上野の東京国立博物館で開催され大人気となっている「運慶展」。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、清泉女子大学の山本勉教授の記事を引用し、人はなぜ運慶にこれほどまでに惹きつけられるのかを探っています。

人はなぜ運慶に魅せられるのか

上野の東京国立博物館で開かれている「運慶展」が大変な人気だそうです。

国宝級の仏像を数多くつくった運慶とはどのような人だったのでしょうか。また、作品の魅力とは。仏像彫刻の第一人者・山本勉さんが『致知』最新号で詳しく解説されています。

運慶・快慶が極めた世界 山本 勉(清泉女子大学教授)

運慶の作品の特徴と魅力は徹底したリアリティの追求による力強さ、圧倒的な存在感にあります。運慶は日本の仏像の歴史をよく研究していて、それぞれのよいところを取り入れながら、新時代の気風に合う誰も真似ができない作風を生み出したのです。

運慶の作品のどれもが、いまにも動き出しそうな迫力を持っているのは、肉体の動きを瞬時にして捉える特殊な才能の持ち主だったからだと私は思います。私たちが口を動かせば、連動して顔の筋肉が動き、目や鼻の形も変化します。運慶はこのような肉体の一瞬の動きを目に刷り込んで切り取る、いわば「動画的な記憶力」に卓越していたとも言えるでしょう。

私が円成寺の大日如来像に圧倒されたのも、まるで生きている人間を思わせる足裏のボリューム感と足指の一本一本の表情まで意識した見事な表現力でした。この「動画的な記憶力」と同時に、運慶にはそれを再現できるだけの仏師としての高度な腕があったのです。

奈良仏師たちが編み出した、水晶レンズを眼球の部分にあてがう玉眼と言われる技法を運慶も多数取り入れていますが、視線の力を出すことよって表情のリアル感、迫真性をより高めたことも大きな特徴です。

運慶の作品の中でも最高傑作と呼ばれるものに興福寺の無著菩薩立像、世親菩薩立像があります。運慶晩年に制作された北円堂諸像の中の二体です。無著、世親はインドに実在した法相宗の学僧です。運慶の指導の下、無著は六男の運助、世親は五男の運賀が担当していたことが分かっています。

ともに2メートルほどの大きさで同じような姿をしていますが、よく見ると、例えば弟の世親の法衣は力強く波を打っているのに、兄の無著の法衣は波が小さく枯れた感じがよく出ています。

さらに特徴的なのは表情です。世親はしっかり正面を向いていますから玉眼が輝き強い意志が伝わってくるのに対して、無著の表情はややうつむき加減で、玉眼は眼の奥で微かに光ります。そこに修行を重ねた高僧ならではの深い精神性と慈愛が滲み出ているのです。

二像が人々の心を捉えて放さないのは、精神性の高さに加えて、それを表現するため細部まで計算し尽くした天才仏師の感性の鋭さに誰もが感動するからではないでしょうか。

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