ネット通販拡大による荷物量の急増で、ヤマト運輸の配送現場は逼迫している。同社は運賃引き上げや荷物量抑制を進め、働き方改革を急ぐ(撮影:大澤 誠)

「生みの苦しみ」とはこのことを言うのかもしれない。宅配便最大手のヤマトホールディングス(HD)が10月31日に発表した2017年4〜9月期(第2四半期)は、営業損益が128億円の赤字(前年同期は209億円の黒字)に転落。同社によれば1949年の上場以来、初めて中間決算としては赤字となった。

赤字となった要因は複数ある。一つは昨年度発覚した宅配便配送でのサービス残業問題を受けて、社員に対する調査を継続した結果、52億円の未払い賃金と5億円の社会保険料分を2017年4〜6月(1Q)期決算に追加計上したことだ。

また、働き方改革を推進するために、新しい勤怠管理システム導入のなどで労務関連は通期で90億円の費用増を見込む。

宅配便の採算悪化で豊作貧乏に


ただ、これらは一過性の費用。宅配便を含む主力のデリバリー事業の収益性が低下していることの方が重要だ。

アマゾンを中心に、ネット通販(EC)の拡大でヤマトの宅配便個数はこの5年で3割も増加している。ヤマトはデリバリー事業の従業員数を2割強増やす一方、外部業者への配達委託も進め対応に当たった。

だが、業界の人手不足もあり委託費用は膨らみ続けた。2016年度の宅配便1個当たりの運賃単価は559円と、この5年で約7%も低下。運ぶ荷物の量が増えても、稼げない「豊作貧乏」の状況に陥っている。

こうした状況を打開しようと、ヤマトは今春から大口顧客1100社を対象に平均15%以上の運賃引き上げを求め、交渉を進めてきた。直近で約9割が完了、交渉が済んだ企業のうち「運賃の引き上げを受け入れた企業は半分より多いが、8割とかではない」と芝崎健一専務執行役員は明かす。

芝崎専務は「交渉が進むにつれて、他社を使う企業が増えているのが現状」とも話す。推測の域を出ないが、運賃の引き上げをのまなかった数百社は、ヤマトから他社への乗り換えを決めた可能性がある。


芝崎専務はアマゾンとの運賃交渉について明言を避けたが、交渉が進んでいることは示唆した(記者撮影)。

焦点のアマゾンとの運賃交渉は進んでいるのか。同社はヤマトの宅配便取り扱い個数の1〜2割を占めるとされる。芝崎専務は「(アマゾンにも)働き方改革にご協力をいただくということで、この先、柔軟にいろんなことが合意されていく」として明言を避けた。

国内証券アナリストは「現状で1個当たり平均280円前後という運賃水準を、400円強へと約4割引き上げる方向のようだ」と話す。

採算重視で荷物量も抑制へ

ヤマトの宅配便をめぐる戦略は端的にいえば、こうなる。2017〜2018年度は単価を引き上げることに重きを置き、数量も抑制する。単価が改善し、輸送力増強が完了する2019年度から数量を増やし、収益の最大化を狙う、といったものだ。

運賃引き上げと並ぶ戦略の柱、大口顧客に対する荷物の受け入れ量規制(総量規制)はどの程度進んだのか。

5月に公表した2017年度期初の段階では宅配便個数を前年度よりも8200万個(前期比4.4%)減らす計画だった。これが、第1四半期決算時点では、年間の削減計画量は3600万個(同2%減)に後退する。

「値上げをしても使いたいという顧客が多かった」(柴崎専務)からだ。交渉の進捗を受け、第2四半期決算では年間で500万個を削減し、4100万個(同2.2%減)とした。

運賃引き上げや他社への契約切り替えのタイミングは大口顧客ごとにまちまちだが、「収益面では下期に効果が出始める」(柴崎専務)という見通しだ。

スタートトゥデイ運営の「ゾゾタウン」など通販大手の当日配達の取りやめや総量規制で、外部委託費も削減する。2017年度の宅配便1個当たりの単価は590円と、前期比31円(同5.5%)増の大幅な改善を見込む。

2017年度の通期業績予想は、上期に宅配便の配達個数が増えた分を反映させて、売上高を1兆4700億円から1兆5020億円(前期比2.4%増)に上方修正した。

一方、営業利益は期初予想の250億円(前期比28.3%減)を据置く。サービス残業問題発覚前の2015年度には685億円の営業利益が出ていたことからすれば、4割以下の水準だ。

大口顧客向けの運賃引き上げが通年で浸透するのは2018年度となるが、荷物量の抑制を継続させるため、業績の改善にはならない。2018年度には2016年度比で宅配便取り扱個い数を約1億個(5.2%)削減する。

ヤマトは荷物量を抑制している間に輸送力を引き上げ、ネット通販拡大による需要増に対応する考えだ。ヤマトが9月に発表した2019年度までの中期経営計画には、午後から夜間にかけての配達に特化したドライバー制度を新設。この新制度の中で、2019年までに1万人規模の人員を採用する計画だ。

ヤマトHDの山内雅喜社長は「2018年度以降は収益力を回復させ、再び成長軌道に乗せる」と意気込む。そして2019年度は宅配便取り扱い個数を引き上げ、過去最高となる営業利益720億円を目標に掲げる。

足元で上場以来初の営業赤字を計上しながらも、翌々期にはV字回復を果たすというのは挑戦的な目標にも見える。

この計画を達成するための、最大のポイントはヤマトがシェアを維持できるかにある。2016年度の宅配便シェアは佐川急便が31%、日本郵便が16%に対し、ヤマトが47%と圧倒的だ。ヤマト同様、佐川急便や日本郵便も人件費増を受け、大口顧客向けの運賃引き上げを進めている。

ただ、ヤマトが総量規制を打ち出したことで、業界の勢力図に変化をもたらす可能性がある。日本郵便の宅配便「ゆうパック」は今年9月の取り扱い個数が前年同月比で17%も増加。ネット通販拡大による需要増に加えて、これまでヤマトを使っていた顧客の流入が押し上げたとみられる。

日本郵便がシェア拡大で猛攻勢


今年9月、中期経営計画を発表するヤマトHDの山内雅喜社長。働き方改革と輸送力強化を進め、2019年度に最高益を目指す考えを示した(撮影:田所千代美)

実際、ヤマトから日本郵便に契約を切り替える大口荷主が相次ぐ。ある通販大手はヤマトと運賃交渉を進めてきたが、5割を超える値上げを提示され、契約継続を断念。11月をメドに日本郵便に契約を切り替える方向で最終調整を進める。日本郵便に切り替えた場合でも、顧客に負担してもらう送料は500円程度に据え置くため、配送コストは1割程度アップするという。

西日本のあるネット通販会社では今年8月にヤマトとの契約を打ち切り、日本郵便に切り替えた。荷物量の抑制を求められ、宅配業者の2社活用を検討したが、物流コストが増えるため、1社に絞った。同社の社長は「佐川急便も人手不足で現場は逼迫している。余力のある日本郵便に頼むのは自然な流れだった」と話す。

宅配便でヤマトと佐川急便の後塵を拝してきた日本郵便は目下、シェア拡大に躍起になっている。日本郵政グループ傘下の日本郵便にとって、ゆうちょ銀行やかんぽ生命に比べ、十分な収益貢献ができていないことにはじくじたる思いがある。

郵便の取扱数量が年々減る中、ゆうパックに商機を見いだす。特に力を入れるのが、B to C(通販の個人向け配達)だ。日本郵便の横山邦男社長は、「B to Cでは現在3割のシェアを5割に引き上げたい」と話し、鼻息が荒い。

一方、業界2位の佐川急便は強みとする企業間物流に経営資源を振り向けたい考えだ。2013年度にそれまで配送を請け負っていたアマゾンとの契約を解除したのも、採算重視の考えからだ。

佐川急便を傘下に持つSGホールディングスの中島俊一取締役は「宅配便には輸送能力の制約があり、労働環境のさらなる悪化や配送遅延といった事態は避けたい。シェアを追うのではなく、無理のない形で需要増に対応する」と慎重な姿勢を見せる。

シェアで半数を握るヤマトの優位はすぐに揺らぐことはないものの、日本郵便の攻勢は攪乱要因になりうる。また、輸送力増強のカギを握る宅配ドライバーの確保をめぐっても、他社との取り合いになるのは必至だ。

人件費増を運賃に転嫁し続ければ、さらなる顧客離れが進みかねない。再び数量を取りに行った時に通販事業者が戻ってくるのだろうか?