過剰なランニングで「低テストステロン症」に(depositphotos.com)

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 深まる秋、青空の下で身体を動かすのが気持ちよい季節になった。運動不足を解消するためにウォーキングを始めた人もいれば、「今シーズンは、あのレースに出よう」とトレーニングにますます熱が入る市民ランナーも多いことだろう。

 熱心なランナーには、1シーズンに何度もフルマラソンやハーフマラソンの大会に出場する人が少なくない。当然、トレーニング量もそれに比して多くなる。そして以前から指摘されてきたのが、「走りすぎ」による弊害だ。

 ランニング人気に後押しされて年々増え続けるマラソン大会では、参加者の事故が増えており、中には心肺停止などの深刻なケースも散見されている。そして実はこうしたトラブルの背景には、主要な男性ホルモンである「テストステロン」の低下が関係している可能性があるという。

過剰な運動が「低テストステロン」を引き起こす?

 この報告を行ったのは、よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック院長の奥井伸雄氏。スポーツ大会で心停止などを起こしたトラブル症例の検討から、「スポーツ大会における心停止などのトラブルは、日常生活での過剰な運動による『低テストステロン症』に関連する」とする仮説を、9月に開催された「第28回日本性機能学会」で発表した。

 テストステロンは一般的に男性ホルモンと言われるが、実は女性にも分泌されている。性行動や性機能面で重要なホルモンであると同時に、男女の関係なく筋肉量と強度を保ち、造血作用も担う。

 また精神面でも、集中力の維持やリスク回避などの高次脳機能に関わっている。加えて、体にたまった活性酸素を取り除く作用も持つ。

 このテストステロンが低下する病気が、LOH(late-onset hypogonadism)症候群。日本語では「加齢男性性腺機能低下症候群」といい、頭痛や不眠、筋肉の減少、骨がもろくなるなどさまざまな不調が表れる。

 精神面にも大きく影響し、意欲が衰え、気持ちが沈みがちになってしまう。脳血管疾患、心筋梗塞、がんなど、命にかかわる病気のリスクも高くなる。

 自らマラソンを趣味とし、市民ランナーを診察することが多かった奥井氏は、熱心に練習するランナーにLOH症候群とよく似た症状が見られることに気付いた。

 そこで、自身が医療班として参加したスポーツ大会でトラブルを起こして外来受診を促した参加者のうち、同クリニックを受診した40歳代、50歳代の60例について、テストステロンなどを調べた。そして、過去3カ月間にスポーツ大会でケガをしていない健常者(20例)及び同クリニックに通院中のLOH症候群の患者(10例)と比較した。

 その結果、1カ月当たりの走行距離は、ケガの経験がない正常群で150±32km、LOH群で46±11kmであるのに対し、大会でトラブルを起こした群では250±51kmと有意に多かった。またトラブルを起こした群は、LOH症候群で治療を受けている患者よりも総テストステロンが低くなっていた。

 さらに、LOHの診断に使われる「AMSスコア」でも、トラブルを起こした群は不眠と性機能障害で点数が高い特徴があったという。

「月200辧廚トラブルの過多を分ける

 奥井氏はこうした知見から、「日常的な運動のしすぎが心臓に負担をかける」とともに「低テストステロン症を引き起こし、性機能の低下を招いた」と推測。テストステロンの低下による何らかの影響が、スポーツ大会でのケガや心停止などのトラブルにつながったのではないかと考えている。

 では月にどれだけトレーニングをすると、テストステロンの分泌が急低下してしまうのか? それについて同氏は、45〜55歳の市民ランナー44人(男性33人、女性11人)について、1カ月間の走行距離と血中テストステロン濃度との関係を調べた。

 その結果、「月間走行距離が100〜120km程度」の人が、男女とも最もテストステロン値が高いことがわかった。そして、「月間走行距離が200kmを超える」とテストステロン値が急に下がることも確認できたという。

 月に200劼箸いΦ離は、熱心に大会に参加する市民ランナーにとっては非現実的な数字ではない。初心者が月200劼鯡槁犬縫肇譟璽縫鵐阿鮖呂瓩襪里呂瓦普通のことだ。しかし、それに危険が伴うことを忘れてはいけない。「全身倦怠感」「不眠」「性機能低下」などの自覚症状が出た場合は、低テストステロンに陥っている可能性がある。

 トレーニングはできるだけ「月120劼鮠絽臓廚砲靴董▲好ぅ爐筌肇譽ぅ襯薀鵐縫鵐阿覆匹鮗茲蠧れて質を上げること。また、「1度フルマラソンを走ったら、少なくとも3カ月のリカバリー期間を取る」ことを奥井氏は呼びかけている。

 中高年ランナーはとかく頑張りすぎてしまう人が多い。元気で楽しく走り続ける続けるためにも「休息も大切なトレーニングの一環」であることを肝に銘じよう。
(文=編集部)