本音あふれる子育て論を発信し続けてきた、漫画家の西原理恵子さん。この春、16年続いた漫画「毎日かあさん」の連載を終えると同時に、私生活でも「かあさん」の看板を降ろし、話題になりました。「母を卒業する=卒母(そつはは)」とはどういうことなのか、そして人生の第2ステージと、どう向き合っているのか。今の思いを聞きました。


漫画家の西原理恵子さん賛同してもらえてうれしかった「卒母宣言」

子どもはいつか成長し、巣立っていく。頭ではわかっていても、それがどんなふうにやってくるのか、はたして自分は上手に子離れできるのか。子育て中の親の多くは、その未来を具体的に想像できません。その現実に直面し、今年の春「卒母」を宣言して、子離れを遂げた西原理恵子さん。反響はどうだったのでしょう。「正直ね、私、もっとたたかれると思っていたんです。母親を卒業するだなんてけしからん、ってね。でもフタをあけたら反応は違ってた。賛同してくれる人が多かった。うれしかったですね」。●突然やってきた「巣立ちのとき」

3年前、16歳だった息子さんがアメリカに留学したことが、それまでの母親業の方法を変える転機になったと振り返る西原さん。「距離はあるし、時差はあるしで、物理的に手出し口出しができない。それが当たり前になってきて、これが巣立ちのときってやつか、と」。
そして昨年、娘さんにもそのときがやってきました。「また来たな、と思いましたが、娘の方はなかなか辛辣(しんらつ)でね。とにかく私が嫌いみたいで、話もしないし、感じ悪いったらありゃしない。これがウワサの反抗期かと。とにかくけんかになるだけだから、言わない、触れない。家では冷戦状態。会話はLINEだけです(笑)」。
このとき、娘さんも16歳。「あぁそうか、うちの子たちはふたりとも16歳で自分の道を歩いていくんだ。もう、親は必要ないんだと。だったら余計なことは言わず、見送ろうじゃないの、という気分です」。


中央のふたりが19歳の息子さんと17歳の娘さん。(『毎日かあさん14 卒母編』より)『毎日かあさん14 卒母編』の表紙の中央には、19歳の息子さんと17歳の娘さんが描かれています。●「若さや美しさで生きていけるほど、人生は甘くない」


娘さんの巣立ちに合わせ、西原さんは一冊の本を出版しました。そこには、女の子が大人になり自立して歩いていくために、知っておいてほしいことがしたためられています。「若さや美しさで生きていけるほど人生は甘くないし、結婚がゴールなわけでもない。失敗もある。でも、そこから立ち上がるために、自分で生きていける力をもった人になって、と伝えたかったんです」。


人生はなにがあるかわからないし、貧乏と暴力の連鎖に陥ることも。病気やリストラだって、じつはすぐ隣にある。そのとき絶対立ち上がれるように…。祈りにも似た母の愛が感じられる言葉でした。●「今はほんと幸せ。私、がんばったよな〜って思うんですよ」

インタビュー終盤、西原さんはこんなひと言を漏らしました。「娘の反抗期で母娘が冷戦だなんて、幸せでぜいたくな戦争だな、って」。かつて西原さんは、アルコール依存症の夫と過ごし、暴言と暴力にまみれた日々を送ったつらい経験があります。「あの地獄のような日々に比べれば、今はほんと幸せ。私、がんばったよな〜って思うんですよ」。

でもこれからだって、パートナーや自分の健康に、親の介護と、一筋縄でいかないことも重々覚悟しています。「それでもね、今は人生のハッピーアワー。居酒屋で、すいててビールが安い時間帯あるでしょ? あれです、あれ。すみませんけど、お先に飲ませてもらってますって感じ(笑)」。

たくましく人生の先を歩む姿を見ていると、「卒母」後の人生も悪くないなと感じずにはいられません。ESSE12月号では「サイバラ式ハッピー子離れ」について、さらに詳しく紹介しています。ぜひ誌面で西原さんのメッセージにふれてみてください。

●教えてくれた人
【西原理恵子さん】
1964年、高知県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、漫画家としてデビュー。2011年、「毎日かあさん」で第40回日本漫画家協会賞参議院議長賞を受賞。近著に『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』(KADOKAWA刊)、『毎日かあさん14 卒母編』(毎日新聞出版刊)。19歳の長男、17歳の長女の母。

<撮影/林紘輝 取材・文/ESSE編集部>