バルサ下部組織時代にはボージャンの直訴も却下した経緯も【写真:Getty Images】

写真拡大

高校サッカーで時に美談となるケガを押しての奮闘

「エースも故障があれば、たとえクラシコでもプレーはさせない」――ジョアン・サルバンス(元バルセロナ・カンテラ監督)

 全国高校選手権予選が佳境に入りつつある。毎年無責任なメディアは、決まって故障の痛みに耐えてプレーをした選手の頑張りを讃える。

 確かに高校選手権は、判断の難しい大会である。大半の選手たちは、プロを目指すわけではない。幼少時から取り組んできた思い出作りの集大成と捉えることもできる。この大会に向けて厳しいトレーニングを課してきた指導者の側も、育成のプロセスではなく、終着点と考えれば、無理をしてでもピッチに立たせてあげようと親心が働くのだ。

 実際に、ある選手権優勝校の監督は言い切った。

「我々は世界を目指してやっているわけではない。高校で勝つためにやっているんだ」

しかし皮肉なことに、こんなことを言い放つ監督の下からも、日の丸をつけて戦う選手が羽ばたいている。同じトレーニングをしても、トップレベルのプロに育つケースもあれば、その後の長い人生を苦しみ続けるような故障を抱えてしまう選手もいる。

 ただし、それでもマスコミは成功例ばかりをクローズアップするので、世界に例を見ないような非効率で疲労ばかりを溜め込むトレーニングが、時には称賛を集めてしまうことになる。

バルサ下部組織の指導者が却下したボージャンの出場直訴

 欧州には、こんな諺があるそうだ。

「酔っ払いと子供の顔は嘘をつかない」

 かつてバルセロナのカンテラで監督を務めてきたジョアン・サルバンスは、当時チームのエースだったボージャン・クルキッチ(現・アラベス)の沈んだ表情を見逃さなかった。彼は故障を抱えていたが、隠してプレーをしようとしていた。ジョアンは、ボージャンの出場直訴を却下し、口論になったという。

「間近に迫っていたのは、同じバルセロナのライバル、エスパニョールとのダービーマッチでした。この試合はユース年代の子供たちにとっては、レアル・マドリードとのクラシコに相当します」

 だがジョアンは、ボージャンを説き伏せた。

「君への要求は非常に高い。他の子はプロになることが目標だが、君の場合はカンプ・ノウの満員の観衆を沸かせることだ。チャンスは来年も再来年も必ずやって来る。今はケガをしっかりと治すんだ」

 日本の高校生が、スペインのクラブの練習に参加すると、一様にトレーニング時間の短さに驚く。ジョアンは力説していた。

「私は同じことを100回繰り返すより、集中して10回取り組むことを大切にします。それに練習量と強いメンタルは、決して比例しません」

 今でも彼我の落差が最も大きいのが、育成の常識なのだと思う。