隠し事ができない時代に、企業がブランド力を向上するにはどうしたらいいのか(撮影:今井康一)

ユナイテッド航空の「乗客引きずり下ろし」事件や、焼きそば「ペヤング」の虫混入事件など、いまや企業が過去だったら隠せたようなことも、瞬く間にSNSで世界中に情報が拡散される時代となった。
こうした中、企業にはこれまで以上に「真実」を開示することが求められている。が、それをしているだけでは、企業イメージのアップにはつながらない、とコンサルタントで、『ビッグ・ピボット―なぜ巨大グローバル企業が〈大転換〉するのか』著者のアンドリュー・ウィンストン氏は語る。
「隠し事」ができない時代に、企業のブランド力をアップするにはどうしたらいいのか。前回(日本企業は「CSR」を見直す時期を迎えている)に続き、『ビッグ・ピボット―なぜ巨大グローバル企業が〈大転換〉するのか』の著者のアンドリュー・ウィンストン氏と日本環境設計の郄尾正樹社長が、「サステナビリティ(持続可能性)」のポテンシャルについて語る。

SNS時代に多くの企業は対応できていない

ウィンストン:ユナイテッド航空が乗客を乱暴に引きずり下ろして問題になった事件について、知っていますか?

郄尾:もちろん!

ウィンストン:私は世界中で講演していますが、どこで話してもみんな知っているんです。同じ飛行機に乗り合わせた乗客が一部始終を撮影してSNSに投稿したあの動画を世界中の人が見ている。拡散のスピードもすごく速かったですしね。

いまや地球上のどこに行っても多くの人がカメラ付き携帯を持っていて、自分で撮影したものをその場で世界に発信できます。誰もが批評家になりうる時代には、何もかも隠すことはできない。多くの企業はこの新しい状況に、まだ必死に適応しようとしているという段階だと思います。

郄尾:僕らのつくる原料を使う企業は、調達の安定だけではなく、ブランディングを意識している部分も大きいようです。彼らはこれからの時代、サステナビリティがブランディングに必要不可欠だと認識しているのだと思います。

ウィンストン:隠せない時代には、「商品のストーリー」を伝えることがカギになるでしょうね。どんな原料で、どうやって作られているのか。企業は、サービスと商品について完璧なストーリーを持たなければいけなくなってきた。消費者はもちろん、社員やコミュニティからも、そういったものが求められるようになってきているのです。

「隠さない」ことは難しくない


アンドリュー・ウィンストン(Andrew Winston)/プリンストン大学卒業後、コロンビア大学でMBA、イェール大学で環境マネジメントの修士を取得。ボストン・コンサルティング・グループで企業戦略コンサルティングに従事した後、タイム・ワーナーとMTVでの戦略マーケティング部門の管理職を経て、ウィンストン・エコ・ストラテジーズを設立。キンバリー・クラーク、HP、ユニリーバなどのサステナビリティ・アドバイザリー・ボードのメンバーを務めているほか、PwCのサステナビリティアドバイザーとしても活躍している(撮影:今井康一)

郄尾:ストーリーという意味では、2020年に東京で開催される国際的なスポーツイベントでは、皆さんから回収した携帯電話などから金・銀・銅のメダルを作るプロジェクトが行われています。

ウィンストン:私もスポーツ業界と仕事をすることが多いですが、大きなスポーツイベントでは特にサステナビリティが重視されてきているのを感じます。

郄尾:使われる資源やエネルギーも排出されるゴミの量も大きい分、企業としてはよい技術をお披露目するショーケースという側面もありますよね。

ウィンストン:スポーツ以外では消費財や食料品の業界からも、ストーリーについてのアドバイスを求められることが多いです。ある飲食業界大手のCEOは「よい商品というのは、かつてはおいしくて安全、それだけでよかった。今はそれに加えて責任ある原料調達、工場運営、流通管理……より複雑な説明が求められる」と言っていました。

ただ、私はビジネスがサステナブルなものであれば、そんなに複雑で難しいことではないと思うんです。マーク・トウェインの格言で「真実を語れば、あとはすべて忘れてかまわない」というものがありますが、そもそも語っても問題のないことをしていれば複雑に考えなくたっていいでしょう。

郄尾:商品のストーリーを語るうえでも、調達が変わることはカギになると思っています。たとえば、僕らのポリエステルのリサイクル工場はまだ動いていないけれども、すでに年間生産量の8割ぐらいの注文がある。それはなぜかというと、世界の大手アパレルブランドがたとえば「2030年までにすべての原料をサステナブルにする」というような宣言をしているからです。

ウィンストン:大企業がそういう視点を持っているというのは、世界の流れを変える大きな力ですね。彼らは調達元にとっての大きな顧客なわけですから、調達元も変わらざるをえない。

今その「一歩」を踏み出せるか


郄尾正樹(たかお まさき)/1980年生まれ。東京工業大学卒業後、東京大学大学院にて技術経営を専攻。同大学院中途退学後、2007年1月に現在代表取締役会長を務める岩元美智彦と日本環境設計(株)を共同で設立。専務取締役に就任。2016年から現職

郄尾:サステナブルな商品を生産するための技術開発に投資する企業も増えていきそうです。

ウィンストン:一方で現実として、「いちばん安く調達したい」という要求がなくなるわけではないんですよね。みんなサステナブルで、かつ安いものがいいわけです。

ウォルマートなんかは、世界でも最大級にサプライチェーンにそういうプレッシャーをかけている企業だと思いますが、彼らは「エネルギー効率の高い原料を使えば、コストも安くなるはずですよね?」というスタンスです。もちろんそういう場合もあるけれども、いろいろな事情でサステナブルな商品のほうが高くつくこともありますからね。

郄尾:ただそれでも事業をする中で、「将来安くなる見込みがあるなら、今は高くても買う」という企業は確実にいると感じています。いかにその可能性、つまり僕らが信じている世界を彼らに見せられるか。そこが大きな第一歩なのかなと思っています。そしてその第一歩を踏み出せると、ケタ違いの投資が集まると確信しています。

ウィンストン:そういう企業は「受け入れられること」の基準が変わっていくことを、ちゃんと想定しているのでしょうね。たとえば児童労働でできた商品が安かったとしても、今の私たちの多くはそれを受け入れられません。同じように製造工程において二酸化炭素の排出量や必要とする水の使用量が過剰に多い商品は、じきに受け入れられなくなるでしょう。企業はそれを無視できない。顧客に指摘されるまで古いストーリーのままでいたら、競合に後れを取ってしまうでしょう。

郄尾:僕らの顧客の多くはグローバル企業なんです。彼らはそういった潮流をとても重視していると感じます。

ウィンストン:私がコンサルティングをする中でも、やはりグローバル企業はサステナビリティに積極的です。彼らは死活問題だと気づいているんですね。一方で積極的になりきれていない企業が頭を悩ませているのは、消費者は本当にサステナブルな商品を求めているのか、本当にそれにおカネを払うのかということです。

郄尾:その質問に答えるとすれば、そもそもサステナブルどうこうというより、商売の大原則として消費者の心をつかまえた者勝ちという話ですよね。そして消費者は、商品そのものというより、商品で得られる体験を求めている。


モノ消費からコト消費に関心が移る時代にあって、消費者は商品そのものというより、商品で得られる体験を求めている(撮影:今井康一)

サステナブルな商品はかっこよくない?

ウィンストン:そう、それは今も昔も変わらないんです。問題はこれまでのいわゆるサステナブルな製品というのが、既存の製品と同じレベルで満足度の高い体験を提供できていなかったことでしょう。

アメリカでテスラの電気自動車が成功したのは、環境によいからというより、ほかの車よりかっこよくて、機能もよくて、速いからです。好きにならないはずがない。

郄尾:僕らもリサイクルしたものを売るにしても、古着を回収するにしても、そのあたりはいつも考えています。

ウィンストン:(前回で話した)デロリアンの企画は、まさにそういう視点ですよね。人々が現状目に見えてサステナブルな行動をしていないのは、環境についてまったく気にしていないからというわけではないということです。みんな日々の仕事もあって、家庭や趣味もある。単純に自分の人生を生きるのに忙しいから、日常と切り離された形で「リサイクルしましょう」と言われても手が回らないのです。

郄尾:そのとおりだと思います。これからは消費者の選択以前のところ、そもそもの構造を変えたいとも考えているんです。既存の化学プラントの横に僕らの工場を造って、そこでゴミからエチレンやポリエステルのもとになるものを造る。化学プラントではそれを使って商品を造る。消費者は知らぬ間にサステナブルな商品を買っていることになる……。今一緒にやってくれる企業を探しているし、そういう企業が僕らを見つけ出してくれるといいなと思っているところです。

ウィンストン:それは一緒にする企業にとってもいい話なはずですよ。使用するエネルギーや原料を少しずつ減らすよりも、そもそも再生エネルギーやリサイクル原料を選択することによって得られるチャンスはずっと大きいですから。

企業はどうしても手をつけやすいことから手をつけがちなのですが、それが効率的ではないことに気づくことが重要なのです。いちばん大きな問題を見極めて大転換すること、ビッグ・ピボットが必要ということですね。

ビッグ・ピボットの実践方法についてはぜひ私の本を読んでみていただきたいのですが(笑)、重要な第一歩を挙げるとしたら、しっかりと科学的根拠に基づくデータを見ることです。自社の商品やサービスを提供するうえで、バリューチェーンのどこにチャンスやリスクがあるのか。自社のビジネスに最も大きな影響を与える要素は何か――それを見極めることです。

郄尾:先ほどのポリエステルの話でいえば、今どれくらい使用していて、今後の価格変動の見込みはどうなっているのか。そういうデータを見て、調達を考えるというようなことですね。

これからの顧客はどんなストーリーを求めるのか


ウィンストン:そう、あとは異常気象の影響について考えることも重要です。私の故郷フロリダも、つい先日ハリケーン・ハービーで大きな被害に遭いました。地球上のあらゆるところで異常気象が起こっているのは、ニュースで報道されているとおり周知の事実です。

にもかかわらず自社には関係ないと思っていて、工場や物流センターが洪水に遭ってはじめて、サステナビリティを考慮しないビジネスで異常気象を助長することが、自社のビジネスにとっての直接的なリスクになることに気づく企業も多いのが現状です。そのうえで先ほどの商品のストーリーの話ですね。これからの顧客はどんなストーリーを求めるのかを考える。

郄尾:ストーリーといえば、今度また日本にいらっしゃるときは、着なくなった洋服を持ってぜひうちの工場にいらしてください。それをそのまま1着新しい服にしてお渡しします。

ウィンストン:それはいいストーリーだ。あとはデロリアンにも乗りたいですね。