訪日外国人が多く行き交う銀座界隈。インバウンドは増加の一途をたどる(筆者撮影)

観光庁の調べによると、2017年7〜9月の訪日外国人全体の旅行消費額は1兆2305億円で、前年同期比26.7%の増加となった。消費額、訪日外国人数ともに依然上昇傾向であり、インバウンドによる恩恵は各業界に及んでいる。

店のこだわりや、日本の食文化を伝えるサービス

外国人目線でのサービスも充実してきている。飲食業界で課題となっているのが、外国語への対応。カタコトの英語でもなんとか接客はできるが、メニューについての細かいニュアンスを伝えられないので、客の消費意欲を喚起できない。対応できる店員がいない、注文に時間を取られる、セットメニューしか頼んでもらえない、1品食べただけですぐ帰ってしまい客単価が上がらない、などなどの悩みを抱えている店舗が多いのだ。日本ユニシスでは「飲食店を外国人に利用しやすくし、客単価も上げる」ための多言語対応の接客サービス「Wavi Savi Navi(ワビサビナビ)」を開発。各地での実証実験を通じて普及を進めている。

同システムはタブレット型の接客支援ツールで、料理や店の特徴を写真、動画と「ネイティブレベルの外国語」によって伝えられるのが特徴だ。

こうしたタブレット型のメニューは回転ずしや居酒屋などの飲食チェーンなどですでに導入されているが、本システムはどこが異なるのだろうか。

「より店のサービス品質がアップできる。おもてなしのためのツールだといえます」(日本ユニシスファイナンシャル事業部の河村徹氏)

まず、ワビサビナビでは、単なるメニュー名や写真を紹介するだけでなく、店のこだわりや日本の食文化といった詳細情報を伝えるところに眼目がある。お客にとっては日本の文化や食についてより深く理解でき、食事が楽しくなるというメリットがあり、店側としてはオーダーが増え客単価の向上が期待できる。


メニュー一覧表示(画像:日本ユニシス提供)

また、メニューのデータ自体はクラウド上にあり、スマートフォンにアプリをダウンロードすることで、来店客のスマホ上でもタブレットと同じメニューにアクセスすることができる。利用法としては、店の外で順番待ちしている場合などに見てもらい、メニューを決める時間を短縮することなどが考えられる。

たとえば、普通のタブレット型メニュー、いわゆるマルチオーダーパネルでは、メニューを選んで注文ボタンを押すと自動的に注文できる仕組みになっている。しかしワビサビナビでは、ボタンを押すと店員がテーブルにやって来て、お客と直接やり取りして注文を受け付ける。ここで人間同士によるコミュニケーションが生じるわけだ。

このように「“人間系”のシステムをワンクッション挟む」(河村氏)のが“おもてなしのためのツール”をうたうゆえんだ。

導入のための費用は、初期費用10万円(応相談)のほか、月額利用料1万5000円。このセット料金で、店が選ぶ30品目のメニューを任意の3言語で掲載できるほか、3カ月ごとに5品目のメニュー更新を行うことができる。なお、言語は英語・中国語・韓国語・タイ語のほか多言語から選ぶことができるそうだ。

掲載するメニューやこだわりのポイントなど、伝えたい情報が店舗によって異なるので、コンテンツ制作は個別対応で行う。店舗を取材して、ヒアリング、写真・動画撮影などを行い、コンテンツ制作、翻訳など、申し込みから利用開始までは最短で2週間程度かかるという。

「申し込みから利用開始までの効率化・時間短縮が課題ですね。もっとも、飲食店ですので、取材のための時間調整が難しいといった、お店側の事情もあるのですが」(河村氏)

客単価が65%アップしたというケースも


ひつまぶしの食べ方などを動画で紹介するなど、食文化に至るまでより詳細に情報提供する(画像:日本ユニシス提供)

日本ユニシスでは、同システムの実証実験を約1年前から開始。関東のほか、山陰や北陸、東北などで展開を進めており、現時点で全29店舗が利用している。焼き肉チェーンからアイスクリーム屋まで、業態も料理の種類もさまざまで、高級店もあれば、個人の小さな店もあるという。導入店舗ではそれぞれ課題解決に至っており、「客単価が65%アップしたというケースもある」(河村氏)という。そうした店舗では、外国人は1オーダーで済ませるのが普通なのに「目に見えてセカンドオーダーが増えた」「楽しく使ってくれる人はたくさん注文してくれる」といった反響が得られている。また、動画のメニューも活用されているそうだ。

「ユニークな利用例としては、うなぎのお店でひつまぶしの食べ方を動画で紹介しているところがありますね。また、外国人相手だとよくトラブルになるのがお通しです。『なんで頼んでいないものにおカネを払わなければならないのか』と言われるわけですね。ですので、お通しについての説明を載せるところも多いです」(河村氏)

首都圏29店舗をはじめ、関東を中心に展開する高級焼き肉チェーンの「平城苑」では、2017年より4店舗でシステム導入を開始した。銀座店は日に来店客が60〜70人、ランチを合わせて100人という繁盛店だが、特に外国人客の割合が高く、売り上げの半分はインバウンドによるものだという。


おすすめメニュー(画像左)、店のこだわり(画像右)などをネイティブ言語で紹介し、客の消費欲喚起を狙う(画像:日本ユニシス提供)


左が日本ユニシスファイナンシャル事業部の河村徹氏、右が平城苑銀座店店長の亀渕秀昭氏(筆者撮影)

銀座店店長の亀渕秀昭氏は「外国人スタッフも配置していますが、やはりそれ以上に外国人のお客様が多く、オーダーに時間を取られてスタッフが回らなくなってしまうことがあります」と、外国人客への対応について語る。ワビサビナビについては、本社の方針で9月から導入。まだ目に見える効果は出ていないが、翻訳の精度が高く、メニューをより正確に伝えられそうなことや、単価アップも期待できるのでは、という印象を持っているそうだ。

平城苑の大きな特徴は黒毛和牛、国産牛を一頭買いし、熟成させてから提供するという、肉へのこだわり。産地や肉質についてなどの詳しい説明をしたり、スタッフがその場で肉を焼いて提供することもあるなど、焼き肉というジャンルの中でも接客に重点が置かれている。しかしカタコトの英語だけでは、外国人に質の高い接客を行うことができないのが悩みだった。この点についても、ワビサビナビをもっと役立てたいところだという。

「より詳しい情報提供や単価アップの面では、今のところあまり効果は得られていないんです。というのも、メニューの決定に夢中になってしまい、背景の情報まで詳しく読んでくださらない方が多いためです。メニューの注文数も変わりがないですね。ただ、外国人のオーダーで取られる時間が短縮していることは間違いありません」(亀渕氏)

店舗の「課題解決」に的を絞り対応

もっとも、店で改めてメニューをじっくり読む必要がない、という理由もある。平城苑は「一頭買い」というコンセプトのはっきりした店だからか、機会来店ではなく、目的来店の客が多い。これは外国人の客でも同じらしく、店についての情報はそれぞれ独自に調べてくるわけだ。

「それに、特に中国のお客様ですね。滞在時間がすごく短いんです。日本人が2〜2.5時間のところ、外国人は1時間です。客単価は同じですから、店にとってはありがたいお客様ではあるのですが」(亀渕氏)

また自動注文でなく、スタッフと客が直接やり取りして注文を受けつける点も「逆に助かっている」という。

「外国の方の場合、1人前の量がイメージできなくて、たとえば同じメニューばかり10個ぐらいオーダーリストに入っているなど、注文が明らかにおかしいときもあるんですね。また、サンチュにくるんで食べるという食べ方も、説明しないとわからない方もいらっしゃいます」(亀渕氏)

現在の平均客単価は8000円。充実したタブレットメニューによって、サイドメニューであるピザや一品料理にも目を向けてもらい、客単価を500円でもアップするのが目標だそうだ。

これまで導入したレストランのなかには、たとえば船やバスの発着場が近くにあり、発着時間に合わせて一気に外国人が大量に店内に入って来る、という店もある。そういった店では、外国語に対応できるスタッフや、そもそも店舗の人員が限られていることも多い。そのため、ワビサビナビが非常に役立っているという。さまざまなインバウンド向けサービスのなかでも、このワビサビナビは日本の店舗の「課題解決」に的を絞っている点で、普及・定着していきやすいと言えるかもしれない。