11月4日に東京・上野でオープンしたパルコの新業態「パルコヤ」。68のテナントが入居する(撮影:今井康一)

11月4日、ファッションビルを運営するパルコは東京・上野で新型店舗の「パルコヤ」をオープンする。同社が東京23区内にパルコ店舗を出店するのは、1973年の渋谷パルコ以来、実に44年ぶり。東京の東エリアに出店するのも初めてだ。

4割のテナントがパルコに初出店


1〜6階がパルコ、7〜10階はTOHOシネマズの映画館、上層階にはオフィスが入る複合施設となっている(撮影:今井康一)

松坂屋上野店南館の再開発による大型複合施設「上野フロンティアタワー」の中核店舗として、1階から6階までのフロアをパルコが運営する。パルコは2012年にJ. フロント リテイリングの傘下に入ったが、同社と店舗を共同開発したのも今回が初めてとなる。

パルコの新しい『刺激』として展開していきたい」。開業に先立ち10月31日に実施された記者会見の席上で、パルコの牧山浩三社長は力強くそう語った。

パルコヤには68店舗がテナントとして入居するが、そのうち約4割がパルコに初めて出店したブランドだ。衣料品の比率を抑え、雑貨や食品などのテナントを充実させた。ただ、延べ床面積が約8200平方メートルと、パルコの中では中型の店舗になり、入居する各テナントのフロアスペースは決して広くない。牧山社長は「各ショップには通常の8割程度の広さで我慢してもらった」と話す。

やや手狭な感が否めないものの、パルコではなく、隣接する百貨店の松坂屋にちなんでパルコヤと名付けたことからもわかるように、この新店舗はほかの店舗とは違う新機軸を打ち出している。


日本料理店「くろぎ」が出店した和カフェ&バーで食べられるスイーツ(撮影:今井康一)

パルコヤは一言で表現すると、大人向けの店舗だ。パルコは20〜30歳代の若い世代を主要顧客としているが、パルコヤについては上野御徒町という下町に店舗を構えることを考慮して、30〜50歳代の団塊ジュニア世代層を中心顧客として設定した。そのため、「既存のパルコより高い年齢層の大人を意識した形で、それぞれの専門店を展開している」(パルコヤの小林昭夫店長)。

たとえば、2011年と2012年に『ミシュランガイド東京』で星を獲得した日本料理店「くろぎ」は、和カフェ&バーを出店。世界的な建築家である隈研吾氏が店内デザインを手掛けるなど、隠れ家的な落ち着いた雰囲気を演出している。

上野と縁のあるブランドも展開


創業者が上野と縁の深い、老舗かばんメーカーの吉田カバンも出店(撮影:今井康一)

地元密着を意識し、上野御徒町エリアと縁の深いブランドも11店舗誘致した。「KURA CHIKA by PORTER」というブランドで出店する老舗のかばんメーカー「吉田カバン」は、創業者の吉田吉蔵氏が12歳から縫製の修業を積んだ場所が上野だった。

同様に、日本製のオリジナル帽子を揃える「CA4LA(カシラ)」も、1989年に上野で創業し、アメ横のガード下で始めた1〜2畳の帽子店を原点とする。地元民が松坂屋上野店南館の思い出として「地下であんみつ食べたよね」と話題にすることが多い、あんみつの「みはし」も再度出店している。

パルコヤは年間のテナント売上高目標が60億円と、2017年2月期の売上高が2683億円のパルコにとって、それほど収益規模の大きい店舗ではない。だが、同社の今後の経営において重要な意味を持つ店舗である。

パルコは現在、2021年度を最終年度とする中期経営計画を推進している。その中で、8件ものファッションビルの出店が決定している。

2017年度後半には、賃料固定型の小型店舗「京都ゼロゲート」を、そして2018年春には「原宿ゼロゲート」を開業。2019年春には東京・錦糸町駅前の商業施設に新業態の店舗を出店する。


パルコの牧山浩三社長は「パルコヤで培ったノウハウをパルコで吸収する」と強調した(撮影:今井康一)

2019年秋には旗艦店の渋谷パルコを建て替えて再開発する延べ床面積約6万3000平方メートル(オフィス棟など含む)の大型複合施設「新生渋谷パルコ」をオープンするほか、2021年春には大阪の大丸心斎橋店本館に隣接する北館に、パルコを出店する。パルコの大阪進出は10年ぶりとなる。

【11月4日16時15分追記】初出時「大阪進出は初」としていましたが、「進出は10年ぶり」に訂正しました。

これら一連の新店舗ラッシュが控える中、パルコは地元密着型を打ち出したパルコヤの取り組みを、今後の店舗開発に生かす。牧山社長は「パルコヤで培ったノウハウをパルコで吸収する。そして、2019年開業の新生渋谷パルコにつなげていきたい」と強調する。

大丸心斎橋店北館の再開発にノウハウ生かす


パルコヤは新たな顧客を獲得することができるか(撮影:今井康一)

百貨店と専門店の連携という意味でも、松坂屋上野店本館と隣接するパルコヤの開発ノウハウは、大丸心斎橋店本館と隣接する北館の開発に反映されるだろう。

松坂屋上野店南館の再開発は、パルコがJ. フロント傘下に入った際に、すでに計画が進んでいた。だが、心斎橋店北館の再開発はパルコが計画立案から参画する案件となる。「最初から気合いを入れて参画してくるだろう」と、J. フロント関係者は期待を寄せる。

パルコは渋谷店を休業している影響もあり、2017年度の営業利益は前期比18%減の116億円になると見込む。中期経営計画では2021年度に営業利益147億円という数値目標を掲げている。

消費者のライフスタイルの多様化、高齢化進行や人口減少、インバウンド需要の浮き沈みなど、小売り業界を取り巻く環境変化は激しい。パルコヤで新しい顧客を開拓し、その運営ノウハウを次の店舗開発につなげることができるか。今後のパルコの成長を占う意味においても、パルコヤの取り組みは1つの試金石となりそうだ。