写真・文/野口さとこ

京都市右京区油掛町。京福電気鉄道嵯峨嵐山線、鹿王院駅から北へ5分ほど歩くと、どこからともなく 酸化した油の匂いが漂ってくる。

探す間もなく、有栖川沿いの四つ辻になっている場所の一角に油掛け地蔵尊のお堂を見つけた。お堂を覗くと、大きくて立派なお地蔵さまが強烈な油の匂いを放ちながら、お身体を黒光りさせて鎮座していた。

お堂に掲げてある由緒書きによると、鎌倉中期に造られた石仏で、300年以上前から油を掛けて祈願する風習があったということである。

こちらの油掛け地蔵尊は、お地蔵さまと呼ばれながらも、大日如来ではないかと思われていたが、1967年8月22日に地蔵奉賛会の方々によって油落しが行われ、油を綺麗に取り除き、素の姿になった石仏に刻まれた定印から、実は阿弥陀如来だったということが判明したそうである。

たまたま近所のご老人がお参りに来られたので、お話を伺ってみると、油を取り除いて見るまでは、分厚い油の層に覆われて、どんなお顔をしているのかさえ分からなかったのだとか。

私もお地蔵さまに油を掛けてお参りさせていただいた。

油の入った容器と杓子が用意されており、この油をお地蔵さまに掛けてお参りする。新しい油のボトルが、お堂の横の集会場に数本用意されているのが見えた。

4月の花祭りにお釈迦さまに甘茶を掛けて祈願したり、お地蔵さまや不動さま、ご先祖さまの墓石に水を掛けてお参りするなど、水を掛けてお参りするスタイルはよくあると思うが、油をかけるというのは、そうそうお見かけすることはなく、不思議な光景だった。

【参考文献】
『京の地蔵紳士録』岡部伊都子著(淡交社)
『京の石仏』佐野精一著(サンブライト出版)

写真・文/野口さとこ
写真家。北海道小樽市生まれ、京都在住。1998年フジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。2011年 写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで作品が展示される。2014年より、移動写真教室“キラク写真講座”を主宰。可愛くてあたたかい、そんなお地蔵さまの魅力に取り憑かれ、お地蔵さま撮影のため全国津々浦々を旅している。http://www.satokonoguchi.com/