同じ食事量で18キロ増 原因は"イライラ"

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ネガティブな感情を完全に制御することは難しい。それでも「怒り」がいかに社会生活や家庭生活で不利益をもたらすのかを理解しておけば、すこしは抑制できるようになるかもしれない。「本当にあった怖い事例」を紹介しよう――。

■心筋梗塞のリスクを高める「怒り方」

怒りは生理現象。健康によくないというのはなんとなくわかる。

「怒って興奮状態になると、人は、アドレナリンを活発に分泌します。アドレナリンには集中力を高めるなどプラスの作用もありますが、同時に血圧や心拍数を上昇させ、循環器系に高い負荷を与えます。高血圧の状態が続くと、それだけ心臓に負担がかかって心筋梗塞のリスクを高めますし、血管が切れて脳内出血を起こすこともありうるでしょう」

そう語るのは、新宿ゲートウェイクリニック院長の吉野聡氏。

「職場の雰囲気がめちゃくちゃ悪くなるぐらい、いつも周りに怒りを撒き散らしている40代の管理職の方がいたのですが、その方は、健康診断でも常に高血圧が問題視されていました。そしてある日、趣味のダイビング中、海から上がってきた瞬間に心臓系の疾患で昏倒し、そのまま緊急入院することになったんです。ベテランダイバーなので、減圧症などは考えにくい。その方は若いうちから怒りっぽかったそうなんですが、そういう方は、長年血管に高い圧がかかっていて、劣化も早いんです」

■イライラするとインフルエンザにかかりやすくなる

血管は消耗品。若い頃のツケが今になって回ってくるとは恐ろしい。「イライラすると、血中に、コルチゾールというステロイドホルモンが増加します。このホルモンは炎症の治療などにも使われていますが、過剰分泌されると免疫力が低下し、風邪やインフルエンザなど病気にかかりやすくなります」

このコルチゾールは、「ストレスホルモン」とも呼ばれる。免疫力低下のほかにも、もう1つ、体に見えやすい変化を引き起こすこともある。

「血糖値を上げたり、脂肪を溜め込んだりする作用もあるんです。あるIT企業の40代の非常に優秀なエンジニアの話です。手がけるプロダクトは社内外からいつも高い評価を受け、出世して、プロジェクトチームを任される立場になったんですが、彼は上に立って人をまとめるのが大の苦手。そのうち思い通りに動かない部下たちに対して、毎日カリカリするようになったんです。すると、次第にブクブクと太り出し、18キロも体重が増加。食事量は変わっていなかったようなので、コルチゾールが関係していると思われます」

■心の病を患うケースもある

こうしたリスクは、フィジカルだけでなく、メンタル面にも表れる。

「怒りっぽい人というのは、他人の評価を気にする傾向があります。自分が思い描いている評価より周りの評価が低いと、強いストレスを感じてしまう。たとえば、自信を持って作り上げた資料を上司にボツにされたとき、我慢強い人は『上司とは考え方が違う』などと、自分の中で折り合いをつけられる。一方で『上司の理解力が足りない』などと憤る人は、新たなストレスを呼び込んでしまいます。こうした状況が重なると、ひどい場合はうつになったり、心の病を患うケースもあるのです」

メンタルヘルスに関する研究では、究極のストレスに打ち勝つ指標として、SOC(Sense of Coherence)という3つの要素がある。1つ目は「有意味感」。辛い場面に直面していても、それが何らかの意味を持つものとして認識できる感覚のこと。2つ目は「把握可能感」。困難な状況を、焦らず冷静に分析し、全体像が把握できる感覚のこと。3つ目は「処理可能感」。どれほど辛い立場でも、「何とかなるだろう」と思える感覚。

「SOCが高い人ほど、実際にうつになりにくいんです。そういう人は、怒りの感情も湧きにくい。SOCは、腹を立てやすいかどうかにも、密接に関係していると思います」

感情と言動を上手にコントロールして、健やかな毎日を送りたい。

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吉野 聡
新宿ゲートウェイクリニック院長。東京都知事部局健康管理医などを経て、2012年吉野聡産業医事務所を設立。15年開院。著書に『「職場のメンタルヘルス」を強化する』(ダイヤモンド社)。
 

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(友清 哲)