「つみたてNISA 」のほうが適切です。しかも「つみたてNISA 」は、金融庁が当初から対象商品を絞り込むなど、初心者でも大きく間違わなくていい制度となっています。人任せにするのではなく、自分で判断して行動されるといいと思います。この変額保険の保険料は月額1万1018円。5つの年間保険料総額は、31万5000円にも上りますよ。これだけ支払っても、きちんと必要貯蓄額が達成できますか?

徳田さん:必要貯蓄額という考え方があるのですか? 保険の中に、少しは貯蓄が入っているわけですよね?

岩城:手取り年収入のうち、何割を貯めなければいけないのかを考える必要貯蓄率と、必要貯蓄額の考え方はとても大事です。これらを私たちは人生設計の基本公式と呼んでいます。徳田さんの必要貯蓄率と必要貯蓄額を出してみましょう。

岩城:さて、徳田さんのご家庭の条件を整理して、必要貯蓄率を計算してみましょう。考え方はこちら(あなたは65歳までにいくら貯めればいいのか)をお読みください。子どもさんのある夫婦はこちら(30代夫婦は65歳までいくら貯めればいいのか)を読むことをお勧めします。読者のみなさん自身の必要貯蓄率の計算も3分あればすぐに計算できます。

徳田愛美さん(既婚・36歳・フリーランス)
夫(36歳)は会社員
家計の今後の平均手取り年収(Y)800万円(現在の手取り年収ではなく、残りの現役時代の年数も考え、これからもらえそうな年収を考えて記入)
老後生活比率(x)0.7倍(65歳になったら、現役時代の何割程度の生活水準で暮らしたいかを設定します)
年金額(P)240万円(年収の3割を軸に計算)
現在資産額(A)400万円(今保有している貯金などに、退職一時金の見込み額を加算した金額で計算)
現役年数(a)29年(現在36歳。65歳まで働く年数を計算) 
老後年数(b)30年(65歳で原則年金生活に入り、95歳まで生きると計算)


貯蓄を増やそう

岩城:結果が出ました。ご夫婦の家計の必要貯蓄率は23%。老後に今の7割の水準の生活をする前提なら、毎月分に引き直すと、15万3333円の貯蓄が必要ということになります。

徳田さん:えーっ! 保育園料も結構かかっていて、毎月5万円くらい貯蓄するのがやっとです。

岩城:現在、徳田さんの年間払込保険料は、世帯の手取り年収の0.4%ほどです。しかし、勧められた保険に入り直すと、一気に世帯の手取り年収の4%ほどを占めることになります。世帯の手取り収入に対する保険料は1%未満に抑えるべきです。そうでないと、十分な貯蓄ができません。

徳田さんも、現在の保険を持ち続けて、できるだけ貯蓄額を増やす方が良いでしょう。毎月の支出を見直す必要もありますが、ご主人の年2回のボーナスから貯蓄に回す分を多くすると、貯蓄ができないということはないと思います。前回でもお伝えしましたが、個人型確定拠出年金、NISAを優先的に使いましょう。

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