(写真提供=SPORTS KOREA)

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韓国で「延命治療決定法」の試験導入が始まった。韓国では通称“尊厳死法”とも言われている。

韓国の“尊厳死法”を一口にいえば、患者の意思によって延命治療を中断できるというものになるだろうか。

10月23日からそのテストが始まったわけだが、現地ではとてつもない反響を呼んでいるらしい。

例えば『聨合ニュース』は「20代から70代まで尊厳死の問い合わせ急増…相談人力が不足」と見出しを打ち、その社会的な関心を伝えている。相談者の行列ができたという報道もあったほどだ。

早くも尊厳死を選んだ女性も

そんななか、早くも尊厳死を選択した人が登場したという。

末期ガン患者であるその女性は、以前から延命治療をせずに最期を迎えようと考えており、尊厳死法の試験事業が開始されるやいなや、医療陣に「延命医療計画書」を作成する意思を伝えたという。

「延命医療計画書」とは、医師が患者の意思を受けて、延命医療を実施しないという意味を盛り込んだ文書のこと。現在はテスト期間の段階だが、この間に作成された延命医療計画書も法的な効力を持つという。

つまるところ、彼女は韓国で尊厳死を選んだ第一号といえるわけだ。

韓国ネット民たちの書き込みを見ると、「自ら死ぬことができる権利は当然のもの」「苦痛で死ぬのは、家族にとっても苦痛だ」「多大な医療費を使っても死んでしまうのだから、尊厳死を選ぶほうがいいのでは」など、意外と肯定的なものが多いことに驚かされる。

“ヘル朝鮮”に絶望する若者たち

それにしても、前出の『聨合ニュース』にもあったように、20代までもが尊厳死に注目していることは看過できない。

ネットの書き込みの中には「生きることがどれだけつらいと20代からそんなことを考えるのか」といったものもあったが、ある意味、そこに韓国が抱く現実の一端が見えてくるともいえなくもないだろう。

実際のところ、韓国メディアは「出生率、世界最下位圏」「会社員の有給消化率、世界25カ国中最下位」「医療費増加率、OECD中1位」「老人貧困率、OECD中1位」などと、韓国の問題点を報じている。

そんななか韓国の若者たちは、親で運命が決まることを皮肉った「スプーン階級論」、将来的にはチキン店をやるしかないという状況を表した「起承転“鶏”」などの新語を次々と作り出している。

何よりも彼らが自国を“ヘル(地獄)朝鮮”と揶揄していることは、その生きづらさを端的に表しているといえるだろう。

そういった背景を踏まえると、「尊厳死だけでなく、安楽死も認めるべき」「早く安楽死法を施行してほしい」といった書き込みも意味深長だ。

医療問題が多いから条件は厳しい!?

韓国社会全体が尊厳死法に注目しているわけだが、尊厳死法が適用される対象範囲が非常に狭すぎるという意見も少なくない。

たしかに対象は「臨終の過程にある患者」だけであるし、中断できる延命治療の内容も「心肺蘇生術、血液透析、抗ガン剤投与、人工呼吸器着用の医学的施術によって臨終過程の期間だけを延長すること」などと規定されている。

それでも条件はなるべく厳しいほうがいいのかもしれない。

というのも韓国では近年、精神病院の患者数が増えているのだが、その原因は強制入院までの“手軽さ”が一因と指摘されているからだ。
(参考記事:健康な人が“強制入院”させられる!? 韓国で精神病院の患者数が増加するワケ

もしかしたら、そういった現在進行形の医療問題が尊厳死法の条件を厳しくさせているのかもしれない。

いずれにしても、試験事業が開始したことで今後さらなる話題となりそうな韓国の尊厳死法。試験事業は来年1月15日まで行われ、本格施行は2月となる予定だ。

(文=慎 武宏)