金融をめぐる世界が大きく変わろうとしています(写真:Sergey Nivens / PIXTA)

電気自動車(EV)への転換、人工知能(AI)やロボット技術の進展などなど、いまや世界はかつて経験したことのない「技術革新」の時代を迎えている。こうした動きは、日本の産業界はむろん、われわれの生活にも大きな関わりをもたらしている。

日本人が最もピンと来ていない「フィンテック」とは?

政府も「第4次産業革命」と名指しで、大きな変革を警告している。そんな時代をわれわれは生きているわけだが、日本人が最もピンと来ていない変化の1つが「フィンテック」の世界ではないだろうか。フィンテックとは、金融(ファイナンス)とIT(インターネットなど情報技術)が融合した新しいビジネス業態のことだ。

たとえば、中国で起こっているキャッシュレス革命をわれわれはにわかには理解できていないが、現実に中国では、消費者はスマホ、販売者はQRコードを提示するだけでビジネスが成立し、小銭の支払いから解放されつつある。

中国に並ぶ人口大国インドでも、同様の変革が起こりつつある。インドでは、2016年11月に汚職や脱税、テロ活動資金といったブラックマネー撲滅の目的で「高額紙幣の廃止」を断行した。ところが、当初の目的とは異なる「電子マネー決済の普及」という副産物を生みだし、インドでもキャッシュレス化が急速に浸透していると言われる。

中国やインドだけではなく、たとえばケニアではスマホの普及と同時に電子決済が急速に進行。政府がインフラ資金調達のために発行した国債を、スマホでも購入できるようにしたところ、それまで投資や貯蓄に対してまったく関心のなかった国民が、国債購入に動いたとされる。

日本でも、ビットコインをはじめとした仮想通貨が投資商品として注目され、一部のリアル店舗などでも電子決済のツールとして使われ始めている。とはいえ、クレジットカードさえ十分に普及しているとは言えない現実の中で、日本のフィンテックへの動きは国際的に見て遅れている。

その背景には、法的な整備など政府の取り組みが、ほかの国に比べて遅れていることが指摘される。いまや世界はプラスチックのカードさえ持たないライフスタイルへとシフトしつつある。フィンテックがもたらす、新しい社会を紹介してみよう。

フィンテックはスマートフォンの登場によって、いまや送金や決済にとどまらず、融資や資産運用、保険などあらゆる金融サービスに普及しつつある。

フィンテック最大の特徴は銀行や証券会社の免許を持たない企業でも、簡単に金融サービスの提供や金融システムの構築が可能になってしまうことにある。しかも、国境や通貨、企業といった枠にとらわれない。

利用者とドライバーをマッチングする「Uber(ウーバー)」が誕生したのも、簡単に決済ができるフィンテック革命の成果と言える。

ほかにも、決済1つをとっても電話番号かメールアドレスの登録でクレジットカードが不要な決済サービスを提供する「Paidy(ペイディ、運用会社:エクスチェンジコーポレーション、以下同)」は、伊藤忠商事などの出資を受けている。また、月額売り上げ100万円までの手数料がゼロになる事業者向け決済サービスを提供する「SPIKE(同)」には、みずほフィナンシャルグループなどが出資している。

米国のアップルが日本でのサービスを開始した「アップルペイ」もフィンテックの一種だが、すでに日本でも数多くの電子決済がプラットホームとしては存在しているものの、これが中国のように人々のライフスタイルの変化にまでは到達していない。

ちなみに、フィンテック関連の金融サービスで最近になって、注目を集めているものをいくつか紹介すると……。

フィンテックの国際標準は「QRペイ」?

●決済……日本でもやっとビットコインなどの仮想通貨を使った決済可能な店舗が増えつつあるが、いまフィンテックで国際標準なのは「QRペイ」という方法だ。前述したように中国では屋台でさえもスマホを店にあるQRコードにかざすだけで、瞬時に支払いができる。

日本でも、QR支払いを実現させたアプリが登場しているが、割り勘アプリ「paymo(ペイモ)」を提供している「AnyPay」では、そのQRコードを自分でも作成して使うことが可能になる。飲み会の会費を請求する場合、これまでは現金でもらうのが普通だったが、個人間の支払いもQR支払いを可能にした。

●融資……フィンテックを活用すれば、おカネを借りたい人と貸したい人(投資、融資)をつなぐ「ソーシャルレンディング」も簡単に構築できる。実際にすでに稼働しており、たとえばSBIホールディングス系の「SBIソーシャルレンディング」もその1つだ。

ちなみに、自社のネット上の店舗などに開店している会員向けの融資制度に力を入れているところが多く、アマゾンは自社のマーケットプレイス出品者に最大5000万円を融資。楽天でも楽天市場出品者向けに即日融資する「楽天スーパービジネスエクスプレス」を運営。GMOインターネットでも、加盟店向けに「GMOイプシロンTransactionレンディング」を提供している。

●クラウド・ファンディング……群衆(Crowd)と資金調達(Funding)を組み合わせた資金調達方法だが、ソーシャル・ファンディングとも呼ばれる。これも、フィンテック特有の方法によるもので、既存の金融システムに比べて格安のコストで多種多彩な分野に投資ができる。多彩なプロジェクトに投資可能な「kibidango(きびだんご)」。個人と事業を連携させる投資プラットホームで運営される「セキュリテ(ミュージックセキュリティーズ)」などが知られている。

●家計、業務、経営支援……企業向けに会計や販売管理、給与計算などをアプリで簡単に可能にする支援ビジネス。領収書や請求書の管理、給与計算などの会計業務全般の代行サービスをクラウドを使って提供する。

個人向けの財務管理機能も、スマホのアプリ1つで領収書や名刺管理など幅広い支援を展開できる。たとえば、銀行、クレジットカード、ポイントなどを一括で管理する家計簿アプリ「マネーツリー(マネーツリー)」は、みずほキャピタル、三菱UFJキャピタルなどが共同出資している。

「ブロックチェーン」の可能性

フィンテックは、すでに10年以上も前からさまざまな形で実現してきたわけだが、それがここにきて日本でも大きく注目されてきたのにはいくつかの理由がある。

1つは、仮想通貨が金融庁によってやっと登録制度として認められたことだ。ビットコインに代表される仮想通貨が取引所の存在を認められたことで、フィンテックの進展に大きな追い風となっている。

そして、もう1つの理由が、その仮想通貨を支える中核技術である「ブロックチェーン」の活用が急速に進みつつあることだ。ブロックチェーンとは、インターネット以来の発明とも言われ、複数のコンピュータで情報を共有し、相互に監視しながら外部からの侵入などを防ぐ高いセキュリティ機能を確保している。システム導入コストも飛躍的に安いために、中小企業や自治体などが簡単に導入できるという特徴を持っている。

たとえばブロックチェーンを使えば、自分独自の仮想通貨を創出することも可能だ。中小銀行などと自治体や企業グループなどが提携して、その地域特有の仮想通貨を発行することも可能になる。

これまでも地域限定の通貨を創出して、地域内だけで利用できるような仕組みを構築して来たところは多い。ただ、独自通貨を創るとなると、紙幣の印刷代などコストも高くつく。かといって、ビットコインのような仮想通貨を発行するとなると、高性能のサーバーが必要となり、サーバーを常時稼働させるために電気代だけでも莫大なコストを必要とすることになる。

ところが、ブロックチェーンを使えば、これらの煩わしいコストや手間が不要になる。たとえば、5月15日〜8月20日まで実証実験を行った岐阜県高山市周辺の地域限定通貨「さるぼぼコイン(飛騨信用組合、アイリッジ)」、9月には「近鉄ハルカスコイン(近鉄グループホールディングス)」が社会実験を実施。山陰合同銀行や会津大学なども導入実験を行っている。

こうした地域限定の電子マネーの相次ぐ登場の背景には、ブロックチェーン技術によって簡単にシステム導入ができるフィンテックの技術がある。たとえばさるぼぼコインの場合、利用者は飛騨信用組合の窓口で1円=1コインで電子マネーに“両替”し、店舗ではQRコードにスマホをかざすだけで決済ができる。店側も、専用の読み取り機などは一切不要。QRコードを提示しておくだけで、瞬時に決済されて口座におカネが入ってくる。そんなイメージだ。

中国では無人のコンビニが登場していると報道されたが、ブロックチェーン技術を使って金融機関と商店街などが提携すれば、コンビニに限らずスーパーや衣料品店なども導入が可能になる。ひょっとしたら、10年後には「レジ」という言葉が死語になっているかもしれない。

国家の信用という背景がまったくない「ビットコイン」が、なぜ「詐欺だ」「いずれ崩壊する」と言われながらも買われている背景には、こうしたフィンテックの動きがあるからだ。

ビッグデータ、AIによって人間が不要になる?

もう1つ注目されているのが個人向けの資産運用へのフィンテックの活用だ。AI(人工知能)やビッグデータを使って、人間に代わってコンピュータが資産運用や資産防衛を代行してくれるというシステムだ。

たとえば、AIやビッグデータを活用する与信判断では、数秒で与信作業を完了できる技術も登場している。また、最近注目を集めているのが「お釣り」を活用した資産運用。電子決済した時に出る“小銭”のお釣りをプールして自動的に運用してくれるサービスだ。日本でも「トラノコ(トラノテック)」といったフィンテック・ベンチャーがサービスを始めている。

資産マーケットの世界では、ヘッジファンドなどリスクマネーの多くは、コンピュータを使ったアルゴリズム取引が日常化しているが、コンピュータ売買に対応できるのはコンピュータぐらいしかいない、と言われており、フィンテックの導入が急速に進んでいる。

日本では「ロボ・アドバイザー」の名称で知られているが、今後は資産運用のメインストリートとさえ言われている。その内容も、アドバイスだけする「助言型」から「投資一任運用型サービス」までさまざまだ。

上場株式に投資するロボ・アドバイザー「クロエ(エイト証券)」、米国に上場されている7分野の投資信託から選別して投資する「WelthNavi(SBI証券)」などなど、自分の投資戦略に合わせた運用が可能になっている。

AIやビッグデータなどを活用した新しいフィンテック時代の資産運用法と言っていいだろう。

われわれの生活にどんな影響を与えるのか

さて、問題はこうしたフィンテックが、われわれの生活にどんな影響を与えるのかだ。ちょっとオーバーな話をすれば、将来的にはレジがなくなり、資産運用担当者も消える。通貨さえもいまや世界で600種類の仮想通貨が出て来ており、自由に選択できる時代になるかもしれない。電気自動車がガソリン車にとって代わられようとしている変化どころではないのが、フィンテックの可能性と言っていいだろう。

問題は、こうした世界全体の変化の中で、日本政府がどう対応しているかだ。政府も経済産業省などが「第4次産業革命に乗り遅れれば日本はじり貧になる」と警告しているものの、仮想通貨1つをとってもその対応は遅れ気味だ。

金融庁も、改正資金決済法が施行された4月になって仮想通貨の取引所を登録制として認め、この10月からやっと監視体制に入った。さらなる法整備についても、フィンテックの普及を目指して関連法を再編して新法作成に着手した、と最近になってやっと報道された。

金融庁以外でも、企業の会計上の問題について日本公認会計士協会や信託協会などが、いまだに基準のとりまとめに動き始める前の段階だ。日本企業は内部留保を400兆円も抱えながら、フィンテックへ十分な対応をしているとはとても思えない。

現実はもっと先に進んでおり、フィンテック・ベンチャーが銀行以上のサービス提供を簡単に実現させる時代に入っている。米ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は「日本は1万円札を廃止せよ」という提案をして注目されたが、脱税やマネーロンダリングを防ぎ電子決済が増える、というのがその主張だ。

先進国の中で日本ほど現金決済が多い国はない。前述したように、インドでは高額紙幣を廃止したことで急速に電子決済が増えている。それぐらいの大胆な政策をしなければ、日本ではフィンテックの分野でも世界標準から置いて行かれてしまう可能性がある。