メタモは数億円を調達する計画だったが……

「なぜこの額しか集まらなかった?」

「プロジェクトの内容はいいと思うが……」

そのような疑問を海外の投資家から投げかけられたのは、仮想通貨を使った新しい資金調達手段として世界的に注目を集めているICO(イニシャル・コイン・オファリング)を実施したベンチャー企業・メタモ代表の佐藤由太氏だ。

今年3月に佐藤氏を中心に設立されたメタモは、8月15日〜9月1日にかけてICOを行った。日本国内企業によるICOの第1号案件とされている。気になる調達額はなんと約3万ドル、日本円にすると300万円超で終わった。ICOに応じたのは54人。うち8割が海外だった。

メディアで報じられる国内外のICO案件は100億円超の資金を集めているものもある。メタモも数億円単位で調達する算段だったというので不発に終わったといえる。少額しか集められなかった理由をみていくと、現在のICOを取り巻く実情も浮き彫りになってくる。

ICOはトークンを販売して資金を調達する

『週刊東洋経済』10月30日発売号(11月4日号)の特集「ゼロから分かるビットコイン」では、ICOについて詳しくレポートした。その仕組みは次のように説明できる。

ICOを行うのは、新しいサービスの開発・提供を考えているベンチャー企業や開発者チームなどの集団だ。提供する予定のサービスにおいて何らかの形で使用できる「トークン」を発行・販売し、そのトークンを購入してもらうことで資金を集める。


トークンはサービスの引換券のイメージに近いこと、仮想通貨であるビットコインやイーサリアムなどでトークンの購入代金を支払ってもらうことの2点がポイントだ。企業などは受け取った仮想通貨を仮想通貨取引所で売却してドルや円などの法定通貨に交換し、サービス開発の資金とする。

販売後のトークンに価値があると見なされると、そのトークンは取引所に上場されて売買が可能になる。この上場期待があるからこそ、サービス普及時にトークンが値上がりすることを見込む投資家層をも取り込むものとなった。

メタモのICOが少額に終わった理由は大きく2つある。1つはトークンの価値上昇というストーリーをうまく伝えられなかったことだ。

インターネット上で公開されトークン購入の判断材料となるのが、「ホワイトペーパー」と呼ばれる文書だ。事業展望や調達資金の使い道などが記載されている。

「ゼロから分かるビットコイン」特集では、実際のホワイトペーパーを外部の識者に論評してもらった。評者は、日本デジタルマネー協会代表理事の本間善實氏、創法律事務所代表弁護士で日本ブロックチェーン協会顧問の斎藤創氏、『海外ETFとREITで始める インカムゲイン投資の教科書』などの著書である投資家の玉川陽介氏である。

メタモのホワイトペーパーも読んでもらったが、トークンの価値上昇については3人ともに否定的な見方だった。事業の将来性を問う以前に「ホワイトペーパーを読んでもトークンの価値の源泉が何かがよくわからなかった」(斎藤氏)とする指摘も出た。

メタモが目指す「個人が持つスキルの可視化」  

メタモが目指しているのは「個人が持つスキルの可視化」だ。

求職時に個人は自分の職歴をアピールすることになるが、就労実績を証明する情報は多くの場合、それまでに勤めていた企業が所有・保管している。そのため個人自らが出せる情報は客観性に乏しくなる。フリーランスやパートタイマーだと、出せる情報がそもそも少ない。

結果として、企業は試用期間を設けたり賃金を一定期間安く設定したりして様子をみることになる。個人はその不利益を受け入れざるを得ない。

そこでメタモは労働者自身がスマートフォンのGPS(全地球測位システム)位置情報を用いて勤務状況を記録する仕組みを作った。今後はこの仕組みをベースに就労実績が証明できる人を企業に紹介していくというサービスも計画している。企業が紹介料を支払う際にメタモの発行するトークンを使えるようにするなどして、トークンの利用範囲と価値を高めるという。

ただ、取材を通じてもメタモが発行するトークンの価値がどう上がっていくのかは正直わかりにくかった。そのような指摘については、「関係各所との調整も必要なことからホワイトペーパーには記せないことも多かった」と佐藤氏は説明する。

前述した評者の指摘には次のようなものもあった。


メタモが作ったホワイトペーパー

「ホワイトペーパーはきれいに作られているが、学生の妄想や絵空事のような話が多い。これがベンチャーキャピタルへの説明であれば門前払いであろう。夢を語るパンフレットにすぎない」(玉川氏)

「プロジェクトの実現性が全体的に低そうで、内容もフワフワしている。とはいえチームメンバーが若く、文章からは誠実そうな雰囲気を感じる。『チームを気に入った、応援したい』というならトークンの購入はありかも」(斎藤氏)

この両者の意見、どちらかが正しくてどちらかが的外れというわけではない。ICOとは「予定していた開発は絵空事に終わるかもしれないが応援したい」というワリキリで、資金を出すものとも言えるからだ。

ICOの成否を左右するPRも不足

メタモのICOが少額に終わった2つめの理由はPR不足だ。その点については佐藤氏も自覚している。

事前告知の期間からして2週間前後と短かった。まずはやってみようという思いが強かったのだという。さらに一般へのPRはプレスリリース配信代行サービスで行っただけだった。

そうしたことを踏まえると、調達額3万ドルという結果はある意味当然だったのかもしれない。だが、意識的にPRを押さえたという事情もあるようだ。ICOの現状に対しては、「PRにおカネをどこまでかけるかでICOの成否が決まってしまう」という佐藤氏なりの問題意識があったという。次のようにその思いを吐露する。

「自社のICOをブログで取り上げてもらうために人気ブロガーと会食して接待したとか、『こういう人もこれだけ自社のトークンを購入した』という話題を作るために一般の購入者には秘密の割安価格で著名人に購入してもらうといった話をよく聞く。そのようなやり方は不健全なうえに、ベンチャー自身も食い物にされていると感じる」

これはあながち佐藤氏の負け惜しみというわけでもない。「誰が何を言って、何を買っているのか」「おカネの集まりの状況はどうなっているのか」が、トークン購入の判断基準になってしまいがちな現状を反映したものではないだろうか。

メタモのケースからもわかるように、ICOはまだ確固としたものではなく手探りの状況で進められている。それもあって「ベンチャーなどにとって簡単におカネを生み出せる『打ち出の小槌』になっている」など、さまざまな批判が聞かれる。


だが、東京と米シリコンバレーに拠点を置くベンチャー投資育成会社・WiLの久保田雅也パートナーはICOが登場したことの意義を次のように語る。

「最近のベンチャー企業が手掛けるサービスは、ネット上のサービスやシェアリングエコノミーなど『ユーザーコミュニティ』や『ネットワーク効果』に企業価値を依存するものが増えている。

しかし企業価値の拡大に貢献している一般ユーザーには利益の還元が十分にされない一方、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルのみが『成長の果実』を手にする不平等な状態にある。また、これまでオープンソースのソフトウェア開発はマネタイズが難しく資金調達も難しかったが、ICOであればトークンを通じて貢献したエンジニアが価値を享受できるため、協力するインセンティブが湧く。

ICOは、企業のステークホルダーたるユーザー、社員、投資家の3者の利益を一致させる画期的な仕組みだ」

「ICOが投資の民主化をもたらす」

久保田氏の発言にある「ネットワーク効果」は、平たくいうと一般の利用者や関連サービスを提供する企業が増えれば増えるほどサービスの利便性や質が向上していくというものだ。

フェイスブックなど「プラットフォーム企業の価値の源泉は一般ユーザーにある。サービスの享受者たるユーザーは、ICOを通じてトークンの保有者となり、ネットワークの価値が上がることで経済的な利益を得ることができる。「ICOが投資の民主化をもたらす」というわけだ。

規制議論が出てくるなどICOは世界的に過渡期を迎えている。久保田氏のような視点も含めて、あるべき姿を模索する段階に入っているようだ。

週刊東洋経済10月30日発売号(11月4日号)の特集は「ゼロから分かるビットコイン」です。