当面は都政に邁進。2日午後、 2019年日本開催のラグビーワールドカップの成功に向け、ワールドラグビーのビル・ボーモント会長(左から4人目)らと懇談した小池百合子都知事(写真:共同)

半世紀前、「夢もチボー(希望)もない」という自虐的なギャグが流行したが、口さがない永田町では、政権交代に狙いを定めて自ら立ち上げた希望の党が10.22衆院選で"大コケ"した小池百合子東京都知事の心境に「ピッタリ」との声が広がる。漁夫の利の自民圧勝で、何事もなかったように「1強政治」を維持し、初来日したトランプ米大統領との親交を得意満面で世界にアピールする安倍晋三首相との対照が際立つからだ。

安倍1強打倒を狙った希望の党の敗北に、小池氏は「国政は国会議員にお任せ」と生き残った当選議員に国会運営などの政務を丸投げし、「都政に専念」と自らの城である都庁に引き籠った。結党時から「独裁者」と呼ばれた小池氏の戦線離脱で司令塔を失った希望の党は、党名とは真逆の「絶望の党」などと揶揄され、国政のリーダーとなる共同代表も決められないまま特別国会を迎えるというぶざまな姿をさらした。

元キャスターの小池氏が、これまで自由自在に操ってきたはずの民放テレビ各局が、選挙後は一斉に"小池叩き"に転じ、1日の特別国会召集以降は、政治好きな情報番組からも小池氏の姿が消えた。衆院議員だった2年前の地元選挙区でのハロウィンイベントで「魔法使いユリー」と称する奇抜なコスプレで愛嬌を振りまき、都知事となった昨年は「リボンの騎士」の主人公・サファイアのいで立ちで登場した小池氏だが、今回は選挙敗北もあってか、直前に出演を取りやめた。

都知事としての支持率急落で都政運営の前途も厳しくなり、政界では「政治家・小池はもう過去の人」との声もささやかれる。

3連休もイベントをはしご、活動ぶりを次々発信

しかし、選挙後に都政に戻った小池氏は、分刻みのこれまで以上に過密なスケジュールをこなし、3日からの3連休も、休日返上で大学祭やモーターショーなど数多くのイベントをはしごしている。その間、インターネットで活動ぶりを次々と発信するなど自己アピールにも余念がなく、なお「次の勝負のチャンス」を虎視眈々と狙っているようにもみえる。

7月の都議選で自らが代表となった地域政党「都民ファーストの会」の圧勝で、都議会制圧に成功した小池氏だが、都議選共闘で小池与党となった公明党との関係が衆院選後には微妙になった。東京の多くの小選挙区で希望の党が「自公勢力」と戦ったためだ。山口那津男公明党代表は「東京五輪もあり小池都政は支える」と言うが、公明党都連は「全面協力とはいかない」(幹部)というのが本音だ。都議会自民党を歴史的惨敗に追い込んだとはいえ、公明党の協力がなければ都政運営は厳しく、予算案など重要法案の円滑な成立もおぼつかなくなる。

しかも、「小池チルドレン」と揶揄され、対外発信まで禁じられた都民ファースト都議達には不満がくすぶり、先輩都議でリーダー格だった音喜多駿、上田令子両都議は衆院選直前に「党運営が独裁的」と小池氏に三下り半を叩きつける形で離党した。そもそも同党新人都議の多くがにわか仕立ての素人政治家とみられており、だからこそ小池氏側近がマスコミ露出禁止令を出したのだが、今後はその「素人集団」が都政運営での足場となるだけに、小池氏の不安は拭えない。過半数近くからわずか23議席に転落した都議会自民党は"小池憎し"で結束し、国政で連立を組む公明とも意を通じながら"知事いじめ"を画策する。

首相の解散表明直前に小池氏が希望の党結党と代表就任を宣言した時から、都民らの批判の的となったのが都政と国政の「二足の草鞋(わらじ)」だった。これに対し小池氏は、選挙戦で「連携」した日本維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)や同党創業者の橋下徹前大阪市長の存在を挙げ、「文句があるなら彼らにも言ってよ」と不満をあらわにしていた。

希望の党との共倒れによる議席減で松井代表を「責任追及」した同党若手議員を、ツイッターで「ボケ!」などと罵倒した橋下氏は「今でも維新の独裁者」(自民幹部)と位置づけられているが、小池氏は選挙後に国政関与をあっさりやめた。側近は「リーダーとしての潔さ」と解説するが、永田町では「形勢悪しとみれば素早く逃げる。いつもの小池流だ」(自民幹部)との見方が支配的だ。

「結党の理念」崩壊なら代表辞任も

"小池離れ"した希望の党は、党規約などを改訂して共同代表選挙を8日告示・10日投票の選挙日程で実施し、国政上の「党首」を決める。小池氏は「国会議員が活発な議論を展開するのを見守りたい」と静観の立場を強調し、立候補に意欲を見せる玉木雄一郎元民進党幹事長代行らとの表立った接触も控えている。ただ、共同代表選では小池氏の「排除」発言の前提となった「憲法改正」や「安保法制」の支持に加え、野党連携も争点となる。

代表選の結果、希望の党の「改憲・安保法制支持」への不満が露呈し、希望の公認からの「排除」でリベラル勢力代表として躍進した立憲民主党との再結集を模索するような状況となれば、「小池氏が黙ってはいない」(周辺)との見方は根強い。「政権を担えるもう一つの保守党」という結党の理念が崩れれば、「小池氏が党代表を続ける意味がなくなり、辞任にもつながりかねない」(同)からだ。

昨夏の都知事選を「百合子グリーン」の"戦闘服"で圧勝した小池氏は、都議選に続き、衆院選でも鉢巻やたすきにレインコートまでグリーンで統一して選挙を戦い抜いた。まさに「緑のたぬき」の面目躍如だ。ただ、選挙戦最終日の10月21日夜に離日し、パリで迎えた開票日(同22日)夜のテレビなどでの党首リレーインタビューからは、黒を基調とした装いで対応した。

特に、開票翌日(同23日)にパリ市内で行われたキャロライン・ケネディ前駐日米大使との対談では、燃えるようなオレンジのラインで縁取りされた黒のスーツ姿で「衆院選では鉄の天井があった」と笑顔で敗北宣言した。しかも、帰国直後から連日となった希望の党両院議員総会などにも、同じ上着で出席し続けた。「着回しの天才」を自認し、イベントなどに合わせて1日に2、3回着替えることも少なくない小池氏が、テレビカメラを前にほぼ同じ服装で通したことは極めて異例だ。

小池氏をよく知る政界の友人は「黒は喪に服すという意味だろうが、オレンジの縁取りに『まだまだ、心は燃えている』という気持ちを込めたのでは」と読み解く。確かに、選挙後に専念する都政の場では、都知事当選後に「小池都政のシンボルカラー」としたブルーオーシャンを表現する鮮やかな青色を取り込んだ装いで、襟元には同色系の東京五輪カラーの市松模様のスカーフ(風呂敷)を巻いている。

五輪後の20年秋が「次の勝負」に

小池氏側近なのに落選して政界引退を表明した若狭勝前衆院議員は、選挙公示前に小池氏出馬をめぐる「出る出ない」論争を冷却する狙いで「(小池氏の目指す政権交代は)次の次の選挙」と口を滑らせ、小池氏に叱られたと語った。しかし、今回の小池氏の政治的行動を見る限り、若狭氏の想像は「間違ってはいない」(小池氏周辺)と見る向きが多い。

小池氏が当面、東京五輪成功に向け、小池都政の実績を積み上げることを目指して都政にまい進するのは「『次への希望』に向けた土台作り」(周辺)とみられるからだ。中長期の政治日程をみれば次の都知事選は東京五輪直前の20年7月となる予定。さらに、今回の衆院選結果から、次の解散・衆院選は五輪終了後の20年秋が「本命」とみられている。首相が来年9月の自民党総裁選で「3選」し、小池氏が次期都知事選で再選されれば、両氏は国と東京のそれぞれのリーダーとして五輪成功に取り組むパートナーとなるわけだ。

もちろん、自民党内には「小池氏の再選は絶対阻止する」と息巻く向きも多いが、五輪直前の都知事交代は「政治的には無理筋」(都議会公明党)でもある。首相や小池氏だけでなく「4大権力」とされる政・財・官・マスコミ各界がこぞって五輪成功を目指すことになるだけに、とても「政界の権力闘争」をしている場合ではない。首相ら政府与党首脳と小池氏が、互いに直接攻撃を控えるのは、「いやでも協力せざるを得ない」(政府筋)との実態が分かっているからだろう。

となると、若狭氏の言う「次の次」とは五輪後の解散・衆院選となる。小池氏にとって、東京五輪成功という実績を引っ提げて都知事を辞職し、国政復帰を狙う「最後のチャンス」というわけだ。小池氏自身が今回衆院選での希望の党結党を「長期戦略の第1ステップ」と位置付けていれば、選挙不出馬の謎も解ける。ただ、敗北して野党第1党にもなれなかった選挙結果は、小池氏の「大きな誤算」だ。だからこそ、いったん国政からは身を退き、都政での巻き返しに賭けるとみられているのだ。

五輪を迎えた時点での小池氏は68歳。「国政復帰して首相を狙えるぎりぎりの年齢」(首相経験者)となる。ただ、それまでに都政で都民の期待に応える実績を上げる一方、国政の足場となる希望の党が「政権を狙えるもう一つの保守党」として存在することが、転身の前提条件となる。しかし、現時点では「どちらの条件もクリアできる見通しがつかない」(小池氏周辺)のが実情だ。

"政界の女優"のままなら「次」はないが…

政治家・小池氏の人物像を描くべく取材を続ける気鋭の女性ノンフィクション作家は、これまでの取材結果から「小池氏は政界を舞台とする女優」だと分析する。計算しつくされたメデイアへの露出戦術や、さまざまな質問や批判に対する当意即妙の応答とカメラのファインダーを通じて見る者を引き付ける表情や仕草は、まさに政治家というより女優にみえる。しかし、「それでは所詮、政界のあだ花で、トップリーダーにはなりようがない」(自民長老)のは明らかだ。

今年、昼のテレビドラマで多くの高齢者の高視聴率を獲得したのが民放テレビの「やすらぎの郷」だ。年老いた芸能界の大御所がひそかにつくった芸能人専用高齢者施設を「最後の住処(すみか)」として集った元有名女優たちが織りなす悲喜こもごもの挿話が、高齢層の視聴者を虜にしたからだ。手がけた脚本家の意図は「女優は最後まで女優である」ことを描くことだったとされる。

「夢もチボーもない」といって一世を風靡したのは、前回東京五輪前後のテレビ創成期の芸能番組で人気を博した、東京ぼん太という芸人だ。作新学院の高校野球選手から、職業を転々として芸能界にたどり着いた苦労人。濃い緑色の唐草模様の風呂敷包みを背負って「夢もチボーもないよ」「イロイロあらあな」などの栃木なまり丸出しのギャグが大うけしたが、事件を起こして芸能界を追われ、病に倒れ早逝した。

挫折しても「夢と希望」を失わない小池氏と比べるのはおかしいが、「夢も…」のギャグだけでなく、百合子グリーンと色が共通する東京ぼん太氏の唐草模様の風呂敷は、なぜか小池氏愛用の市松模様の風呂敷も連想させる。小池氏が前回から56年後の東京五輪で大輪の花を咲かせることで、「真の政治家」として初の女性首相を目指せるのかどうか…。小池氏の勝負はまだまだ続くことは間違いなさそうだ。