スバル・吉永泰之社長

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「SUBARU(スバル)は安全・安心と楽しさを価値としてやってきた。安全・安心に関わるところに不安を与えることはブランドとしてもっともやってはいけないこと」(スバル・吉永泰之社長)。

 日産自動車に続いてスバルでも無資格者が完成検査を行っていたことが発覚した。米国、日本の新車販売が好調で、グローバル販売、業績ともに過去最高を更新するなど、成長を続けてきたスバルだが、思わぬ落とし穴にはまった。

 日産の無資格者による完成検査が発覚し、国土交通省は国内自動車メーカー各社に適正な完成検査を行っているか点検して報告するよう求めていた。今回のスバルの不正は、その社内調査で明らかになった。完成検査は型式指定を取得したモデルが道路運送の保安基準に適合しているのか完成車1台1台を検査するもので、顧客に安全な車を引き渡す前の最後の砦となっている。自動車メーカーは国に代行するかたちで、有資格者が完成検査を行っているが、資格については自動車メーカーごとに定めて国土交通省が認定している。

 スバルでは、完成検査員が完成検査を行うことを規定している。検査員となるためには、現場での完成検査の実務経験が必要とも定めており、検査員になる前の作業員が検査業務を国内の全3ラインで行っていた。吉永社長は「社内で悪いという認識のないまま行っていた」としており、30年以上前から組織的に不正な行為を繰り返していたことが明らかになった。

 スバルでは、無資格者が正規の完成検査員の印章を借りて完成検査済みの押印を行っていた。このため、無資格者が完成検査を行うことの違法性についての認識はあったとみられるものの、スバルでは「30年以上続けてきた制度で、現在の完成検査員もそうやって育ってきたので違和感を持つ人はいなかったのでは」(大崎篤執行役員・品質保証本部長)と、現場で不正の認識はなく、内部告発もなかったとしている。

 ただ、無資格者が正規の検査員の印章を借りて作業するやり方は、日産がやっていたのとまったく同じだ。スバルは1968年から2000年まで日産と提携しており、日産車を受託生産していたほか、長年にわたって社長に日産出身者が就いていた。このため、不正な完成検査方法は日産から伝わった可能性がある。スバルでは「日産からは提携していた時、さまざまなことを教えてもらったが、(不正なやり方を)採用したのは当社の問題」(吉永社長)としながらも「今後、精査する必要がある」(大崎執行役員)という。

●今後の成長に影響も

 一方、スバルの吉永社長は、10月25日の東京モーターショーの報道公開で、日産の無資格者の完成検査問題や神戸製鋼所の検査データの不正について、「ものづくりは日本にとって大事で、信頼が損なわれていることは心配」と述べていた。スバルの無資格者の完成検査は10月3日には明らかになっており、吉永社長もこの時点で「(自社の不正を)認識していた」ものの、国土交通省とのやり取りが続いていたことから公表を見送ったと説明。日産や神戸製鋼を批判したことについては「自分の会社が不安の要素になっているのに忸怩たる思いがあるという気持ちだった」と釈明する。

 スバルの世界販売台数は10年前の2006年度が57万台だったが、16年度には106万台とほぼ倍増するほど、急成長を続けてきた。「現場が高負荷になっている」(吉永社長)としながらも、生産の急拡大による人手不足が不正につながったとの見方は否定する。スバルの完成検査員は10月1日現在で245人、今回問題となった無資格で完成検査を行っていた人は過去4年間で月平均8人、最大でも17人で「人手が足りないから(無資格者を)運用したのではない」(大崎執行役員)と言い切る。

 スバルは今後、無資格者が完成検査を行った可能性のある販売済み車両のうち、初回車検を受けていない車のリコールを実施する予定だ。対象は「レガシィ」や「インプレッサ」など、スバルが国内で製造している全モデルとトヨタ自動車向けに生産している「トヨタ86」など合計25万5000台で、費用として50億円強を見込んでいる。

 日産は無資格者の完成検査問題で国内向けモデルの生産と出荷を停止したが、スバルは問題が発覚後、無資格者を完成検査の業務から外したため、スバル車の生産・出荷は継続する。このため、業績への影響などは限定的と見られるものの、最大の問題はスバルブランドの毀損だ。特にスバルは「ぶつからないクルマ」と銘打った自動ブレーキシステムを業界に先駆けて実用化、安全・安心のブランドとして確立して販売を伸ばしてきた。それだけに品質問題でブランドに傷が付けば、今後の成長に影響するのは必至だ。

「成長に全体の力が追いついていない。(今回の問題で)改めて出直し、足元を見つめなおして企業としての実力を高めるしかない」(吉永社長)とするスバル。急成長、急拡大の根幹の部分に付いた傷を修復するのは容易ではないかもしれない。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)