三菱ケミカルの食品包装フィルムは、さまざまな商品のパッケージ・容器に採用されている(記者撮影)

スーパーやコンビニの棚に並ぶあまたの加工食品。商品の中身ばかりに目が行きがちだが、パッケージにもさまざまな工夫が施されている。そうした食品包装用の機能性フィルムで大きな存在感を有するのが、国内最大の総合化学メーカー、三菱ケミカルだ。

同社は2017年4月、三菱ケミカルホールディングス(HD)傘下の化学系3社(三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨン)が合併して発足。食品包装フィルムは旧三菱樹脂が主力としていた事業で、ほぼ国内のみでの事業展開ながら、年間売上高は推計で700億〜800億円。利益面でも軽く2ケタの営業利益率を誇る高収益事業である。

どんなリクエストにも応える

その最大の柱が、ハム・ソーセージやハンバーグ、水産加工品などに用いられる深絞り包装用の高機能多層フィルム。深絞り包装では、2枚のフラットシートを使って商品を包み込む。江川洋介・包装フィルム本部長は「機能を持たせるための材料設計と多層化の技術・ノウハウがわれわれの強み。どんなリクエストにも応えられる」と話す。


主力の高機能多層フィルムは、食肉加工品や水産加工品などの深絞り包装用途で圧倒的な高シェアを誇る(写真:三菱ケミカル)

密閉性や破れにくさ、開封のしやすさ、耐熱性、印刷の美しさなど、食品会社からの要求項目は多岐にわたる。それらをすべて満たすには、包装フィルムに複数の機能を持たせることが必要。その際の武器となるのが、フィルムの“多層化”だ。

フィルムの原料となる樹脂にはさまざまな種類があり、それぞれ特性も異なる。そこで、たとえば光沢感があって印刷にも適した樹脂、酸素や水蒸気を通しにくい樹脂、強度・剛性が高くて破れにくい樹脂といった具合に、いろいろなタイプの樹脂を重ねて、顧客企業のニーズに合った包装フィルムをカスタマイズで造るのだ。


アルファベットがフィルム原料を示す。特性の異なる各種の樹脂を重ね、食品各社の要求に合った高機能な多層包装フィルムを造る(注)図中にある「リジット感」はフィルムのコシ感、「耐ピンホール性」は突起物が触れた際の破れにくさを意味する(図:三菱ケミカル)

こうした技術・対応力によって、三菱ケミカルは深絞り包装用フィルムで断トツのシェアを獲得。主要なナショナルブランドの食肉加工品を例に取ると、そのシェアは5割を超えるという。低糖質食品としてコンビニの定番商品になったサラダチキンにしても、大抵は同社製フィルムを用いたパッケージだ。

年率2〜3%増の安定成長

多層化フィルムに次ぐ大きな柱が、樹脂フィルムの上にシリカ(ケイ素酸化物)を真空蒸着させたハイガスバリアフィルム。酸素や水蒸気の遮断性が高く、6カ月〜2年程度の長期保存食品に適している。印刷や製袋などの加工もしやすく、レンジなどで加熱できるタイプもある。アルミ箔を用いたレトルト包装の代替品として採用が広がり、米飯パックやシロップ漬けフルーツ、洋菓子、漬け物など多用途のパッケージに使われている。


三菱ケミカルのPETボトルは酸素遮断性が高く、ワインの保存容器としても採用されている(記者撮影)

また、調味料用途を中心とした特殊PETボトルも展開。飲料などに使用されている一般的なPETボトルは、ガラス瓶に比べると酸素を通しやすく、長期保存には適さない。三菱ケミカルが手掛けるPETボトルは、内側にプラズマコーティングを施した特殊品。通常のPETボトルに比べ10倍の酸素遮断性があり、有名ブランドの調味料やメルシャンのワイン、高級コーヒー豆店の保存容器などに採用されている。

足元の事業環境は堅調。高齢化や単身世帯の増加、女性の社会進出により、総菜類など調理済み食品の需要が増え、国内の食品包装フィルム市場は年率2〜3%増の安定成長が続いている。電子レンジ対応包装や賞味期限を延長できるハイバリア包装(酸素などを通しにくい高遮断性包装)など、高機能パッケージのニーズが高まっている点も三菱ケミカルにとっては追い風になっている。

課題もある。海外市場の攻略だ。現在のところ、同社の食品包装フィルム事業のほとんどは国内向け。事業を手掛けてきた旧三菱樹脂自体が超ドメスティックな会社だったため、海外展開に必要な知見が社内になく、食品包装フィルム事業の部隊も実質的に国内市場だけで商売をやってきた。


ハイガスバリアフィルムは長期保存品に適している(記者撮影)

しかしその三菱樹脂は、2017年4月に三菱化学、三菱レイヨンと合併した。「経営資源を1社に集中し、技術で高い付加価値が得られる高機能材料を拡大させる」(越智仁社長)ためのグループ内再編で、独自技術を有する食品包装フィルムも新会社の成長エンジンとなる重点戦略事業の1つに位置づけられた。そこで経営陣から至上命題として課せられたのが、手つかずだった海外への本格展開だ。

最初のターゲットは東南アジア

米国への進出も検討中だが、最初のターゲットは東南アジア。現地に専用の工場を立ち上げる計画で、すでに立地や設備規模などはほぼ固まったという。早期に社内で正式決定し、遅くとも2019年には東南アジアでの商業生産を開始したい考えだ。

世界で最も高機能な食品包装フィルムが用いられている日本と違って、現地ではまだロースペック品が当たり前。しかし、「人口の伸びや経済成長力を考えると、東南アジアは非常に有望な市場だ」と江川本部長は期待を込める。「コンビニが急速に普及しているタイをはじめ、東南アジアで高機能包装フィルムの需要は必ず出てくる。まずは現地のニーズに合った製品を提供し、先んじて市場を押さえたい」(同)。

独自技術を武器に海外需要をどれだけ取り込めるか。三菱ケミカルのフィルム事業にとって、次の成長に向けた大事なステップになる。