椎名林檎が出演した『内村五輪宣言〜TOKYO 2020開幕1000日前スペシャル〜』(NHK公式HPより)

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 去る10月28日で、2020年東京オリンピックまでついに1000日を切った。

 ロゴの盗作疑惑や国立競技場問題に端を発し、いまでも続々と問題が勃発し続けている2020年東京オリンピックだが、ともあれ、そんな東京オリンピック1000日前を記念した特別番組『内村五輪宣言〜TOKYO 2020開幕1000日前スペシャル〜』(NHK)が放送された。

 内村光良が司会を務め、北島康介や吉田沙保里や澤穂希といったアスリートにオリンピックの思い出を聞いたり、内村自らナショナルトレーニングセンターに赴いて日本代表クラスの選手の練習風景を見学したり、また、ゆずやPerfumeといったオリンピックに縁のあるアーティストのライブも放送された。

 そんな番組企画のトリを務めたのが椎名林檎だ。

 椎名は、リオオリンピック閉会式でのフラッグハンドオーバーセレモニーの演出を手がけた演出振付家のMIKIKO、東京事変のギタリストだった浮雲と共に「HUMAN ERROR」なる一夜限りのユニットを組み、「東京は夜の七時〜NHK東京五輪1000日前スペシャル〜」をパフォーマンス。その次に、トータス松本とのデュエットで「目抜き通り」を歌唱した。

 そして、そのトークコーナーで内村から「2020年の東京大会に向けていまどんな思いですか?」と質問された椎名はこのように答えている。

「日本語がもっと海外でも話されてほしいなっていう、話されなくてもいいけど、もうちょっと知られてほしいですよね日本語......とか。そういう欲もありますけどね。若干。やや。浸透してほしい」

 なぜいきなり日本語云々という話が出てきたのかよく分からないが、その歯切れの悪いコメントには、ひょっとしてあの件が関係していたのだろうか?

 椎名林檎はつい最近、2020年東京オリンピックについての発言が大炎上している。それは、7月24日付朝日新聞のインタビューが発端だった。彼女は、これだけ問題山積の東京オリンピックについて、「国民全員が組織委員会。そう考えるのが、和を重んじる日本らしい」という言葉を使い、まるで「東京オリンピックのためなら個人としての自由が失われるのも我慢しろ」とでも言わんばかりの発言をしたのだ。

●内田樹は五輪をめぐり「局所的には日本は法治国家じゃない」と皮肉

「正直「お招きしていいんだろうか」と言う方もいらっしゃるし、私もそう思っていました。でも五輪が来ることが決まっちゃったんだったら、もう国内で争っている場合ではありませんし、むしろ足掛かりにして行かねばもったいない。
 だから、いっそ国民全員が組織委員会。そう考えるのが、和を重んじる日本らしいし、今回はなおさら、と私は思っています。取り急ぎは、国内全メディア、全企業が、今の日本のために仲良く取り組んでくださることを切に祈っています」

 繰り返すが、今回の東京オリンピックに関しては、招致の段階から現在にいたるまで問題が次から次へと起こっている。

 招致裏金問題、ロゴ盗作問題、新国立競技場見直し、招致時は7000億円だったのにいつのまにか3兆円にも膨れあがった費用、選手村をつくるための木材が無償でかき集められている問題、通訳も同様に無償ボランティアがかき集められている問題、新国立競技場で管理業務に従事していた男性が過重労働の末に自殺、2019年度から始まる残業時間の上限規制で運輸と建設に関する職種は猶予期間が設けられる、「オリンピックのため」というスローガンで共謀罪が強行採決される......。

 列挙しているだけで気が滅入ってくるが、このような状況にあるのにも関わらず「国民全員が組織委員会」と言った椎名林檎の言葉は、図らずも彼女たちのような組織委員会およびその周辺の人々の本音をさらけ出してしまったともいえる。つまり、戦時中の日本のスローガン「一億総火の玉」と同じ発想だ。「オリンピックのために」というお題目のもと、国民には徹底した自己犠牲と滅私奉公を強い、その対価は「思い出」や「レガシー」のみということだ。

 思想家の内田樹は10月18日にこのようにツイート。「オリンピック」という錦の御旗があれば「なんでもあり」になっている現状を皮肉っている。

〈日本では「五輪招致のため」という大義名分があれば「何をしても許される」というのが司法を含めての国内ルールですから。局所的には日本は法治国家じゃないんです〉

 とはいえ、こういった意見を発信すれば、政権を盲信的に応援する人々を中心に「決まったんだから文句を言うな」「非国民」といった罵声を浴びせかけられる状況は続いている。

 ただそんななか、あまりにも異様な東京オリンピックをめぐる状況に、勇気ある異議の声もだんだんと出てくるようになっている。しかも、それは、オリンピックのメダリストからも起こり始めた。その発言の主が、元マラソン選手でバルセロナ、アトランタ五輪のメダリストである有森裕子だ。

 有森は、6月17日放送『久米宏 ラジオなんですけど』(TBSラジオ)にゲスト出演した際、オリンピックをめぐる政権や組織委員会の強権的な姿勢に対し、「"オリンピックだからいいだろう""だからいいだろう""だからこう決めるんだよ"とあまりに横柄で。なぜこうまで偉そうになっちゃうんだろう。社会とずれる感覚を打ち立てて物事を進めている。横柄だし、雑だし傲慢」と痛烈に批判した。

●有森裕子は、開催の意義を失った東京五輪に対し「返上」まで提案

 また、有森は続けて、東京でオリンピックを開催する「意義」そのものがねじ曲げられていると語り、「五輪返上」の案まで俎上に上げるのだった。

「そもそもなぜ東京五輪を招致したのか。一番大切なのが、復興だったはずです。スポーツによって、日本を元気に変えよう。日本に大きな災害があって、オリンピックを呼ぶことで復興させられるんだと、最たる手本になる国になる。そのつもりで私もブエノスアイレスでロビー活動をしました。でも蓋を開けたら全然いま違う。復興どころか、どこを見ているんだろう。結局何をやろうとしているんだろうというのが正直あります。どこか不安で、反抗したくなるような、やらなきゃいい、返上すればいいという感情を促してしまう。すごく残念です」(前出『久米宏 ラジオなんですけど』)

 椎名林檎が今回、「国民全員が組織委員会」という全体主敵発言をせず、歯切れの悪い口調だったのは、やはり先の炎上や当のアスリートからも批判の声が出始めていることを考慮したのだろうか?

 もっとも、弱気になっているのは口調だけ。五輪について多様な文化を向かい入れるという視点でなく、「日本語が世界に知られてほしい」というエスノセントリズム丸出しのコメントをしているところをみると、その思想はほとんど変わっていないのかもしれないが......。
(編集部)