白と黒がくっきりと表示される「iPhone X」の有機ELディスプレー。FacebookアプリはiPhone Xに対応しているため、キーボードのレイアウトも打ちやすい(筆者撮影)

米カリフォルニア州クパチーノのアップル新社屋にあるSteve Jobs Theaterのこけら落としとして開催されたiPhone 8シリーズ、およびiPhone Xの発表会から2カ月近く。いよいよ、11月3日に“iPhoneの新たな10年”を開拓するために開発されたiPhone Xが発売される。


すでに開始されたネット予約は、各キャリア、アップルストアとも、一時的につながりにくくなるなど、熱心なiPhoneファンが殺到したようだ。11月3日にはアップルストアの店頭にて予約のない顧客にも先着での販売を予告していることから、開店前の行列もできることだろう。

すでに製品概要については発表会で語られており、東洋経済オンラインでは松村太郎氏によるレビュー(iPhoneX最速レビュー、使って分かった超進化)も掲載している。そのため、この記事ではすでに発売されているiPhone 8シリーズをなぞりながら、iPhone XとiPhone 8シリーズで心揺れ動いている読者向けに、筆者が感じた“選択のポイント”にフォーカスを当てて記事を進めたい。

新しいiPhoneの基本形を模索したモデル

以前、発表会のレポート(iPhone Xが「記念碑的モデル」といえるワケ)で筆者は「iPhone 8シリーズは初代から続くiPhoneの系譜を引き継ぐ正当後継モデル」「iPhone Xはさまざまな制約やルールをいったんリセットし、新しいiPhoneの基本形を模索したモデル」と紹介した。

実際、iPhone 8シリーズとiPhone Xは使用されるプロセッサー(CPU、GPU)が同じばかりでなく、カメラに使われるセンサーや信号処理プロセッサーも同等で、(iPhone 8 Plusに比べ)望遠側のレンズや手ブレ補正といった違いはあるものの、基本プラットフォームは共通だ。

では、何がiPhone 8シリーズと異なるのだろうか。

それは、初代iPhoneから続く操作性や互換性を守り続けるのではなく、最新技術に合わせてiPhoneを再定義するとしたら何ができるのか、ゼロベースで考え直した製品ということだ。

OLED(有機EL)ディスプレーを使えば何ができるのか。当時とは異なるさまざまな要素技術を組み合わせたうえで、より高い使い勝手やアプリ開発者たちの創造力を引き出すには、どういったアプローチがあるのか。

初代の発売から10年を過ぎ、新しい10年を作り上げていくための基礎となる製品がiPhone Xだ。しかし一方では、iPhoneを使い慣れたユーザーの中には、ホームボタンを廃止したり、画面の縦横比が変化しているiPhone Xに対して、「操作面でかなり慣れが必要なのでは?」という不安感も持っているのではないだろうか。

操作性に対する懸念は5分で払拭

しかし、実際に使用してみると操作性に対する懸念は、ものの5分ほどで消し飛んでしまった。従来のiPhoneシリーズとiPhone Xは、確かに操作の作法が異なる面はある。しかし、その違いは僅かなもので、使用感はまさにiPhone。頭で考えるよりも、ずっと馴染む速度は早かった。

一方、iPhone 8シリーズに比べると高価なうえ、基本性能も大きくは違わないiPhone Xを選ぶなら、どこに注目すべきなのか。そのポイントも見えてきた。それは体感・体験。いわば“フィーリング”だ。

実用性、機能性といった言葉にしやすい部分だけでなく、使ううえでの心地よさ、満足感という意味だ。製品の質感もその中には含まれるだろうが、ディスプレー表示の質、握りやすさ、操作しやすさなど感性に訴える部分での作り込みをどう捉えるかが、iPhone Xの評価につながる。

アップルによると、理想とするiPhoneのコンセプトデザインは、本体の筐体を意識させず、手のひらにディスプレーそのものを包み込み、それを操作するというものだそうだ。iPhone Xの筐体は、まさにその方向に向かったデザインだ。

ステンレスのフレームを挟むカバーガラスと、設計上必要なスリットを埋める樹脂部分などは、ほぼ継ぎ目なく平滑に組み立てられており、とりわけスペースグレーモデルはパッと見ただけでは1つの塊のように見える。

さらにカバーガラスの下ではなく、表面に表示されているかのように見えるOLEDディスプレーの映像は黒がほとんど光らないこともあって、極めてコントラストが高い。HDR(ハイダイナミックレンジ)対応しているのはもちろんだが、特に素晴らしいのが色再現の確かさだ。

これまでのスマートフォン向けの小型OLEDディスプレーの多くは、鮮やかな色は出るものの、わざとらしく派手に見える製品が多かったが、本機はアップルが以前から提唱してきたディスプレーP3という規格に準じている。詳細は省くが、鮮やかな色も再現できるが、単に派手に引き延ばして表示するのではなく的確な色再現を見せる。

これはiPhone 7やiPhone 8でも、取り組みや表示手法としては同じなのだが、液晶並みの高輝度と色再現を実現したことで、OLEDディスプレーのよさが生かされている。OLEDディスプレーのよさとは色純度の高さ。特に中間調から暗部にかけて、混じりけのない色は“コク”があり、液晶よりも画面全体を描く“絵の具の数が多い”。

液晶の場合、暗部では漏れ光で色純度やコントラストが落ちるが、そうした部分での差が写真や動画を見る際だけでなく、ウェブを見ているときにも感覚的に心地よく思えるのは、OLEDディスプレーの本質的なよさだろう。

輝度や色の均一性も気になるところはない

もちろんOLEDディスプレーを使う製品は本機だけではないが、色再現の確かさの上に成り立つ本物指向の作り込みによって引き出される美しさをiPhone Xのディスプレーは持つ。

OLEDディスプレーと言えども視野角はあり、斜めから見ると、やや色温度に変化が表れる。しかし、IPS液晶を採用するiPhone 8シリーズは、色温度変化に加えて多少のトーンカーブの変化も見られるが、それは本機のディスプレーには感じない。

ユニフォミティ(輝度や色の均一性)も気になるところはなく、True Tone(6つのセンサーで色温度を計測し、ディスプレーの色温度を最適にする機能)の動きも納得のいくものだった。もちろん同じ機能はiPhone 8にも備わっているが、比べてみるとiPhone Xのほうがホワイトバランスの一貫性が高い。

True Toneのよさは、その端末を使っている環境に馴染む表示が行われること。iPhone 8シリーズやiPad Proなどでもよさを実感はするが、さすがに完璧というわけではなく、やや赤く、あるいは黄色く見えてしまう場合もある。それはiPhone Xでも同様だが、その揺れが小さい。結果、白が背景の文書などを表示してiPhoneを机の上に置き、やや引き気味に傍観してみると、まるで周りの照明に当てられた白い紙のようにディスプレーが見える。

もう1つの大きなフィーリングの違いは、画面のサイズと手に持ったときの“サイズ感”だ。個人差はあるだろうが、iPhone Xのサイズ感と画面の大きさは絶妙。4.7インチのiPhoneと5.5インチのiPhone Plusの間、どちらかと言えば4.7インチに近いフィーリングで操作できる。にもかかわらず、画面サイズは5.8インチもあり、表示される情報量はiPhone Plusに近い。

縦横比が異なるため単純な比較はできないが、iPhone Xは4.7インチiPhoneのコンパクトで持ちやすいという長所と、5.5インチiPhone Plusの魅力である画面サイズやデュアルレンズカメラといった特徴の両方を兼ね備えているのだ。

皆さんの中にも、画面の大きさ、デュアルカメラやポートレートモード、それに容量の大きなバッテリーが生み出す電池のもちのよさなどを魅力に思いつつも、片手での操作性や胸ポケットで大きさを持て余し気味のiPhone Plusには手が伸びないという方がいないだろうか。iPhone XはiPhone Plusシリーズが持つ機能性や画面サイズ、バッテリーなどを持ちながら、iPhoneシリーズと同等の使用感を持つ端末だ。

実際、片手での使用に特に問題は感じない。手の小さなユーザーでも、iOS11の日本語フリック入力ならば、右寄せ、左寄せで親指の届きやすい場所に入力エリアを寄せることが可能だ。

そうした4.7インチライクな操作感、胸ポケット内での大きすぎない存在感。重すぎない重量。これらの上で、iPhone 8 Plusよりも優れたデュアルカメラとインカメラに長持ちバッテリー(iPhone 7比で2時間駆動時間が長い)なのだ。

一方で発売前から懸念していた操作性に関してはどうだろうか。

スワイプがホームボタンの代わりになるのか?

筆者が疑問に感じていたのは、ホームボタンの廃止に伴い、画面下端からスワイプするジェスチャーがホームボタン相当の操作に割り当てられていることだ。

ちなみに下端からスワイプし、画面中央部でホールドするとタスク切り替えとなる。タスク切り替え画面でいずれかのタスクをタップ&ホールドすると、各タスクに「-」マークが表示され、自由にタスクを終了させることができる(従来どおり、上方向にスナップしてもタスクは終了できる)。

一般的なiPhoneではコントロールセンターを呼び出す操作をホームボタン相当に変えて大丈夫だろうか?と思ったが、使い始めて3〜4分もすれば間違えることもなくなった。コントロールセンターの呼び出しは、右上隅から画面中央へのスワイプで行える(真上からのスワイプは、従来どおりの通知センター呼び出し)。

言葉で書くと雰囲気がつかめないかもしないが、従来からのiPhoneに慣れている利用者も、ホームボタン相当の操作とコントロールセンターの呼び出し。この2つを知っていれば、特に問題なく使えるはずだ。

次に懸念していたのは、画面の縦横比が変化したことによるアプリの互換性だ。縦横比が変化するため、iPhone Xの大画面を生かしたアプリとするには、あらためてユーザーインターフェースのレイアウトをしなおさねばならない。iPhone X向けにレイアウトし直さないアプリは、あまりよいデザインに見えないのでは……と考えていた。

しかし、実際には上下に黒帯(下帯にはホーム操作時の目安を示す横方向のバーが表示される)が表示されて表示エリアが16:9に制限され、まるで従来のiPhoneを操作しているかのように使える。つまり、従来レイアウトのアプリは(iPhoneより少し大きめ、iPhone Plusよりも少し小さめの表示ながら)これまでどおりと同じ感覚ということだ。OLEDディスプレーの黒が沈んでいるため、黒帯表示とベゼルの境目は気にならない。

アプリによりキーボードレイアウトが変わる


iPhone X非対応のLINEではキーボードレイアウトが異なる(筆者撮影)

一点、違和感を感じるとするなら、キーボードレイアウトがiPhone X対応アプリとそれ以外で変化することだろうか。iPhone X対応アプリはディスプレーが縦長になることを前提に、言語切り替えボタンがキーボードレイアウト外、下側に外れ、その分、キーレイアウトに余裕が出るため打ちやすくなる。しかし、新旧レイアウトの異なるキーボードがアプリの対応状況に応じて混在することになる。

最後にFace ID。アップルは発表当初より、指紋認証のTouch IDより優れた点として「速さ」「正確さ」の2点を繰り返し訴求していた。このうち「速さ」に関しては、実際に使ってみればすぐにわかる。どんな状況でも、iPhoneの前で目線を向ければ(オプションでオフにもできるが、デフォルトでは“見つめる”必要がある)即座に個人を認識してくれる。

しかし、もう1つの「正確さ」には、いくらTouch IDよりも正答率が高く、誤って認識する確立は100万分の1でしかない……といったところで疑わしいと思っている人はいるだろう。

たとえば筆者はこの1年で49キロ減量したのだが、その結果、顔つきはかなり変化している。そこまでの急激な変化はないにしろ、伸ばしていたヒゲを剃るなどの変化は考えられるだろう。

しかし、ここではiOS11とA11Bionicの機械学習機能が働いているのだという。

すなわち、毎日の微妙な変化――認証時にiPhone X自身が識別した“ゆらぎ”を逐次学習していき、一般的な体重の変化や顔つきの変化には対応できるようになっている。たとえ長く伸ばしていたヒゲと髪の毛を同時にそり落とし、Face IDでの認識に失敗したとしても、直後にパスワードでログインして即座に成功すると「これは単なる揺らぎである」と判別し、次回以降の判別制度向上にフィードバックされる。

では真っ暗な場所での認識はどうなのだろうか?

Face IDは赤外線のドットをマトリックス状に照射し、そのドット配置を赤外線カメラで読み取ることで立体的な形状を認識する技術を応用している。真っ暗な場所でも認識できるはずだが、前述したように規定値では“見つめる”ことではじめて本人認証が取れる。これは寝ている間や、本人が知らないところで勝手に顔を使われることを防ぐためだろう(オプションで見つめなくともロックが外れるように設定もできる)。

しかし、見つめているかどうかを判別するには映像分析が必要で、そのためには少なくともインカメラが映像を捉えられるだけの明るさが必要なのでは?というのが推測だった。しかし、いい意味でこの懸念も裏切られ、真っ暗な中でもきちんと視線を認識してロックが外れてくれた。

なお、アプリ側からはTouch IDとまったく同じ手順で認証機能を呼び出せるとのことで、画面表示上「Face ID」とするにはコードの書換が必要だが、機能そのものはそのままでも動くとのことだ。

Face IDは各種アプリのログインやSafariからのログインなどでも利用でき、もちろんApple Payにも利用されている。必ずしも画面に対して顔を正対させる必要はなく、ある程度顔が映るだろう位置関係で目線を送るだけで認証されるので、決済時にも不便はない。

色々な懸念、疑問を抱きながらこの製品を使い始めたが、今のところFace IDにネガティブな要素は思いつかない。

思いのほか長文になってしまったが、iPhone Xの価格の捉え方はさまざまだろう。iPhoneとしての基本形を抑え、さらに最新のハードウエアに進化したモデルはiPhone 8シリーズとして存在する。ソフトバンクとKDDIが、4年縛りの上に使用後は端末を回収する契約にて、iPhone Xを半額で購入できるプランを用意しているが、それでも半額は負担せねばならない。

久々に「新鮮さ」を感じる端末

ただ、そうした価格要素を除くならば、久々に新鮮さを感じる端末としてiPhone Xを筆者は好意的に見ている。単純に機能だけならば、Galaxy S8シリーズやNote8といったサムスンの端末もある。OLEDディスプレーを用いた端末開発という意味では、サムスンのほうが先輩であり、個々の“機能”で言えば進んでいる部分もある。

ただ、プラットフォーム――すなわち、アプリ開発者の創造力をくすぐり、新しい使い方を模索するという意味では、ハードウエアとソフトウエアを同時に開発し、すり合わせ、新たな方向性を探れるよう開発ツールとともに提供できるという点でアップルの強さを感じた。

基本ソフトがグーグル主導で定義され、それをカスタマイズして各社が搭載する方向では自ずと限界がある。ハードウエアのための基本ソフト、基本ソフトを発展させるためのハードウエア。近い場所から相互に改善を図れる関係性を、iPhone Xの使用感から随所に感じる。

やはり、アップルは“iPhone”と“iPhone X”を今後は別の軸として開発していくのではないだろうか。その中で、最先端を模索したいならば、彼らの誘いに乗ってもいいのかもしれない。