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もくじ

ー ホットハッチの栄冠 ほかでも通用する?
ー 最高のホットハッチ 下克上なるか
ー メガーヌの対戦相手 価格4.4倍の最終兵器
ー メガーヌRSと911GT3 数値を比べると
ー 数値を超えたメガーヌR26の底力
ー 911GT3 「ただしい飛ばし方」とは
ー メガーヌR26 サーキットで予想外の健闘
ー 最終ステージに用意された劇的幕切れ

ホットハッチの栄冠 ほかでも通用する?

今回の勝負を思いついたのは、ベッドフォード・オートドローム西サーキットのショートコースを半周ばかりしたときだ。

そう、前号でお伝えした2日間におよぶ14台のホットハッチ選手権で、ルノースポール・メガーヌ230 F1チームR26に乗り込み、走り始めてすぐのことである。

並み居るライバルをねじ伏せ、ベスト・ホットハッチの栄冠をR26が手中に収めるはるか前の時点で、わたしはこのクルマを格上の、それも最高クラスのスポーツカーと闘わせてみたい衝動に駆られていた。

最高のホットハッチ 下克上なるか

あの2日間でR26をドライブしたテスターは、例外なくこのクルマの速さに、それもステージを選ばぬ圧倒的な強さに驚嘆させられた。

サーキットだけでなく、中央分離帯のある高速道路でも、路面の荒れたカントリーロードでも、そして曲がりくねったワインディングでも、行くところすべてがR26の天下だったのである。

となれば、われわれの使命はひとつだ。最速マシンの進化の系統樹をたどり、史上最高のホットハッチがどこまで下克上をなしうるかを確かめることである。

400万円ほどのR26が、4つのタイヤとエンジンとステアリングを持つモノに叩きのめされるとしたら、ソイツはいったいどのくらいのレベルなのだろうか?

メガーヌの対戦相手 価格4.4倍の最終兵器

われわれはすぐさま対戦相手の選考を始めた。アウディRS4は?

ダメだ。

ガラガラに空いたアウトバーン以外の場所で、俊敏かつスタビリティの高いR26が重量級のアウディより遅いなどとは考えられない……と、こんな調子で、われわれは選考を重ねていった。その真剣さといったら、代表選手を選出するサッカー代表チームの監督もビックリなくらいだったと思う。たぶん。

どのくらい時間が経過したときだろうか。TVRサガリスを相手に最後の晴れ舞台を組んでみてはどうかと誰かが提案した。一時はメンバー全員が納得し、大いに盛り上がった。

しかし、長丁場の議論でも冷静さを失わずにいたひとりが指摘する。「サガリスは確かにストレートでは信じられないくらい速いけど、カントリーロードに入った瞬間にR26の姿を見失うんじゃないか?」と。

そして最終的には写真をご覧の通りである。

結局のところ、われわれは系統樹を頂点までたどってしまったのだ。

ポルシェ911GT3は、われわれのいちばんお気に入りのハイパフォーマンスカーだ。いわばいきなり切り札を切ったのである。われわれがどれだけR26に感銘を受けているかが、これでご理解いただけると思う。

ステージがサーキットのみであれば、GT3RSを選ぶべきであろう。しかし今回は、公道走行寄りのGT3が適任だ。さらにR26と条件を揃えるべく、オプションを少し加えた仕様を用意することにした。

まずは無料オプションのクラブスポーツ・パッケージで、これにはリアシート・レスとロールケージが含まれている。さらにカーボンファイバー製の軽量バケットシート(62万6000円)とカーボンセラミックブレーキ(116万円)、オマケにカーナビゲーションである。合計すると、このGT3の価格は1753万6000円になる。つまり、R26の4.4台分ということだ。

こういう仕様を用意した時点で、読者諸氏のなかには「911が負けて大逆転が起こるように仕向けているんだろう」とお思いになる方がいることはわかっている。

そしてそういう方は、おそらく最終章に「400万円のルノーは1800万円のポルシェの8割ほどの実力だった。けれどそれに要した燃料は半分である。したがってルノーの勝利であり、万能のポルシェは窮鼠に噛まれることになった」と用意されていると予想しているのだろう。

それはちょっと違う。

メガーヌRSと911GT3 数値を比べると

だいたいストーリーを決めて対決させたっておもしろくはないし、なによりもGT3はとても真摯に作られたクルマなのだ。いくらR26が優秀なホットハッチで、機械式リミテッドスリップデフやターボチャージャーを搭載して最高速が240km/hに迫る本格派だといったところで、実際には所属するリーグが何ランクも異なる格下なのである。

両者の動力性能を客観的に評価する数値を挙げてみよう。GT3の415psに対してR26は230psだが、車重はGT3が55kg重いだけである。よって馬力荷重比は、GT3の297ps/トンに対してR26は171ps/トンにとどまる。

これらの数値が意味するのは、車重がほぼ同等であるからGT3とR26の敏捷性もやはりほぼ同等で、ただし加速力はGT3のほうが2倍近く高い、という事実である。

さらに加えるなら、0-97km/h加速はGT3が4.3秒でR26は6.2秒(まぁこんなところか)、0-161km/hはGT3が8.7秒でR26が16.5秒(なんと!)、最高速度はGT3が307km/hでR26が237km/hだ(わかるとじつに楽しいね)。机上の計算では天地の差、もしくは月とスッポン。まったく相手になるはずがない。

当然ながら純然たる数値のみでの分析なのだが、この結果だけを見れば、GT3はR26を一撃で叩きつぶせるほど圧倒していることがわかる。

それこそ相手が悲鳴をあげる程度に手加減して勝てるくらいに。額面どおりに受け取ればこの組み合わせはやはり無謀であり、R26に実力以上の勝負を押しつけたかのように見えるだろう。

しかし、われわれはR26がそんな負け犬ではないことをよく知っているし、街角に放置されて毛並みがボロボロになった野良犬がよろよろ歩きながら遠吠えしている姿にR26を重ねて見ているわけでもない。勝負は実際に走らせてみなければわからない。そう信じている。

数値を超えたメガーヌR26の底力

いよいよ2台を連れだすときがきた。理論や数値の上での圧倒的な差を超えたなにかを、果たして見ることができるのだろうか……そんな思いを胸に、決戦の場へと向かうべくGT3とR26で移動を開始した。

思えばこのときすでに、両者の実力のギャップは埋まり始めていたのだ。壁はむしろGT3のほうに迫っていたのである。

われわれは、始めにこの2台をサーキットで対決させ、しかるのちにまっとうな公道上での比較に移るつもりでいた。両方に花を持たせられるようにとの配慮からだ。

というわけで、まず向かったのはチョバム・テスト・トラックである。ここにはアベレージ・スピードの高い外周サーキットと、タイトでツイスティな、その名も「ザ・スネーク」というハンドリング・コースがある。

そして、われわれのお気に入りで、幾度となく派手なコーナリング写真を撮ってきたコーナー、その名もズバリ「チョバム・コーナー」もここにある。まずはこのコーナーで、80〜100km/hの高速コーナリングをどれだけ安定してこなせるかをテストすることにした。

最初のステージでわれわれの信念を証明することができてしまったのは、うれしい反面、意外でもあった。このコーナーは、最初のトライから究極のラインと限界速度が見つかるようなところでは決してない。

ベストなコーナリングを成功させるには、アタックするクルマごとに自分のテクニックを磨かなければならないのだ。そして、ロールケージとセミスリックのミシュラン・パイロット・カップで戦闘力を高めたポルシェ911GT3ほど、それが求められるクルマはない。

911GT3 「ただしい飛ばし方」とは

最初の数回のアタックでは、GT3は強烈なアンダーステアに終始した。カップ・タイヤは冷えた状態では本来のグリップがほとんど出ないこと、そしてロールケージによってボディ剛性が上がり、クルマ自体のアンダーステア傾向が強まっていることがおもな理由だろう。

しかし、何度もアタックを繰り返し、思いつく限りのラインやメソッドを試してみても、GT3は依然としてスムーズにコーナーを抜けてくれることはなかった。

ごく普通のスローイン・ファストアウトは通用せず、スロットルを開けた瞬間にノーズがアウトに流れてしまう。

なんとかサマになったのは、ドリフトに持ち込んでそのままの姿勢を維持するか、もしくは単純に進入速度を落としてそのまま地味に抜けていく方法だけだった。

それらの手法にしたところで、前者は見た目は派手だがコーナリングは速いとはいえず、後者は脱出時にアンダーステアが顔を覗かせるのだからどうしようもない。

満足のいく結果では到底なかったが、タイムはそれほど遅いわけではなかったのでR26に乗り換えることにした。

R26では、2〜3回ほど走ってみただけで、ほとんど完璧な攻略法をつかむことができた。

思い切り突っ込んでハードにブレーキペダルを踏みつけ、わずかに制動力を残したままターンインしたのちに素早くパワーをかければLSDが間髪入れずに作動し、ノーズがレールに乗っているかのようにラインをトレースしてくれるのだ。

4〜5回も走ればまさに完璧であった。

GT3に比べてR26のコーナリングがいかにスムーズで効率的かを思い知り、クルマの運動性能が数値だけでは量れないことを改めて実感した瞬間だった。このコーナーではR26のほうがGT3より100%速い。間違いない。

メガーヌR26 サーキットで予想外の健闘

次にわれわれは外周サーキットに向かったが、ここでGT3はあっという間に面目を挽回した。ここは2本の長いストレートをふたつの180km/h超級のコーナーでつなぎ、途中に150km/hほどで抜けるS字セクションを置いたハイスピード・コースである。大部分がパワーで決まるものの、高速コーナーで踏み切れないパワーだけのクルマだと、スタビリティのしっかりしたアンダーパワーのクルマに出し抜かれることもある。

GT3は決してパワーだけのクルマではないが、R26は並外れてスタビリティが高い。それでもなお、外周サーキットを支配したのはGT3であった。圧倒的にパワフルなエンジン、ワイドなハイグリップタイヤ、巨大なカーボンセラミックブレーキ……これだけ揃えて負けるほうがおかしい。R26に勝ち目などない。

精密機械のごときGT3のエンジンを8200rpmのレヴリミットまで引っ張り上げ、1速、2速、そして3速、4速とシフトアップしていく一連の動作は、このうえない高揚感をもたらしてくれる。ポルシェの名を裏切らないそのパワーユニットは、4200rpmあたりからサウンドとパワーを1ランク高め、さらに6000rpmを超えるとまるでガソリンを自分の身体に注入されたかのように体温が上がり、笑いがこみ上げ、場合によっては絶叫してしまうほどの興奮に包まれる。さらにその上ともなると、もはや身体がシートにめり込む感覚しかない。

ウインドスクリーンの光景が鮮やかに赤みを帯びてきたことに気がついたなら、それは180km/h超の高速コーナーを通過している証拠だ。あまりに切れ味の鋭いステアリングにコーナーであることを意識せずに旋回し始めてしまい、強烈なGで目が充血して初めて置かれている状況に気がつくのである。空力パーツが十分に効果を発揮する速度域では、アンダーステアは皆無となる。そしてS字の手前でブレーキを踏めば、信じられないほど強力な力で身体を前方に持って行かれることになる。

このクルマのすべての操作系には、一貫して素晴らしいフィールがある。それゆえ走り込むほどに夢中になってしまうのだが、危険な領域に踏み込んでしまう前に、いったん冷静に落ち着いてみたほうがいいだろう。そのとき初めて、GT3がもたらす至福の瞬間を経験できた事実を、実感を伴って受け入れられるはずだ。そしてそれを理解したあとでは、もはやR26を以前と同じ目で見ることができなくなっているだろう。

しかし、GT3が勝負を支配できたのはここまでだった。ザ・スネークにステージを移した途端、忠誠心はあっという間にR26に連れ去られてしまったのだ。

われわれがここチョバムで得た結論はこうだ。道が開けているほど、GT3がR26を圧倒する。これは完全に予想どおりである。しかし、ストレートを取り払ってコーナーとバンプだけでコースを造ったら、R26がGT3を逆転することになる。というのも、ザ・スネークで徹底的に走らせてみたところ、R26はひたすらスムーズかつ鮮やかで、しかも単に扱いやすいだけではなく、実際にラップタイムでGT3を上回っていたからである。これはまったく予想外だった。

ザ・スネークでのGT3は、再びアンダーステアとの格闘を繰り広げていた。GT3に乗っていると檻の中で全力を出せない猛獣のような気分だったのに対し、R26は飛ぶように軽やかだった。絶対的パワーが低いために、そのほとんどすべてをアスファルトに伝達することが可能であり、懐の深いロードホールディング性能と軽快な身のこなしを完全に活かすことができたからである。

R26ならばザ・スネークを95%の、もしかするとそれ以上の実力を引きだして走ることができる。対するGT3では70%以上はどうやっても引きだせなかったし、場合によっては半分にも満たなかった。それ以上を求めるのはコースアウトのリスクと背中合わせであり、1800万円の借り物でやるべき行為ではなかった。

最終ステージに用意された劇的幕切れ

サーキットでの対決を終え、われわれは最後のステージである公道で両者のパフォーマンスを比較することにした。

ところが、ここでまた予想外の事実が判明したのである。

R26はホットハッチ選手権で確認したとおり、荒れた路面をまったく気にせず快適で洗練された走りを披露してくれた。ところがGT3は、同じ条件下でR26以上のパフォーマンスを見せたのだ。

もちろん高速道路におけるGT3の走りは、R26のように洗練されたものではない。乗り心地もノイズもひどいものだ。サーキットでのフィーリングを最優先して設定されたステアリングは、ガラスのようになめらかな路面以外ではあまりにダイレクトでキックバックが強い。そして高速道路の大部分は路面が荒れており、そこを長時間走るのは苦痛でしかなかった。

それとは対照的に、R26は今回の対決で走ったすべての路面状況に対応していた。公道においてはGT3よりはるかに優れたクルマであることを実証した。日常のアシとして十分に活用できるスポーツカーである。

ところが、である。

日が暮れて道が空き始めてクルマの流れもスムーズになり、GT3のポテンシャルを解き放つことができる機会が増えてくると、主導権がはっきりと入れ替わる。

いかなるドライバーがどれだけハードにムチを入れたとしても、本領を発揮したGT3にR26でついていくことはおそらく不可能だろう。

途中で何度かクルマを乗り換え、その都度それぞれの印象を話し合ったのだが、GT3から降りたテスターは疲れてはいるものの興奮した調子で、そのすばらしい走りに感激したという感想を述べていた。

一方、R26から降りたテスターは、GT3から降りたテスターを羨望のまなざしで見つめ、次に自分がGT3に乗る順番がくるのを心待ちにしている様子がありありとわかるのだった。

これが今回の「挑戦」の結末だ。すなわち「挑戦者側が見事な成績をあげても勝利するとは限らない」──である。

世界最高のハイパフォーマンスカーは別格だということなのか。これは決してR26がよくできたクルマであるという事実に異論をはさむものではない。しかし、GT3はやはりまったく別の「なにか」なのである。