米国のトランプ大統領が5日、来日する。

 6日には、くしくも今月15日で拉致から40年となる横田めぐみさん(53)の母、早紀江さん(81)ら拉致被害者家族と面会する。9月には国連でめぐみさんの拉致に触れ、北朝鮮を非難したトランプ氏が家族との面会で話す内容は、金正恩政権を牽制(けんせい)するメッセージの意味も持つだろう。

 面会について早紀江さんは「被害者は40年間、帰ってきていない。解決へ力強いご協力をお願いできれば」と期待を寄せる。

 ただ、被害者家族は期待感の一方、政府に「救出には日本が主体的に動かなければならない」と求めてもいる。結果が出せていない安倍晋三首相には、一層「解決」に向けた努力が求められるだろう。

 家族会は平成18年には当時のブッシュ大統領、26年にはオバマ大統領と面会したが解決に至っていない。早紀江さんは「当時は若く希望もあったが、今は疲弊しきっている」と話し、夫の滋さん(84)は高齢から面会を辞退するという。

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 トランプ氏が拉致問題に高い関心を示していることは、日米両首脳の信頼関係を北朝鮮に見せつけることになったが、背景には米国家安全保障会議のポッティンジャー・アジア上級部長の存在があったとみられる。ポッティンジャー氏は9月、訪米しためぐみさんの弟、拓也さん(49)の話に聞き入った後、「トランプ大統領に確実に伝える」と約束。海兵隊将校としてイラクやアフガンで勤務した経歴を踏まえ、こんな話をしたという。

 「米海兵隊は、仲間を戦地に残して逃げ帰りはしない。最後の一人まで救出する。だから拉致被害者も最後の一人まで助けるのだ」

 拓也さんに勇気を与えたこの対応は、単に同情から出たものではないと、筆者には思える。ポッティンジャー氏は入隊前、ウォールストリート・ジャーナルの北京特派員だった当時、中国で不当に自由を奪われ、暴行されていた。故国を離れて恐怖と闘う孤独感、そして異国で暴力的に身柄を拘束された屈辱−。そうした体験を、拉致被害者の心情に重ね合わせた言動だろう。

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 産経新聞社会部はこの1年、通年企画のテーマに拉致を据えてきた。筆者はその取材で、いくつかの教訓を得た。それは、察知した危機に警戒し、備えることの重要性と、それを実行する難しさだった。

 昨年末、新潟の取材で「めぐみさんの失踪当時、北朝鮮の仕業だと直感した」という人がいた。理由を尋ねると「噂になっていたし夕暮れに1人で浜にいると北朝鮮にさらわれるという戒めも聞いていた」という。

 当時、新潟日報の整理記者だった篠田昭新潟市長は昨年末、こう話した。

 「警察などでは結構、(拉致が表面化する前に)分かっていたわけですよね。ひょっとして、われわれマスコミが伝えていたら防げたのではないかと思うと残念でならない」

 警察は日本の海岸に北朝鮮工作員の不法出入国のポイントがあることを摘発事件から知っていた。これが危機の予兆だった。

 善悪で言えば、最悪の人権犯罪国家である北朝鮮こそ、罪を償う最大の当事者である。ただ、拉致を防げず被害の拡大を許し、40年も同胞を救い出せない責任となると日本政府、警察、政治家の問題である。何より、日本に浸透しようとする北朝鮮の違法行為を許さない立法を、政治家に議論する機運さえ持たせなかったわれわれが自覚すべき責任でもある。

 それでも北朝鮮をめぐる現況を直視しない人がいる。北朝鮮とはいずれ、屈して和をなすのか抗するのか選択を迫られるだろう。何も決めず備えようとしない態度が最も危険だ。そろそろ「拉致」を教訓に、目覚めてほしい。(毎月第1日曜日に掲載します)