"3人に1人"の不満社員を奮起させるには

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日本企業の生産性は、海外に比べて約2割低い。なぜか。今回、ベイン・アンド・カンパニーとプレジデント社が共同で調査した結果、日本企業は海外に比べて「職場に対して不満を感じている」社員の割合が圧倒的に多いことがわかった。その割合は3人に1人。日本企業に「不満社員」が多い構造的な要因とは――。(全4回)

■日本企業の意欲の水準は危機的レベル?

この連載ではこれまで、組織の生産力を最大化するための鍵となる3つの要素のうち「時間(Time)」「人材(Talent)」について論じてきた。最終回となる今回は第3の要素である「Energy(意欲)」について掘り下げていきたい。

ここで言う「意欲」とは、社員が自分の仕事にどれだけ当事者意識を持って主体的に取り組めているかを示している。ここでは、社員を意欲レベルに応じて「不満層」「満足層」「当事者意識のある層」「やる気溢れる層」の4階層に分類する。

「やる気溢れる」社員は、ただ単に「満足している」社員に比べて実に2.3倍ものパフォーマンスを発揮し、さらに、「当事者意識のある」社員よりも90%以上生産性が高いことが私たちの調査で明らかになっている(図1)。それだけではなく、こうした社員の意欲が周りの同僚にも伝播し、さらなる相乗効果を生むこともわかっている。企業としては、どうやってこうしたやる気溢れる社員を増やし、つなぎとめ、活用するかが非常に重要なのは言うまでもない。一方、会社・職場に満足していない不満層は、生産性が低いばかりか職場に対してネガティブなコメントを発し、周りの同僚や社外にも負の影響を与える存在となりかねない。

ところで、読者のなかには以下のようなイメージをお持ちの方も多いのではないか。「海外の企業は社員が定着せず流動性が高い。社員はドライで、会社に対するロイヤリティが低い。一方、日本企業の社員は帰属意識が強く、会社のために身を粉にして働く人が多い」。

実はこうしたイメージは、実態とは大きくかけ離れていることが今回プレジデントとベインの共同調査により明らかになった。日本企業はグローバル企業と比較して「職場に対して不満を感じている」社員の割合が圧倒的に多いのだ。特に、組織生産力の高い上位25%の優良企業を除いたそれ以外の企業では、実に3人に1人が職場に不満を抱いている(図2)。グローバル企業の調査では、不満層は10人に1人であったことを考えると非常に高いといえるだろう。

■日本企業の「意欲」が低い要因

なぜ日本企業にはこうも多くの不満層がいるのか。日本企業に蔓延する構造的な要因について掘り下げていきたい。

まず挙げられるのが、従来の終身雇用、年功序列の弊害であろう。近年では崩れつつあるとは言え、依然従来の終身雇用モデルを前提としている組織も少なくない。過去には終身雇用が会社に対する強い帰属意識を生み出していた側面もあり、こうした制度を一概に否定するわけではないが、ネガティブな側面が大きく露見しているのも事実である。

人材の流動性が低いため、職場に満足していない社員は、意欲がなくても会社に居座り続ける。一方で、年功序列により昇進もほぼ横並びのため、頑張っても頑張らなくても評価は大きく変わらない。自身の貢献や意欲が公正に評価されなければ社員の意欲は削がれ、頑張らない社員を助長する結果につながりかねない。

二つ目は、会社に対する先行きの不透明さであろう。例えば、ベンチャー企業など業績が伸びている会社では、社員一人ひとりの顔つきも明るくやる気に満ち溢れているケースが多い。一方、業績が悪い会社では、社員の意欲を打ち消すような負のオーラが社内に蔓延していることが実際に多い。

こうした状況も踏まえて新卒学生の就職に対する意識の推移を見てみると非常に興味深い。マイナビの発表している2017年卒大学生の就職先を選ぶ際に重視する要素を見ると、15年前と比べて「やりたい仕事ができる会社」の割合が10%も低下し、逆に「安定している会社」の割合が10%上昇している(図3)。社員にやる気に溢れて仕事をしてもらうためには、職場に愛着を感じ、自身の仕事にやりがいを感じてもらうことが必要だが、それ以前に最低限の自身の職に対する「安心」という土台が必要なのである。

先行き不透明で、成長が見えない会社では、意欲を発揮できない。上記の大学生の就職意識調査からは、こうした最低限のジョブセキュリティに対する欲求が透けて見える。日本企業の成長を目の当たりにしたことがなく、多くの企業の没落を見て育ってきたミレニアル世代は、非常にシビアに会社の先行きを見定めているのである。

■組織のミッションと社員の仕事を結びつける

では、うまく社員のやる気を引き出し、奮い立たせるにはどうすればよいのか。社員のやる気の創出に成功している会社、組織に共通する特徴の一つとして、会社・組織のビジョンを明確に示せていることが挙げられる。

例えば、NPO法人は、明確な社会的意義を掲げて事業を運営しているケースが多い。こうした組織のビジョンが従業員の強い共感を呼び、従業員はビジョンの実現のためにやる気に溢れて働くのだ。

金銭的な動機付けはもちろん重要な一要素であるが、それだけで社員がやる気に溢れることはない。会社が明確な社会的意義やビジョンを持ち、それが自身の日々の仕事と結びついて初めて、社員はやる気に溢れて仕事に取り組むようになるのである。

B2C企業やサービス企業では、比較的社員の意欲が高い傾向が見られたが、これも現場の社員が目の前の顧客と日々接し、自身の仕事の顧客への価値を実感する機会が多いことによる部分が大きいのではないか。逆に、不祥事の際にトップが不誠実な対応をすれば、社員の意欲に大きな影を落としかねない。

部下のモチベーションを高めるリーダーシップに関しては、部下の「褒め方」から「叱り方」に至るまでさまざまな記事が溢れているが、こうした管理職一人ひとりの意識改革や取り組みだけで会社を変えていくには限界があり、やはり組織的な取り組みが欠かせない。

まずは、会社としての将来のビジョン、譲れない価値観と、それに基づく明確な会社の成長戦略を示すことが第一歩である。社員は、上司や経営陣の姿をシビアに見ている。将来の見えない組織には誰もついてこないし、ましてそんな会社のために、やる気を奮い立たせて働いてくれるわけもない。読者の会社のビジョンは社員の意欲を刺激するに足るだろうか。自問してみてほしい。

次に、ビジョンを社員一人ひとりにコミュニケーションし、各人の日々の仕事がそのビジョンの達成にどう貢献しているのかを語りかけていくことが重要である。そこには経営陣および現場のリーダーシップが欠かせない。小手先ではなく、こうした企業の価値観、および文化の浸透が、社員一人ひとりの仕事に対するやりがいにつながり、社員の心に火をつけ、やる気を奮い立たせるのである。

組織生産性の向上は、個々人の「働き方改革」だけではどうにもならない。まさに「時間」「人材」「意欲」という希少資源のマネジメントこそが競争力となる差を生むのである。

(ベイン・アンド・カンパニー プリンシパル 西脇 文彦)