大前氏がシアトルを推す理由は?

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 経営コンサルタントの大前研一氏は、毎年秋に開催している主宰している企業経営者の勉強会「向研会」の研修旅行で、アメリカ西海岸北部のシアトルとカナダのバンクーバーを訪れた。なぜ、シアトルを訪問先に選んだのかについて解説する。

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 まずシアトルは、そこで生まれた会社が次々と世界企業になっているからだ。たとえば、マイクロソフト、アマゾン、スターバックス、コストコ、エクスペディアなどである。これらの会社は非常に速く世界化して巨大になった。なぜか?

 20年ほど前にマイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏と対談した時、彼は面白いことを言っていた。「シアトルは、アジアとヨーロッパが等距離に見える」と。

 実は、シアトル-東京、シアトル-ロンドンの直線距離は、どちらも約7700kmである。飛行時間もシアトル-東京が約9時間、シアトル-ロンドンが最短9時間40分と、さほど変わらない。また、シアトル-ニューヨークの直線距離は約3900kmだが、飛行時間は6時間半ほどなので「時間距離」は意外に遠い。

 私は1985年に上梓した『トライアド・パワー』(講談社)で「日米欧の三大戦略地域から心理的に等距離にあるアラスカのアンカレッジに世界本社を置くべきだ」と書いたが、シアトルはアメリカ本土の大都市で最もアラスカに近い。ゲイツ氏は図らずも私の提言を実践していたのである。日本企業では、任天堂がここにアメリカの拠点を置いて成功し、世界化に極めて重要な役割を果たしている。

 いまアメリカではハイテク関係の人材が非常に不足しているため、シリコンバレーやサンフランシスコのベイエリアでは、能力があるIT技術者の初任給は約15万ドルになっている。

 それに対し、シアトルは約12万ドルで2割ほど安いが、住居費をはじめとする生活コストが安いので、可処分所得はシリコンバレーやベイエリアより高い。しかも、水と山と緑に囲まれ、“エメラルド・シティ”と呼ばれるほど住環境が良い。このため多くの人がシアトルを生活圏として好むようになり、アメリカ西海岸で北への移動が始まっているのだ。

 しかし、「アメリカ第一主義」のトランプ大統領の登場で大問題が起きている。アメリカ人の雇用を増やすため、専門技能を持つ外国人向け就労ビザ「H-1B」の審査が厳格化され、海外の人材がアメリカで働けない事態になっているのだ。

 たとえば、インドのITサービス企業インフォシスの創業者で友人のナラヤナ・ムルティ氏が来日した時に会食したら、「アメリカに派遣している1万人のインド人技術者をインドに帰さなければならなくなった」と途方に暮れていた。そのため同社がアメリカで1万人を新たに雇用するという報道もあったが、今回の視察旅行で現地取材したところ、代替策があったらしい。

 それは「カナダ」である。アメリカのIT企業は、隣国カナダに人材を移動しようとしているのだ。とりわけ注目を集めているのが、シアトルから北へ車で2時間半のバンクーバーである(バンクーバーについては後日配信)。

※週刊ポスト2017年11月10日号