11月1日午前11時にお目見えした新型アイボ。発売は2018年1月11日の予定だ(撮影:今井康一)

「おいで!アイボ」。ソニーの平井一夫社長の呼びかけに応じて登場したのは、3体の犬型ロボット。しっぽをふりながら愛くるしい動きで社長の足元へ歩み寄った一体を抱き上げた平井社長は、相好を崩した。

11月1日午前11時に東京・品川の本社で開かれた新製品発表会で、ソニーは2006年に一度撤退した犬型ロボット「AIBO(アイボ)」の新型、「aibo」を公開した。

「1体として同じアイボはない」


平井社長の呼びかけに応じて登場したアイボ(撮影:今井康一)

発売は、奇しくも戌年の2018年1月11日。ソニーのネットストア限定で展開する予定だ。本体価格は19万8000円(税抜き)。別途、クラウド解析された情報を元にアイボを成長させたり、データをバックアップしたりするために、3年で9万円(または月払い2980円)の基本プランに加入する必要がある。

平井社長は、2016年6月の経営方針説明会でAI(人工知能)、ロボティクス事業への参入を表明していたが、その第一弾は同社のロボット事業の原点、家庭用ロボットに回帰する形となった。

原点回帰といっても、機能は格段に進化している。最大の特徴は、人とのふれあいに応じて個体ごとに独自の “成長”をしていくことだ。アイボはネットを介してクラウドと常時連携し、クラウド上で解析された情報を基にそれぞれの性格を作り上げていく。「1体として同じアイボを作ることはできない」(開発に携わったAIロボティクスビジネスグループ長の川西泉執行役員)。

さらに、人が呼び掛けなくても、アイボのほうから能動的に働きかけることができる。複数搭載されたセンサーで、画像や音声を認識・解析し、だんだんと飼い主の対応や周辺の環境を学んでいく。人の顔も、20人まで判別することができる。ここには、ディープラーニングの技術を活用した。感情に合わせてコロコロと変わる瞳には、次世代ディスプレーとして注目される有機ELが使われている。

先代アイボの開発に携わった技術者も集結

アイボ復活プロジェクトチームが立ち上がったのは、わずか1年半前のこと。中心となったのは、カメラとスマホの技術者などで、30代の若手が多いという。かつてアイボの開発に携わった技術者も集結した。


アイボを抱える平井一夫社長(右)と、開発にかかわった川西泉・執行役員(撮影:今井康一)

川西氏は「アイボ撤退以降も、社内ではロボットを作りたい技術者がたくさんいた。それが、近年業界としても、社内でも盛り上がってきて、トップマネジメントの意思決定がされた」と開発の経緯を語る。平井社長も、「何度も現場に足を運ん」で見守ってきたという。

確かに現在、AI技術を活用した製品開発は加熱している。2017年には、米グーグルやLINE、アマゾンなどからAIスピーカーが相次いで発売された。ソニーも10月、人を認識し能動的に話しかけることのできるコミュニケーションロボット「Xperia Hello!」を発売したばかりだ。

アイボの場合、犬の鳴き声で応えるだけで人の言葉を話すわけではないが、理解をすることはできる。将来的には、教育、高齢者の見守り、パーソナルアシスタントなどへの活用が想定されており、同じ潮流の中に位置付けることができよう。

ただ、それゆえに1996年から2006年の撤退時までに約15万台売れた先代のアイボと比べると、市場における目新しさは薄れているとも言える。そもそも、構造改革を進めていた12年前、戦略的な成長が見込めないとして一度撤退した事業に、今再参入する意図はどこにあるのか。

背景には、業績の回復がある。アイボ発表の前日にあたる10月31日、ソニーは2018年3月期の中間決算を発表した。その中で、通期の営業益は20年ぶりに過去最高を更新する見込みであることがわかった。

2013年に発売したプレイステーション4の好調が続くゲーム事業のほか、イメージセンサー、金融などが牽引し、中間の営業利益は前年同期比255%増の3618億円となった。下期もこの基調は続く見通しで、通期業績は売上高以下すべてを上方修正した。これを株式市場は好感し、11月1日の株価は一時12%の上昇となった。

「自らを20年間超えられなかった」

ただ、ソニーはこの業績回復をぬか喜びできる段階にはないと認識しているようだ。ソニーは復活したのかとの記者からの質問に対し、決算会見に出席した吉田憲一郎副社長は、「復活というよりは、自らを20年間超えられなかったととらえるべきだ」と厳しい見方を示した。


ソニーはかつての輝きを取り戻せることができるか(撮影:今井康一)

実際、今期の大幅増益は、前期における映画や電池事業の減損がなくなる効果も大きい。また2017年7〜9月だけで見ると、スマートフォンを展開するモバイル・コミュニケーション事業は25億円の営業損失を計上している。そして世界に目を向けると、韓国サムスン電子の時価総額は今やソニーの約7倍と、大きな差が開いたままだ。

【11月2日16:00追記】初出時、時価総額の差を「70倍」としていましたが、「7倍」に訂正しました。

業績の回復で、新事業にチャレンジする余裕はできた。その中で今なお根強いファンの多いアイボを復活させることは、一度輝きを失ってしまったソニーブランド磨き直しへの挑戦にも見える。ソニーの復活ははたして本物か。アイボはそれを占ううえでの試金石になりそうだ。