セレブキッズたちもアニメや漫画が大好きだ(写真:Syda Productions/PIXTA)

ニューヨークで漫画家デビューをして以来、子どもに漫画を教えてほしいというリクエストが増えプライベートレッスンを開くようになりました。ありがたいことに、今ではウェイティングリストができるほどになりました。

私の生徒たちは、年齢は6歳から18歳までと広く、国籍もバラエティに富んでいます。共通しているのは、ほとんどが、親が金融会社のトップだったり、著名投資家だったりと裕福なマンハッタンに住むセレブキッズということ。レッスンで自宅を訪ねると、「これは城か!」と叫びたくなるような豪邸に住んでいたり、お抱えのシェフお手製のおやつを出してくれたりと、これまで触れることのなかったセレブの生活につねに驚きと発見を感じる日々です。

なぜセレブが漫画教室に?

私の教室にセレブキッズがやってくるきっかけを作ってくれたのは、ニューヨークの美術館で開いた漫画教室で出会った小学校2年生、クロエのお母さん。彼女はとんでもない人脈の持ち主で、あれよあれよという間に口コミで私の名が広がっていきました。ニューヨークはネットワーク次第でいくらでもビジネスチャンスをつかむことができるのだと痛感しました。

ニューヨークのセレブキッズがなぜ漫画教室に通うのか。理由の1つは、子どもたちのスケジュールにあります。州によって異なりますが、アメリカでは12歳以下の子どもを1人で留守番させるのは幼児虐待にあたるとして法律で禁止されています。ニューヨークのように共働きカップルの多い夫婦は家にいないことが多いので、家族が家に戻る時間まで習い事を詰め込むパターンが少なくないのです。

もう1つは、今の子どもたちが日本のアニメや漫画を見て育ってきていることがあります。「サザエさん」や「ドラえもん」が日本の国民的アニメであるのと同じように、こちらでは多くの子どもが「ポケモン」を見て育ってきています。

子どもの頃からアニメや漫画になじんできた子どもは、見たり読んだりするだけでは満足せず、「自分もアニメや漫画を書いてみたい!」となるわけです。特にニューヨークの子どもたちは好奇心旺盛で競争心が強いので、とにかくやらないと気が済まないようです。

「漫画のレッスンを受ける=漫画家になりたい」というわけではありません。日本ではアニメや漫画の専門学校があるくらいですから、「職業にしないのになんで勉強するの?」という疑問を持つのかもしれません。

ですが、私の生徒たちはむしろ、漫画というアートスタイルに興味を持っている子が多く、中にはアートスクールを目指して本格的にアートに取り組んでいる子もいます。こうした子たちには率先してデジタルで漫画の編集するやり方を教えています。多くの子たちは、アイパッドでイラストを描いているので、プロ仕様に慣れるようにフォトショップやイラストレーターでの編集を教えてあげています。

「人見知り」だった子が…

自閉症の子どもたちの表現の場としても漫画は活用されていると感じます。私の生徒にも自閉症の子どもたちがいますが、個人的に思うのは、彼らはともかく想像力が豊か! アニメから受けた影響を言葉でうまく表現できなくても、絵で表すことにとても長けているのです。そして、それが自信につながっていく。学校の授業には集中できないけど、アニメや漫画なら何時間でも楽しめる。その集中力を漫画のレッスンを通じて伸ばしてほしい、と考えて子どもを通わせているケースもあります。

また、中高生の生徒のほとんどはいわゆる人見知りタイプで、学校ではなかなか友達ができないという子が少なくありません。中にはいじめにあって転校したり、目を合わせて会話ができなかったりする子もいます。

こうした生徒は、自分の趣味を磨くことで美術のスキルを上げようと漫画レッスンを受けにきたパターンが多い。最初は無言でしたが、いろいろ質問していくうちに、何かたまったものをはき出すようにものすごい勢いで話すようになりました。親にはなかなか言えない学校の話や自分の不安を、絵を描きながら話すのです。こうして心を少しずつオープンにしていくことも、レッスンの一環かもしれません。

通う子ども、通わせる親の思いはそれぞれ。親たちの多くは、異文化や新たな世界に触れさせることで、子どもの感性や感受性を豊かにしたいと考えているようです。レッスンを始めた当初は、漫画の描き方を教えることのみが目的でしたが、こうしたさまざまな境遇にいて、感性を持った子どもも触れ合っていくうちに、私の漫画教室は「総合学習」の一環なのだという自覚を持つようになりました。

さて、ここからは私の生徒であるセレブキッズから垣間見られる、マンハッタンのセレブキッズ事情を紹介したいと思います。

1.休みは日曜だけ!

子どもの頃、ピアノやスイミングを習っていたという読者も少なくないと思います。今では、ダンス教室や英会話教室に通う子もいるでしょう。それでも、土日まで習い事びっしり……はあまりないですよね。

ママたちも異常に忙しい


ところが、マンハッタンのセレブキッズは前述のとおり、両親が仕事を持っているパターンが多いので、平日は習い事ずくめ。週末となれば、ニューヨーク郊外にあるセカンドハウスで過ごす家族が多いのですが、そこでも習い事をしているほどです。6、7歳でこのスケジュールですから、大人の私なんて文句言えません。

2.ママの予定も分刻み

セレブキッズは親も多忙です。私の生徒のパパさんたちは、ウォール街の金融企業に勤めているパターンが多く、高収入のため妻は専業主婦が少なくありません。にもかかわらず、彼女たちもあまり家にはいない。

なぜかというと、ボランティア活動だったり、ジム・スパ通い、自分たちの習い事など、自分の予定でびっしりだからです。子どもたちと過ごす時間すら、グーグルカレンダーに入れてリマインドしているほど。「セックス・アンド・ザ・シティ」の世界が本当にあるとは、セレブキッズに漫画を教えるまでは想像もしていませんでした。

3.自分が絶対一番

なぜアメリカ人はこんなにも自信家なのか、子どもたちをみてわかるようになりました。あるグループレッスンでのこと。習っているのはいずれも小学校3年生のアルゼンチン系アメリカ人、韓国系アメリカ人、ブラジル系アメリカ人の女子たちなのですが、お互いへの競争心が半端ないのです(笑)。

1人があるキャラクターを描き出すと、みな同じキャラクターを描き始め(ここまではかわいい)、それぞれ比べながら「自分が一番うまい」と自信満々に発言。最後には私に順位を決めるように頼んでくる始末。とにかく自分が一番じゃないと気が済まないのです。

さらに、セレブキッズ特有の会話があります。それは親自慢。父親がどれだけ海外出張をしているか、出身大学はどこか(ほとんどがハーバードやケンブリッジだったりします)、勤めているのはどこか(投資家や証券会社のトップというパターンが多い)……。これがレッスン中延々と続きます。私のパートナーの話が出たときには、「ミサコの彼も投資家なの?」と聞いてくる。アメリカ人の負けず嫌いと強気発言は子どもの頃からこうして鍛えられているのだと実感しました。

小学生にロボットデザインの家庭教師

4.ありえない習い事

「みんなが習っているから私も」という感覚はニューヨークの子どもたちにはありません。私の生徒たちも、びっくりするような習い事をしている子が多いので、ここでいくつか紹介しましょう。

まずは、フェンシング。4年生の女子ですが、瞬発力を伸ばすという理由でもう2年ほど習っているそうです。ロボットデザインの家庭教師をつけている小学生男子もいます。小学生ですでに3Dプリンターを使って、ラジコンを一から作るというのだからビックリ。ファッションデザイナーを目指している子は、プロ仕様のミシンを購入して、ファッションデザイナーの卵を先生にデッサンから習っています。

ブロードウェイに出たい!という子も結構いて、ある兄弟は家にボイストレーナーを呼んで1時間半みっちりトレーニングを受けているのだとか。私が家にお邪魔して、弟に漫画を教えていると、上からお兄がオペラを歌う声が聞こえてきたり……。兄弟そろってこうした芸術系の習い事をしている家は少なくありません。


マンハッタンで開くグループ展のポスターには、実際に子どもたちが描いた漫画を使っている

とにかくセレブキッズは、「やりたい!」というものがあったら、親が家庭教師(しかも一流)を見つけてくるのが当たり前。私が昔住んでいた中西部のミズーリ州などでは、こんな習い事をしている子どもをみたことがありませんでした。自らの個性を磨き、可能性を広げられるセレブキッズたちをうらやましいと思いながら教えています。

来月マンハッタンで生徒たちのグループ展「マンガ・マニア・アート・ショー」を開きます。アニメ・漫画という趣味を通じて、新しい世界を発見したり、友達の輪を広げる機会になればいいな、と思っています。