女性徒は地毛の色を否定され続けた(depositphotos.com)

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「茶髪は校則違反」であることを理由に学校から黒染めを強要され不登校になったとして、大阪府羽曳野市の府立高校に通う高校3年の女子生徒が、大阪府を相手に慰謝料など計約220万円を求める損害賠償訴訟を大阪地裁に起こした。

 10月27日の第1回口頭弁論で大阪府側は請求棄却を要求し全面的に争う姿勢を示した! この件で争うとした大阪府側の判断も信じられない。

 海外メディア(BBC、ロイター、ガーディアン、タイム、クオーツなど)もいち早くこのニュースを取り上げ、日本の高校での厳しすぎる校則に言及した。

 髪染めが禁止されている学校で生徒が茶髪にしていたのならいざ知らず、生徒の髪は生まれつき茶色だった。「人格侵害」とも受け取られかねない学校や大阪府側の対応に周囲からは怒りの声が漏れる。

過呼吸やパニック障害などを訴えて不登校に

 女子生徒側が裁判所に提出した訴状には、忸怩たる思いが次のように綴られている。

 女子生徒は2年半前の平成27年春に地元の中学を卒業し高校に入学した。母親は娘の髪の色が生まれつき茶色だったことで、いじめや差別の対象になることを懸念し入学前に学校側に事情を説明。すると担当教諭は校則を盾に「その髪の色では入学することはできない」と切り捨てた。

 やむなく女子生徒は髪染めをして登校したが、1年後の2年生の春ごろ、頭髪と頭皮に痛みを訴えた。それでも学校の黒染め強要はエスカレートし、4日に1度のペースで頭髪指導を名目に「黒染めが不十分だ」などと叱責。さらに「黒染めを約束するまで帰さへんぞ」など脅迫の文言まで飛び出し、女子生徒は泣きながら帰宅することもあったという。

学校側はあまり無知すぎて単に染めればいいだけだと考えたのか?

 厚生労働省のHP「毛染めによる皮膚障害」によると

●ヘアカラーリング剤の中では酸化染毛剤が最も広く使用されているが、主成分として酸化染料を含むため、染毛料等の他のカラーリング剤と比べてアレルギーを引き起こしやすい。

●治療に30日以上を要する症例が見られるなど、人によっては、アレルギー性接触皮膚炎が日常生活に支障を来すほど重篤化することがある。

●これまでに毛染めで異常を感じたことのない人であっても、継続的に毛染めを行ううちにアレルギー性接触皮膚炎になることがある。

●アレルギーの場合、一旦症状が治まっても、再度使用すれば発症し、次第に症状が重くなり、全身症状を呈することもある。

●年齢のうちに酸化染毛剤で毛染めを行い、酸化染料との接触回数が増加すると、アレルギーになるリスクが高まる可能性があると考えられる、などと注意を呼びかけている。(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124268.html)

 皮膚障害を起こすのはパラフェニレンジアミン、メタアミノフェノール、パラアミノフェノール、トルエン-2、5-ジアミンなどの酸化染料だ。まれではあるが、アレルギーによって急激なショック状態を引き起こす、アナフィラキシーとなるケースもある。これは血液循環障害や呼吸困難を来し、死に至ることすらある。

他の生徒や保護者に女子生徒がすでに退学したと虚偽説明

 女子生徒はそれでもしばらく我慢を続けたが、結局2年生の夏には過呼吸やパニック障害などを訴えて不登校になった。この間、学校側は女子生徒の精神的苦痛や特殊な事情に寄り添うことはなく「母子家庭やから茶髪にしてるんか」と告げ、一方的に授業への出席を禁じた上に、秋の修学旅行や文化祭への参加も認めなかった。

 あらゆる不定愁訴は複合的だ。単純に毛染めのせいなどではないが、毛染めを強要されつづけた大きなストレス、現実的な皮膚障害、修学旅行や文化祭への参加も認めないいじめ同様の学校側の対応が積み重ねられ結果であるだろう。

 女子生徒は今年3年生に進級し来春には卒業予定だが現在も不登校が続いている。学校は生徒の氏名を生徒名簿から削除。ほかの生徒や保護者には女子生徒がすでに退学したなどと虚偽説明し、教室に席も用意していない。

 さらに校長は今年6月、女子生徒の代理人弁護士に対し「頭髪指導やその後の対応が不適切であるとの司法判断が出ない限り、学校として対応を変えるつもりはない」と強気の姿勢を示した。

 女子生徒の身体的特徴を一顧だにせず、ルールの適用のみに固執する学校側の対応には、規律の遵守が求められる組織の関係者からも疑問の声が上がる。

 ある警察関係者は「業務を遂行する上でいたずらに華美な服装や髪型は御法度だ」と前置きした上で「生まれつき茶色い髪の警察官に黒染めを強要することは考えにくい」と話す。警備業界の関係者も「中途半端に髪染めを強要すればパワーハラスメントに該当しかねない」と語る。

 かつて東京の都立高校で生徒の茶髪やパーマが問題視され、地毛と訴えた生徒から「地毛証明書」を提出させていたことが明らかになった。女子生徒の母親は他府県の制度をもとに「地毛登録のような制度があれば申請したい」と担当教諭らに伝えていたが、学校側は応じず制度の導入を検討した気配すらなかった。

 別の都道府県の高校の現役教諭は「高校生に一定のルールが必要なことは言うまでもないが、生徒の身体的特徴に配慮せずに毛染めを強要することは明らかな人権侵害といえる」と指摘する。

 女子生徒の身体的な特徴を否定し続けた学校側の対応は、どこか一人ひとりの個性や特性を認めず異物を排除し不寛容な風潮を強める現在の日本と相似形のように見えて仕方がない。
(文=ジャーナリスト・瀬河栄一)