広瀬すず×生田斗真『先生!』が見逃せない理由 冒険的な演出から読み解く

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 教師と生徒の恋愛模様というのは、少女漫画の鉄板中の鉄板ともいえる題材だ。現実で頻繁に起こりうる問題から、その題材について疑問の声もしばしば聞かれるが、それでも実際に学生時代に教師に対して恋愛感情や、それに近い憧れを持っていた生徒はたくさんいたし、あらゆる知識を身につけていく過程で、初めて知り合う身内以外の“教えてくれる存在”に惹かれる道理も充分理解できる。

参考:広瀬すずが生田斗真へ向けた、真っ直ぐな“まなざし”ーー『先生!』で見せた、初めての恋ごころ

 この手の作品で映画化されたものといえば、山下智久と小松菜奈の組み合わせの『近キョリ恋愛』に、今年の春に公開された『ひるなかの流星』、あとはメインの題材ではないにしても、来年映画化が発表されている『ママレード・ボーイ』にも、主人公の親友が国語教師と恋に落ち、最終的に結婚するまでの流れが描かれている。そんな王道ストーリーの、代表格ともいえる作品が河原和音の『先生!』なのだ。

 タイトルが直前になって『先生!、、、好きになってもいいですか?』と、劇中のヒロインの台詞をしっかりと抽出することで、タイトルだけでその内容が明確なものになっていることはさておき、ジャニーズきっての好素材で、俳優としての実力が極めて高い生田斗真が主演を務め、ヒロインには今をときめく広瀬すずが抜擢されているというのに、同じ原作者の『俺物語!!』や『青空エール』を下回るスタートとなったのは、いささか物足りなさが残る。

 同じ週にハリウッド屈指の超大作と、豪華声優陣大集結の人気シリーズの最新作が公開された。しかも映画祭開催期間中とはいえ、これだけ丁寧に作り上げられた作品がバズらないというのは、もしかすると少女漫画映画の大量生産体制に、多くの観客が辟易としてしまっているのだろうか。たとえそんなレッテルが貼られてしまったとしても、“日本のメジャー映画”的な堂々とした風格を見逃してはならない。

 三木孝浩作品の演出センスについては、もうその名前と内容のさわりを聞くだけで安心感が生まれるほどに信頼を置いている。『青空エール』では少女漫画原作映画に革新をもたらす、恋愛を二番手に置いた筋書きについて(参考:『青空エール』が覆す、少女漫画原作の定石ーー部活への情熱だけで描く青春はアリ?)、昨年の暮れに公開された『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』では女優の描き方について(参考:小松菜奈に観客が恋に落ちる理由 女優の魅力を増幅させる『ぼく明日』三木孝浩監督の技術)それぞれ触れてきたが、本作では女優はもちろんのこと、男性キャストにも満遍なく愛情が注がれている印象だ。

 というのも、そもそもこの作品の映画化企画が、『僕等がいた』で主演に抜擢された生田斗真の30代を描き出そうというところから始まっているという。いわゆる“キラキラ映画”ブームの走りとなった作品で青年時代を二部作によって描かれた彼が、今作ではある程度歳を重ねた社会人を演じる。この“キラキラ映画”界では、リアルタイムで高校生の演者を配することはもちろんあるが、ある程度の年齢に達した演者に高校生を演じさせるという、騙し技も頻繁に使われているのだ。

 無論、何度も“キラキラ映画”に出演する演者にとって、その境目となる作品はとても重要になってくる。『僕等がいた』から5年の間で、多くの映画に主演を果たした生田だが、同系統の作品は一本もない(『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』は小説原作なので“キラキラ映画”とは違うテイストだと認識している)。満を持して本作で、同じ監督のもとで大人への脱却を果たしたということである。

 ちなみに他の男性キャストも優れていて、主人公の対比的なポジションとして、比嘉愛未演じる美術教師に真正面から想いを伝え続けるが相手にされない竜星涼や、これまたストレートに自分の感情をヒロインに伝える健太郎。いずれも素直に想いを伝えることができない二人の主人公との明確な対比なポジションとして、映画の根幹を担っている。

 男性キャラを引き立たせるという、少女漫画原作映画では禁じ手のようにも思える冒険を、成功に導いたのは岡田麿里の脚本の力に他ならない。実写映画では今年公開された『暗黒女子』に続いての脚本となるが、これまで彼女が手がけてきたアニメ同様、男性キャラを単なる理想像に置かずに、リアルでありつつドラマチックに再現させることが、功を奏しているのではないだろうか。

 時折、男女キャラを問わずやたらと生々しさを連想させるような台詞を書いたり、正攻法な物語にケレン味を加えるあたりは、岡田脚本らしい。そこに、安定した職人技を備えた三木演出でマイルドさを加えることで、キャスト全員の良さを引き立てる。それぞれに決め台詞のような重要な言葉を与え、スピッツのエンディング曲で綺麗にまとめあげる。実に危なげなく、確実な作りをしている作品だ。

■久保田和馬映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。