北朝鮮──その深部とポテンシャルを探る

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北朝鮮当局は今年夏ごろから全国で電話帳の回収作業を進めている。同時に、電話帳の管理、所有者の監視を進めている。その理由を平壌駐在のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

事の発端となったのは、中朝国境沿いの咸鏡北道(ハムギョンブクト)で、ある人が中国に電話帳を密輸しようとして逮捕されたことだ。

この事件を受けて当局は「電話帳を南朝鮮(韓国)に売り払って儲けようとした人間のクズがいた」との理由で、今年6月から行政機関、朝鮮労働党、司法機関などに配布していた電話帳の回収作業を始めた。新しい電話帳が配られるとの話がある一方で、そのような話は信じられないという声もあり、回収される前に電話帳をまるごとコピーした機関もあるとのことだ。

それにしても、なぜ電話帳の外国への持ち出しが密輸扱いになるのだろうか。それは、機密情報が満載されているからだ。

韓国の中央日報は2004年12月、北朝鮮の電話帳を入手したとして公開した。

A4サイズ、380ページで1990年代に発行されたと思われるこの電話帳には、国家安全保衛部(秘密警察、現国家保衛省)の番号はさすがに掲載されていないが、それ以外のほとんどの組織、工場、企業所、高官の番号が網羅されている。

また、デイリーNKが入手した2003年度版の電話帳は約500ページで、全国の機関から警備員の詰め所に至るまでほとんどあらゆる電話番号が網羅されている。例えば、衛星政党の天道教青友党中央委員会の欄には、中央委員会室から警備室に至るまで12の番号が掲載されている、といった具合だ。

中央日報に電話帳を提供した北朝鮮の学者によると、国内に電話帳は1種類しか存在せず、行政組織の構図が丸見えになるため、国家機密扱いされ、外国への持ち出しは厳禁だという。

金正恩党委員長は「国外への情報流出、国内への情報流入」に神経をとがらせており、厳しく取り締まるよう指示している。しかし、いいカネになるとあって、海外に売ろうとする人が後を絶たないのが現状だ。

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携帯電話が普及する前、北朝鮮の人々にとって、電話も電話帳も普段は触れることのない特別なものだった。2004年3月に韓国にやってきた脱北者のパク・ウニさんは、RFAの取材に次のように答えている。

「(電話帳は)誰でも見られるものではない。逓信所(電話局)にあるが、所長や幹部ではなければ閲覧できない。電話番号がわからなければ所長にワイロを渡して電話帳を見せてもらう」

パクさんはそもそもこの世に電話帳なるものが存在することを知らず、他の一般庶民も存在を知らないだろうと語った。パクさんが電話帳の存在を知ったのは、結婚して平壌に移住した友人の夫が病気になったと伝え聞き、何とか電話をかけて慰めてあげようと、人に方法を尋ねたことがきっかけだったという。

また、パクさんは仕事で、自宅のある会寧(フェリョン)から、羅先(ラソン)の噴水台運送事業所に頻繁に電話をしていたが、警備員にワイロを渡して工場の電話を使わせてもらっていた。ワイロさえ払えば通話料を払う必要はなかったという。

ちなみに米CIAの推計によると、北朝鮮の固定電話の台数は、2008年で118万台。日本は4758万回線、韓国の2947万回線に比べるとかなり少ない。そのため、全国の電話番号が1冊に収まるというわけだ。

一方で、韓国の国家情報院によると、北朝鮮で使われている携帯電話の台数は470万台に及ぶ。

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