10月24日、アメリカ海軍原子力航空母艦「ロナルド・レーガン」(CVN-76)を旗艦とする第5空母打撃群と、原子力空母「セオドア・ルーズベルト」(CVN-71)を旗艦とする第9空母打撃群が西太平洋に姿を現した(第5空母打撃群は10月19日より米韓合同演習に参加し日本海に展開していた)。

 そして、アラビア海での作戦が終了した原子力空母「ニミッツ」(CVN-68)を旗艦とする第11空母打撃群も、10月25日、インド洋の第7艦隊担当海域に入り朝鮮半島周辺海域を目指している。

 トランプ大統領の日本・韓国・中国訪問とオーバーラップして、これら3セットの空母打撃群が参加しての海軍演習が実施される。

 このように3セットの空母打撃群(空母3隻、巡洋艦3隻、駆逐艦10隻、おそらく攻撃原潜3隻)が日本周辺海域に同時に姿を見せるのは極めて珍しい。

 ちなみに、3セットの空母打撃群が参加する演習は、2007年にグアム島周辺海域で実施された「Exercise Valiant Shield」以来である。そのため、「トランプ大統領の極東訪問後には、いよいよ米軍の北朝鮮に対する軍事攻撃が秒読み段階に入るのだろう。だから多数の空母を展開させて先制攻撃態勢を固めつつあるのだ」といった推測がなされている。

空母ロナルド・レーガン(写真:米海軍)


空母セオドア・ルーズベルトと空母打撃群戦闘艦(写真:米海軍)


空母ニミッツ(写真:米海軍)


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空母打撃群の持つ強力な攻撃力

 北朝鮮を巡る軍事情勢が緊迫化を深めているこの時期に、朝鮮半島に近接する海域に3隻もの空母とそれに随伴する巡洋艦や駆逐艦を多数展開させることは、北朝鮮に対する軍事的威嚇と考えられないわけではない。

 それぞれの空母には36〜48機(作戦によって変更される)の戦闘攻撃機を含む合わせて80機以上の航空機(電子戦機、早期警戒機、汎用ヘリコプター、救難ヘリコプターなど)が搭載されている。それらの艦載機の戦力は強大で、航空機だけの戦闘を想定するならば、3隻の空母に積載された航空戦力は北朝鮮空軍など全く歯が立たないレベルである。

 また、空母打撃群を構成するそれぞれの巡洋艦や駆逐艦にも、北朝鮮領内を精密攻撃するトマホーク巡航ミサイルを装填することができる。それら10隻の軍艦から合わせて300発以上のトマホークミサイル攻撃が可能だ。

 さらに、空母打撃群の周辺海域海中の攻撃原潜(トマホークミサイル装填可能)や巡航ミサイル原潜(1隻あたり154発のトマホークミサイルを搭載)からもトマホークミサイルによる攻撃が可能である。

北朝鮮に対する先制攻撃の要件とは

 北朝鮮への米軍による先制攻撃の最大の軍事目的は、「第一波攻撃で北朝鮮の各種弾道ミサイル発射能力の大半を壊滅させること」である。この目的を達さないと、韓国や日本に対する報復攻撃として多数の弾道ミサイルが発射され、たとえそれらには核弾頭や化学弾頭それに生物兵器弾頭が搭載されていなくとも、韓国や日本は甚大な人的物的損害を被ることになる。

 しかし、北朝鮮軍の弾道ミサイルのほとんどが、地上移動式発射装置(TEL)から発射される形式に近代化されてしまっている。そして、TELを発見して攻撃することは極めて困難であるうえ、北朝鮮軍のTEL(少なくとも200輛以上と考えられる)はミサイル発射の直前まで地下施設や洞窟式格納施設に潜んでいるため、配置場所を特定することは至難の業である。

 もっとも、もしTELが潜んでいる洞窟施設や地下施設の移置を確定することができたとしても、通常の爆弾や対地攻撃用ミサイルでそれらの施設に潜んでいるTELを破壊することはできない。このような場合には、地中貫通爆弾(バンカーバスター:GBU-28)あるいはさらに強力な大型貫通爆弾(MOP:GBU-57)による攻撃が必要だ。

 しかしながら、空母に艦載されている戦闘攻撃機(F/A-18ホーネット、F/A-18E/Fスーパーホーネット)にはこれらの地中貫通爆弾は搭載できない。そのため、空母航空戦力による先制攻撃で、北朝鮮軍の弾道ミサイル報復能力を壊滅させることはできない。

スーパーホーネット戦闘攻撃機(写真:Boeing社)


 すなわち、たとえ3セットの空母打撃群が朝鮮半島周辺海域に接近していても、それだけでは先制攻撃は不可能である。

 そこで、GBU-57やGBU-28を搭載したB-2ステルス爆撃機、B-52戦略爆撃機、それにF-15E戦闘攻撃機(いずれも地上航空基地から発進する)の準備・展開状況により攻撃態勢が差し迫っているか否かが判断されることになる。

B-52爆撃機から投下されたGBU-57(白い物体)(写真:国防総省)


狙いは中国への外交的メッセージ

 とりあえずは先制攻撃の準備ではない(状況の変化に応じて、先制攻撃態勢へと移行する場合はありうる)とするならば、このように3セットもの空母打撃群を展開させる目的は何か。

 それは、北朝鮮だけでなく中国に対しても「アメリカの強大な海軍力を再確認させる」という外交的メッセージということになろう。

 アメリカ太平洋艦隊は2017年に入ってから立て続けに4件もの大きな事故を起こし、17名もの犠牲者を出してしまっている(本コラム2017年10月19日、8月31日)。それに対して、中国海軍関係者などからは「アメリカ海軍が極東海域をウロウロしているだけで周辺の船舶に迷惑をかけているのだから、とっとと消え失せろ」などといった声まで上がっている始末だ。そのうえ、習近平体制が強化され、南シナ海や東シナ海への中国海洋戦力の侵出がますます加速されることが確実となっている。

 とはいえ、いくら“日の出の勢い”の中国海軍も、アメリカ海軍が誇る空母打撃群に相当する海軍投射戦力まではいまだに手にしてはいない。その強力な空母打撃群を3セットも極東海域に繰り出すことによって、「アメリカ太平洋艦隊は健在である」というメッセージを示し、外交的に威圧しておこうというのがアメリカ側の狙いである。

翳りが見えてきた空母の威圧力

 ただし、過去半世紀にわたり、自他共に世界最強とみなされてきた米海軍空母打撃群(かつては空母戦闘群と呼んでいた)の地位も、決して安泰とはいえなくなってきている。

 たしかにこれまでは、アメリカ軍が臨戦態勢を完成させ攻撃開始をする目安は空母の展開状況で判断されていた。たとえば、湾岸戦争には原子力空母1隻と通常動力空母5隻(いずれも大型空母)が出動し、イラク戦争には原子力空母4隻と通常動力空母2隻が出動した。しかしながら上記のように、北朝鮮に対する先制攻撃は空母打撃群だけでは判断することができなくなっている。

 それ以上に米海軍にとって問題なのは、軍事強国の途を突き進んでいる中国は、米海軍空母打撃群をそれほど恐れなくなりつつあるという事実である。

 中国にとっての「中米対決仮想戦域」は南シナ海と東シナ海である。対艦弾道ミサイルをも含んだ各種対艦ミサイルをずらりと揃えた中国人民解放軍は、その戦域に入り込んでくる米海軍空母打撃群を「叩きのめす」態勢を着々と整えつつあるのだ。アメリカ海軍関係者の中からも、中国の接近阻止戦略の進捗状況に鑑みると、少なくとも中国に対しては「空母打撃群による威圧」は過去のものとなりつつある、という声が上がっている。

 米海軍はオバマ大統領の大幅な軍事予算削減のあおりで、艦艇のメンテナンス能力も低下しており、10隻の原子力空母のうち、現在作戦可能なのは、極東海域に出動中の3隻だけである。逼迫した予算の下で“かなり無理をしながら”展開させたそれら3隻の原子力空母が、北朝鮮や中国に対してアメリカ側が期待するような威圧効果を発揮できるかどうかは、微妙なところである。

筆者:北村 淳