ベンチャーや中小企業から調達することはイノベーションの創出につながります(写真 : MaCC / PIXTA)

政府機関が業務で必要な物品やサービスを購入する政府調達。行政が率先してベンチャーや中小企業から調達することは、単に企業の売り上げが増えるだけでなく、信用力の向上につながり、その後の成長に資するといわれています。

ましてや、画期的な新技術の最初の顧客になれば、普及も加速してイノベーションの創出につながります。しかし、現状ではこのような取り組みにはさまざまな壁があり、進んでいないことも事実。本稿では政府調達の壁に風穴を開ける新しい試みについて説明します。

政府調達にもイノベーションが必要


この連載の一覧はこちら

ベンチャーや中小企業の課題は、画期的な技術を持っていても、信用力がないこと。政府機関が率先してこれら潜在能力のある企業の新技術を使うことで、信用力を補い、民間での活用拡大のきっかけになります。米国では技術開発補助金のSBIR(Small Business Innovation Research)制度で、開発が進んだ新技術を政府機関が使うことで、実用化を進めています。

また、大企業がベンチャーとの連携により新技術や新しいビジネスモデルを導入する動きが加速する今日において、政府機関でも同様の取り組みが求められています。予算や人員の制約から、現場の省力化や効率化が必要。多様化する行政ニーズに対応するために、新技術による効果的な行政サービス実施が重要な課題となっています。

しかし、現状では、ベンチャーなどの新しい技術の政府調達は進んでいません。認識していても実務は動きづらいのです。その理由として、以下が挙げられます。

・調達の担当官は新しい技術やサービスとの接点が十分になく、研究者・開発者でもないために十分な探索ができない。
・通常の発注形態では、品質管理、コスト管理、情報セキュリティ、経営の安定性・継続性の面での要求水準が極めて高く、ベンチャーや中小企業ではそれに対応できない。
・大手企業がすでに政府調達の主要部分を押さえており、ベンチャーや中小企業の入り込む余地がない。

このような状況を打開するために、内閣府が新しい取り組みを始めました。題して「オープンイノベーションチャレンジ2017」。政府機関が有する具体的なニーズを、これまで政府調達になじみのなかったベンチャーや中小企業に向けて発信し、その解決手法となる事業化プランを提案していただくことで、政府調達に彼らの優れた技術や着想を取り入れていこうとするものです。そのために、具体的なニーズをベンチャーや中小企業が参入しやすい募集テーマに変換し、幅広く公募をかけています。

応募案件は、民間専門家による技術審査委員会で審査し、優良案件を見つけます。審査を通った企業に対しては、専門知識や実務経験が豊富なアドバイザーが、より現実的な実用化プランへのレベルアップを支援します。

そして、磨きをかけた実用化プランのお披露目をするピッチイベントを、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)やJOIC(オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会)と協力して開催し、政府機関担当者へのPRや、政府調達の主契約企業となる可能性のある大企業等の事業会社とのマッチングを目指します。

事業としては、初期段階のトライアルですが、内閣府が旗を振って政府機関のニーズをアクセスしやすい形で示し、有望案件に調達実現に向けての機会を提供することは、従前にはない一歩進んだ取り組みといえます。

新技術が求められる9つのテーマとは?

今回の公募テーマは9つの課題で、募集期間は11月27日までです。

その内容を以下に紹介します。

テーマ 1:遠方の水難要救助者に対し正確かつ安価に救助資材を搬送する手法

水難事故や風水害等の自然災害に関連して、年間3000件以上の救助活動が行われています。救助活動には、つねに2次災害の危険がつきまとい、救助隊員は、直接救助ロープや浮き輪等の資機材を渡すことが難しい場合には、救命索発射銃を用いて救助に当たっています。

しかし、強風や雨天の中で必要な資機材を正確な位置へ投下できない場合があります。そこで、遠方の水難要救助者等に対し、既存の救命索発射銃よりも正確かつ安価に救助資材を搬送する手法を広く求めています。

例)安全に救助資材を搬送・投下でき、雨天時等でも繰り返し使用可能で安価なモビリティ(ドローン、船舶等)、射出性能を向上させた救命索発射銃等

テーマ 2:火災現場等において無線機器等の音声を支障なく聞き取る手法

日本では年間4万件近く、平均すると1日に100件以上の火災が起きています。全国の消防職員約16万人(うち現場対応が約12万人)と、消防団員約85万人は、火災現場等において、胸の外ポケット等に装着した無線機や、胸または肩に取り付けた接続ハンドマイクで、連絡を取りながら消火活動にあたっています。

その際に、着用する防火帽には、頭部と頸部を保護するためのカバーとして「しころ」が付けられているのですが、しころによって無線機の音を聞き取りづらくなってしまうことが、緊急時の安全管理上での課題となっています。それを解決するために、厳しい活動環境に対応しつつ、無線機器等の音声を支障なく聞き取る手法の提案が求められています。

例)既存の無線機器を変えることなく、聞き取りやすさを向上させる構造や素材等を採用した防火帽、ノイズキャンセリング性能と防塵・防水性能を両立させた無線機器、骨伝導技術等により、耳を塞がず外部の音と無線機の音と両方が聞こえる、無線機器または無線機能を備えた防火帽等

短時間で救助活動を行うことができる手法

テーマ 3:濡れた火山灰等での捜索等の活動時間を短縮する手法

火山大国・日本では、火山の噴火災害が多く、暴風雨に伴う土砂災害や、雪害などの自然災害が後を絶たない状況です。もし、これらの災害が発生してしまった場合には、救助隊が2次災害に留意しながら、早急に行方不明者を捜索することが求められています。現状、行方不明者の捜索は、救助隊員が横1列に並び、20〜30cm間隔でプローブ(約3mの棒)を土砂等に挿すことで行われていますが、この方法は、膨大な人員と時間を要してしまうことが課題となっています。

たとえば雪崩の場合、1万屬料楮範囲を約20人の隊員で捜索した場合、20時間以上の時間を要します(土砂や火山灰の場合にはさらに時間が必要)。そこで、火山灰や土砂、雪等に埋没している要救助者の位置を特定する技術と資機材により、ある程度の範囲を1度に捜索でき、かつ、深度を明らかにすることで、捜索場所を限定し短時間で救助活動を行うことができる手法の提案が望まれています。

例)火山灰等の中にいる要救助者の位置を特定するセンサー、デバイス等

テーマ 4:車両を強制的かつ安全に停止させる手法

日本を含め世界各地で、車両を用いた危険行動が日々見受けられます。たとえば、欧州を中心に、車両を用いたテロ行為が頻発し、日本でも、危険運転の事例が出ています。

これらの事案には、現場を管轄する警察署の警察官や機動捜査隊員、交通機動隊員等が対応。当該車両を強制的に停止させるべく、現状は阻止柵等を用いて停止を試みています。しかし、現状使用している阻止柵等は、主に、施設出入り口付近等に事前に設置するもので可搬性(機動性)が低く、突発的に発生し不規則に走行する危険運転の車両への対応は困難です。

また、阻止柵に衝突することによる当該車両への損傷や、破片等の飛散による周囲への被害のおそれも課題となっています。そのため、効果を当該車両に限定しつつ、運転者および同乗者に危害が及ぶおそれがなく、周囲の安全も確保されるような、車両強制停止の手法が求められています。当該車両を追跡等する車両に積載可能で、迅速な設置や撤収が可能な手段で実現することが望まれています。

例)携帯性と抑止力を兼ね備えた粘着性物質およびその射出デバイス、自律走行しクッション性素材等を用いて車両を停止させるロボット、既存の阻止柵の可搬性向上や遠隔操作性能の付与、電波等により遠隔からエンジンを停止させることができるシステム等

不審者を発見・検知する手法

テーマ 5:雑踏において一般市民に混在する不審者を発見・検知する手法

不特定多数の人を狙った、無差別殺傷事件やテロが世界各地で発生しています。2020年の東京オリンピックなど、世界各国から多くの人が集まるイベントを控えた日本においても、それらの未然防止は非常に重要な課題。犯罪の未然防止には、何らかの犯罪を企図している不審者を事前に発見し対応することが極めて重要です。

しかし、その多くが一般市民を装って危険物等を隠匿所持し、特に、不特定多数の人が集まるイベント等では群衆に紛れ込んでいるため、事前に発見することは極めて困難となっています。そのため、イベント会場や人が行き交う雑踏において、不審者や一般市民を装った犯罪者を発見することが可能となれば、無差別殺傷事件やテロなどの未然防止に大きな効果を発揮すると期待されています。これを、車両等に積載可能で、かつ容易に設置し取り扱うことができる手段で実現することが望まれています。

例)一定の行動特性を学習・検知する監視システム、不審者が所持している可能性が高い危険物を広範囲において検知するシステム等

その他の4つのテーマは以下のとおりです。

テーマ6:個人が徒歩で警備・救助等を行う際、放射線を可視化する手法

テーマ7:係船・曳航作業における作業員の負担軽減・作業時間の短縮に資する手法

テーマ8:海洋を航行する船舶のメンテナンス作業を軽減させる手法

テーマ9:海上において周囲に対し昼夜問わず明確に情報伝達等する手法

政府調達を軸とした新技術の開発と普及の今後

内閣府参与(科学技術・イノベーション政策担当)として政府調達促進を進める政策研究大学院大学副学長の角南篤教授は今回の取り組みについて以下のように語ります。

「米国政府がベンチャーや中小企業の新しい技術を積極的に調達するSBIRを日本政府も20年ほど前に導入しようと試みたが、今度はさらに大きな一歩を踏み出すことができた。政府が自ら調達を通じて需要を作り出すことは、イノベーションを牽引する重要な取り組みであるが、そのためには公共調達制度そのものの改革が必要だ。今後は、こうした動きが政府全体に広がっていくよう期待したい」

政府の関係機関の調達の実現は、ベンチャーや中小企業の経営向上の大事な一歩になります。政府機関にとっても、ともすれば埋もれてしまう有効な新技術を活用することで、効率・効果向上などのメリットをもたらします。実際、オープンイノベーションチャレンジの募集テーマはいずれも政府機関の重要課題であり、新たな解決策が強く求められています。

今回の内閣府の取り組みは、広報、選抜、育成、機会提供という手間を内閣府自らが汗をかいて実施することにより、調達促進の新しい道を開くもの。これをきっかけにイノベーションを促進する政府調達の新しい潮流ができることを期待しています。