エリートとはフランス語のéliteが由来で、「選び抜かれた人」という意味だ。

日本で言われる“エリート”とは、学歴が高く且つ年収の高い男性を指す場合が多い。

東京大学出身、世界的IT企業のアメリカ本社への転職が決まっている亮介は、まさに世に言う”エリート”。

そんな亮介が、日本に一時帰国している半年の間に、日本での婚活を決意する。

しかし、亮介の婚活はなかなか苦戦を強いられる。食事会で出会った小悪魔女子の瞳、ホームパーティーで出会った綾乃は、亮介の理想には合わなかった。

しかし、そのパーティーの帰り道、亮介にも心惹かれる女性が現れる・・・?




「やばい、急がなきゃ。」

香奈は外資系の製薬会社でMRとして働いており、営業先から戻って車を置くとすぐに、待ち合わせ場所である表参道に向かった。

-間に合うかな?でもその前に化粧直しもしたい・・・

今日は先日ホームパーティーの帰りに出会った亮介との待ち合わせの日だ。

-どうしよう、なんか緊張してきた。

亮介との出会いは想定外だった。

亮介と出会ったあの日、香奈は社会人向けテニスサークルで出会った片瀬のホームパーティーに呼ばれて行った。

取引先の“先生”たちに呼ばれる豪奢なパーティーに出席することはあっても、先日のような男女の思惑うごめく場にはあまり慣れていなかった。

綺麗に着飾った男女で溢れる中、居心地の悪さを感じていると、同じようにその場に馴染めていない男がいた。

それが亮介だった。

背が高く、整った顔立ち 。それに加え、大きな切れ長の二重がどこか寂しそうで、何となく目で追ってしまっていた。

しかし、声をかけようとすると誰かに話しかけられたり、亮介の方も誰かと話していたりと機会を伺えないでいた。

-縁がないんだわ、もう疲れたし帰ろう。

そう思った矢先、亮介がドアから出て行くのが見えた。

―これは神様がくれたチャンスかもしれない-

香奈は今年28歳、1年半ほど彼氏がいないし、そろそろ結婚に焦りを感じている。すぐに自分も後を追い、思い切って声をかけた。

しかし、このままでは亮介はタクシーでも捕まえて早々に帰ってしまうかもしれない。

苦肉の策として、「酔いを覚ましたい」と言って、一緒に外を歩くことにし、何とか少しは時間が稼げた。

そこからは酔いと緊張とで何を話したかあまり覚えていない。

けれどぼんやりとだが、さり気なくドアを開けてくれたり、段差を気にしてくれたりなど、亮介の紳士的な面にドキドキしたことは覚えている。

「失礼でなければ、連絡先教えてもらえませんか?」

亮介から連絡先を聞かれ食事に誘われた時は、嬉しくて帰りの電車内で軽くガッツポーズをしてしまった。


お互いに惹かれ合う二人。デートの行方は?


亮介から見た香奈とは?


午後8時10分、亮介は店の中で、少しだけ緊張しながら待っていた。

「遅れてごめんなさい」と言って現れた香奈は、パリッとしたパンツスーツが良く似合っていた。女性のスーツ姿はカッコよくて色気がある。ブランドが一目で分からない、上質な皮の鞄を持っているのも好感が持てた。

ここは、表参道にある『レストラン カシータ』。美味しい料理だけでなく、接客も素晴らしく、亮介のお気に入りである。




「いや、全然。忙しいのにありがとう。」

初めてのデートは毎回少し緊張するが、この日は二人とも、すぐに打ち解けていった。

「昔、アルゼンチン人の面白い同僚がいたんだけどさ、オフィスに帰って来たらそいつ、大声で歌いながらタンゴを踊ってた事があって。お前も踊ろうぜって無理やり踊らされたよ。」

「あはは、そんな人本当にいるんだ!と言うか、男二人でオフィスでタンゴってシュール過ぎ!」

ケタケタと大きな口を開けて楽しそうに笑う香奈に、亮介はいつもよりも饒舌になった。香奈とはどんな話題でも楽しく話せる。

「今、医療業界って実際どの分野が注目されているの?よく耳にするシミュレーションとか電子カルテのビジネスモデルって今どうなってるの?」

「確かに、その分野は前からずっと言われているけど、実際日本ではビジネスモデルとしてどう確立させるかって言うところにまだ課題はあって・・・」

亮介は、女性と難しい話をしたい、とは特に思っていない。けれど、仕事の話から時事ネタ、くだらない話と色々な引き出しを持っていて会話に困らない香奈は、新鮮で魅力的だった。

「そうそう、この間読んだ記事に書いてあったんだけど・・・」

そう言って香奈が鞄からiPadを取り出そうとした時、偶然ポトンッと何かが床に落ちた。

見てみると、着物の柄でできた小さなポーチだった。

香奈は「わっ!」と慌てて拾い、恥ずかしそうに鞄の中にそのポーチを戻した。

「着物柄って珍しいね、手作り?」

聞くのは無粋かな、とは思ったが、慌てた様子が可愛くて、何となく突っこんでみたくなった。

すると香奈は頰を赤くしながら渋々口を開く。

「私、お婆ちゃんっ子だったんだけど、お婆ちゃんが亡くなった時に形見としてもらった古い着物で作ったの。だけどかなり下手だし、使いこんでるから見られるのが恥ずかしくて。」

それまでのサバサバと頭の回転の早いイメージの香奈とは違った、女性らしく可愛いらしい面が垣間見られ、思わずグッと来た。

―こんな子いるんだ。

亮介の胸が一気に高鳴る。

その日は次のデートの約束をして、23時にはお開きとなった。



それから次のデートまで、何度かLINEを送りあった。内容は日常の取るに足らないことだったが、亮介には繋がり合っていること自体が嬉しい。

2回目のデートは、恵比寿の『イクラ』にした。

おしゃれでアンティークな雰囲気が香奈にぴったりだと思ったからだ。

前回同様、仕事の話やくだらない話で盛り上がる。香奈も心から楽しんでいるようだった。

「…亮介君ってほんと面白い人ね。ところで、聞きたいことがあるんだけど。」

聞きたいこと?亮介は核心に迫る質問をされそうで、ドキッとした。


亮介が語った内容とは?


亮介の結婚観


「亮介君って結婚願望あるの?」

「もちろん。日本で出会いたいなと思って、探しているところ。」

そうなの?と少し驚いて香奈は続けた。

「でも半年もしないうちにアメリカに行っちゃうんでしょう?」




2人で会うのは2回目だが、亮介は香奈と真剣に向き合いたいと思っていた。そのため、少しでも誤解されないようにと、自分の思いを丁寧に伝えた。

すぐに籍を入れなくても良いこと、相手が日本で仕事を続けたければ、結婚後も日本で続けてくれて構わないこと、しかしその場合は、しばらくの間は別居婚になってしまうことなど。

「亮介君って、変わってるね。なんでそこまで結婚に焦るの?」

確かにそこまで焦る必要は無いのかも知れない。しかし、ドイツに行った当初の寂しかった記憶から、アメリカに行く前に、心の支えが欲しかった。

香奈はワインを口に含んで、亮介を見てにっと笑う。

「亮介君の考え方って珍しいけど、今の時代、それもありだと思う。」

香奈は前々から海外で働いてみたい、と考えていた。今の仕事が落ち着いたらアメリカで修士を取得したり、現地の最新医療情報について勉強するのもキャリアの幅が広がる。

亮介は香奈の言葉を聞いてホッとした。出張もあるので、日本に行く機会は年に何度もあるが、初めからアメリカについて行く、または別居婚前提なんて、と嫌がられても仕方がない。

「でも、別居婚のまま子供ができたらどうするの?」

こんな風に聞いてくると言うことは、少しは脈ありだろうか?

「その時の状況で相談して決めたいと思う。今の会社で実績ができたら、そのうち日本での起業も考えているし。 」

すると、香奈の顔が、これまでの楽しそうなにこやかな表情とは一変して、険しい表情に変わった。

「亮介君、起業するつもりなの・・・?」

▶NEXT:11月9日 木曜更新予定
香奈の顔が曇った訳とは・・・?