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もくじ

ー メタルルーフ方式について一言
ー メルセデスのオープンは恐ろしく高い
ー ターボにシフト あるいはNAにこだわる
ー CLK350、S4 大きく異る部分
ー 335iカブリオレ 不利な部分も
ー AUTOCARは何を選ぶのか?

メタルルーフ方式について一言

3年ほど前のことだった。1シリーズの発表会の夕食の席で、BMWの車体担当のエンジニアの隣の席になった。そして、彼と車体剛性に関してしばしディスカッションを交わした。会話は予想外に盛り上がり、話題が徐々に広がって、そのころ市場にお目見えしはじめた電動開閉式のメタルルーフのことに及んだ。そのときBMWの車体エンジニア氏は、彼自身の個人的見解をオブラートに包んだりせず「あれはダメだね」と言い放った。

「まず第一に重すぎる。それにスタイリングを格好よくまとめるのがおそろしく難しい。そしてなにより車体剛性があの方式だと十分に確保できない」

彼は「英語だとwibbleとかwobbleとか表現するんでしたかね」と言いながら、自分の手でそのありさまを表現してみせた。その様子はわたしにトランポリンの上で震えるゼリーを想い起こさせた。

それから31カ月が経って、わたしの目の前にBMWのニューモデル、335iカブリオレ(欧州名称コンバーチブル)が、その開閉式メタルルーフを陽光にきらめかせて停まっている。

今日ここで335iカブリオレは2台のライバルたちにまみえて良否を巡って争い、かつ同時にBMWがこれまで固執していた布幌式トップに対する優位性を証明しなければならないのだ。

電動開閉式メタルルーフ。それはCO2排出問題のように話がややこしくない。それは機械工学や物理学の必然からではなく、単に市場要求から生まれた必然なのだから。

この世でただひとつの例外はマツダ・ロードスターRHTで、これは重量増による走りの悪化を頑なに嫌った貴島主査のこだわりから、可動式ルーフを軽い樹脂で作ってきた。

そう、メタルルーフ方式はルーフを閉めたときに居住性がクーペと変わらないという利点の裏に、重量増というネガを持っている。

この335iでいえば、クーペの車重が1620kgなのに対し、カブリオレは1820kg。なんと200kgも重いのだ。335iカブリオレの自己肯定は、この事実ひとつをみてもなかなか難しい仕事と言える。

メルセデスのオープンは恐ろしく高い

335iは3シリーズ・カブリオレの最上級モデルである。最高出力は310psで、0-100km/h加速の公称データは5.8秒。ちなみにこれは335iクーペのそれの0.1秒遅れの数字だ。

これに相対するライバルは、もちろんドイツ御三家の競合2社、すなわちアウディとメルセデスの対抗商品だ。アウディはA4の、メルセデスはCクラスの、それぞれのオープンモデルである。

A4カブリオレの本国ラインナップには、335iと価格が近いFWD版の3.2が存在するのだが、今回は敢えてS4カブリオレを選んだ。性能を同等に揃えるためである。

問題はメルセデス・ベンツだ。

CLKカブリオレで出力を揃えるとなるとV8自然吸気を積む500(日本未導入)になるのだろうが、その価格は比較テストという枠組みではナンセンスなほど他の2車よりかけ離れてしまう。

そこで、われわれは仕方なくCLK350カブリオレを選ぶことにした。その最高出力は200psでかなり見劣りするが、それでも価格は335iカブリオレよりもまだ高い。どこにその根拠があるのか、ゆくゆく明らかになるだろう。

さて、前振りはこれくらいにして走り出そう。

まず乗り込んだのはアウディS4カブリオレだ。こいつで335iを追走することにする。天気は快晴。彼方には連なる山脈。オープンカーを走らせるには絶好のシチュエーションである。

アウディでBMWを追いかけて走るうちに気がついた。335iのスタイリングはかなり不恰好だ。少なくともわたしは好きになれない。現行3シリーズのクーペはスタイリッシュなのに、このカブリオレはそうではない。

開閉メカニズムの都合から生まれたルーフ部の分割線は明らかに目障りだし、トップを収納するリアデッキは盛り上がりすぎで、ルーフラインも全体的に高すぎる。

ふと目線を上げてミラーを見る。そこに映るCLK350の像は徐々に小さくなって行く。やはりエンジンの馬力不足は如何ともしがたい。それが早くも証明されてしまった。しかたなくペースを落とす。と、間隔がみるみる狭まってミラーの中で大きくなるCLKのフロントマスク。

それは他の2台に比べれば、断然クラシカルな風情を漂わせる。メルセデスはCLKをデザインする際、見た目の印象がメカニズムのベースになったCクラスとひとつ格上のEクラスの中間になるように意識したのだろう。それはなかなかエレガントに目に映る。

ではアウディはどうか。

ターボにシフト あるいはNAにこだわる

CLKが追いつくのを待つあいだにアウディをゆっくり眺めていて思った。こちらの持ち味は、いにしえのオープンカーならではの優雅さを想起させるところにある。

アウディは世間の抵抗を押し切って、数年前にシングルフレームと呼ぶ大型グリルの意匠を全モデルに適用していったが、そのデザイン上の挑戦はひとまず成功を収めたといえるだろう。

ただし、S4ならではの低くワイドなスタンスと、ホイールオープニングを隙なく埋め尽くす大径ホイールの組み合わせは、その古典的な印象と違和感がなくもないのだが……。

次にパワーユニットに意識を向けてみる。ひとつ前の世代まで、アウディとBMWのエンジン設計に関する方針は逆だった。アウディは先代S4を仕立てるにあたってV6をターボ過給する道を選んだ。

一方BMWはターボを潔しとせず、自然吸気ユニットならではの風合いにこだわった。しかし、今やアウディS4はノンターボV8を積み、BMWは彼らが誇りとする直列6気筒にツインターボで過給をかける。

そして335iは306psを獲得し、S4は345psを得ている。BMWはそれを5800rpmという低めの回転で、一方アウディは7000rpmという高い回転で達成する。公称の加速パフォーマンスはアウディが5.9秒なのに対し、BMWは5.8秒となっている。

追い越しのときスロットルペダルを踏み込むと、BMWはみっちりと中身の詰まった重厚なパンチを返してくる。対するアウディは、肺活量の豊かさで高回転型ゆえの線の細さを補う。選んだそれぞれの道で、BMWもアウディもそれぞれの結果を出している。

S4のV8はすばらしい音色をつむぎ出し、それは目の前に展開される映像に添えるサウンドトラックとして効果的に働く。確かにRS4ほどの凄みはない。しかし、少なくとも335iのそれよりは刺激的だ。かたやBMWが世に問うたツインターボ直噴ユニットN52B30A型のサウンドは、過給エンジンの常でやや大人しく、アウディほどのスペクタクルは備わらない。

しかしその代わりにN52型ユニットは、アイドルから7000rpmのリミットまで理想的なトルクカーブを描き出す。ターボラグも影すら見取れない。現実的な側面から見てもBMWに優位性がある。S4が日々の街乗りでさえ燃費が7km/ℓにとどまるのに対し、335iは思う存分走らせても9km/ℓ近くの数字をマークするのだ。

おっとメルセデスの話もしなければ。

CLK350、S4 大きく異る部分

またしてもミラーに映らなくなったからといって、忘れてはいけない。鮮やかに加速する2台に対して、CLK350の自然吸気V6は、絶対的な出力の点では見劣りするものの、それと気取られぬ滑らかさで7段のギアを駆使するATのおかげもあって、まるで空中を漂うような軽やかさでクルマを加速させる。

その加速能力は、この手のプロムナードカーを欲するユーザー層には十分だと受け取られるだろう。しかし、そのサウンドはうるさく感じられるし、レスポンスはドロンと鈍く、ステアリングフィールは曖昧で、操舵ゲインの立ち上がりも鈍い。

少なくともクルマ好きを興奮させる類のものではない。さらに言えば、トップを開けた状態でも閉めた状態でも、シャシーの路面対応能力はともに不足している。

端的に言ってメルセデスはソフト過ぎるのだ。

しかしアウディは反対に硬すぎる。締め上げられたバネとダンパーは、乗員に終始揺すられているような平和ならざる乗り心地をもたらし、フロントオーバーハングに重いV8が乗っていることを常に意識させられることになる。

ハナに掛かっているその重量は、ハイスピードのコーナリング時には安定性に寄与して、印象は良いほうに振れるのだが、その代わり低速コーナーでのフロントヘビー感は盛大で、ステア特性は強いアンダーステアに終始することになる。

S4が操縦安定性で唯一ライバルに勝るのは、ヘビーウエット路面などの悪コンディションに出合ったときに4WDシステムが発揮するトラクションぐらいだろう。

BMWはどうだったのか。

それは、ひとがBMWに期待するように走ってくれる。開発プロセスの中に商売上の妥協が紛れ込んだことは確かだが、にもかかわらず335iカブリオレは、BMWならではの身のこなしの鮮やかさを依然として味わわせてくれる。

もちろん比べてみればカブリオレはクーペよりも切れ味は鈍い。しかし、根っこのところでの美点は何も変わってはいない。操舵に対する反応は機敏で、手応えもしっかりしており、操縦性はドライバーにニュートラル・ステア感を与える麗しいもの。

DSCのスイッチを短く押して、電制スタビリティ・コントロールを一段浅いDTCモードにしてやれば、旋回姿勢の自由度はさらに幅広くなる。

しかし、この手のカブリオレにとって、ハンドリングの良さは優先事項ではない。プライオリティとして高いのは使い勝手のよさのほうなのだ。

335iカブリオレ 不利な部分も

2座ロードスターを避けてこうした4座オープンを求めるひとびと、すなわち「ライフスタイル」という単語が重要なキーワードだと思って生きているひとびとにとっては、運動性能よりスタイリングや使い勝手の方が優先される。

そしてこの3台のうちで唯一、開閉式メタルトップを備えるBMW335iカブリオレは、そうした使い勝手の面で明らかに優位に立っている。冬になれば、その優位性はさらに重みを増すだろう。

けれど忘れてはいけない。335iカブリオレは使い勝手の別の項目で不利をかこつことも。

その荷室は、トップを閉めたときはCLKやS4と大差ない350ℓという容積を持つ。ところが屋根を開けるとメタルルーフが荷室を侵食し、荷室は210ℓという狭さになってしまうのだ。

同じく後席の居心地もよろしくない。バックレストが立ち過ぎているのである。後ろの席は短時間の移動にしか使えないと心得るべきだろう。それに対して、ソフトトップのアウディとメルセデスは、広い荷室と快適な後席を持っている。

要するに利害得失は背反するのである。335iカブリオレは、屋根を閉めればクーペとほぼ変わらぬ静けさが得られる。だが、その居住性は、よく遮音が工夫されたCLKカブリオレより僅かに上というレベルに留まる。

ただ、ウインドノイズと路面騒音は、長距離ドライブでそれに耐え続けなければならないアウディよりもずっと少ない。

AUTOCARは何を選ぶのか?

3シリーズカブリオレは、他の2台とはライバル関係にありながら、微妙に性格の違うクルマだった。

それは、このクラスの中では頭ひとつ抜け出して、ひときわ鮮やかに走る。直6ツインターボは分厚いパンチで強い印象を残す。

要するに貴方が何を優先して、何を望むかだ。ルーフを上げたときのクーペとほぼ変わらぬ居住性は、下ろしたときの使い勝手の悪さの引き換えに得られるものだという事実は決して曲がらない。

わたしは、335iカブリオレがクーペのように売れるとは思えない。BMWはやはりソフトトップに固執し続けるべきだったのではないか。

AUTOCAR JAPAN誌 49号