ここ10年ほどの間に日本では急速にハロウィーン(Hallowe'en)の認知度が高まり、さらにここ5年ほどの短い間に国民的イベントに発展しました。ハロウィーンについての起源や成り立ちなどの解説についても見かけることも多くなり、ハロウィーン薀蓄も既に常識化しつつありますね。
そんなハロウィーン通の人たちもご存知の通り、もとは古代ケルトの冬を迎える行事であったものがアメリカで移民たちによってイベント化した、いわばアメリカ発祥の「新しい伝統」。そのアメリカのファンタジーの古典と言えば、なんといっても「オズの魔法使い」(The Wonderful Wizard of Oz」でしょう。1900年5月、L・F・ボーム(Lyman Frank Baum)が著した同作は、出版後大ベストセラーとなり、舞台やドラマ、映画や音楽に影響を与え続けています。


知ってるようで知らない?四つの自治州で構成された不思議の国オズと、オズの物語

オズの国は世界のどこかにある広大な砂漠により隔絶された国。そこでは動物や植物も人間と会話し、また生き物には老衰による「死」がなく、いつまでも生き続ける、とされます。
国の真ん中に「エメラルドの都」(Emerald city)があり、都から東の地域は草木や人の着物や建物調度がすべて青で統一されたマンチキン、南が同じく赤で統一されたカドリング、西が黄色で統一されたウィンキー、北が紫で統一されたギリキンという四つの自治州によって構成された連合国。オズの国に家ごと竜巻で吹き飛ばされてたどりついたドロシーに、北のギリキンを治める良い北の魔女がオズの国の説明をしています。ドロシーが飛ばされてきた当時、エメラルドの都をオズ大王が、ウィンキーを悪い西の魔女、マンチキンを悪い東の魔女、ギリキンを良い北の魔女、カドリングを良い南の魔女(グリンダ)がそれぞれ治めてにらみあう拮抗状態でした。ドロシーの家が落ちたときに、悪い東の魔女が押しつぶされてしまい、いわば近郊が崩れたことで冒険が始まります。家に帰してもらうために、マンチキンの国からオズ大王のいるエメラルドの都を目指して「黄色いレンガの道」をたどるドロシーの旅がはじまるのですが、道すがら、「脳がないので考えられない」と悩むカカシ、「心臓がないので感じることが出来ない」となげくブリキの木こり、「めっちゃ怖がりで勇気がないので百獣の王でいるのがつらい」とこぼすライオン、といった仲間を得ます。この四人グループのメンツは、多くの人におなじみのことでしょう。カカシは脳、木こりは心臓、ライオンは勇気と、それぞれほしいものをオズ大王からもらうためにドロシーとともにエメラルドの都を目指すことに。四人は数々の困難を乗り越えてエメラルドの都にたどり着きます。
謁見したオズ大王は、ドロシーには巨大な頭部だけの怪物、カカシには女神、ブリキの木こりにはサイのようなケモノ、ライオンには火の玉と、四者それぞれにまったく別の姿で現れ、しかし同じように、「のぞみを叶えてほしくば西の魔女を倒して来い」と命じます。
仕方なく西のウィンキーの国に向かうドロシー一行ですが、西の魔女は蜂、カラス、有翼の猿と、次々と眷族を遣わしてドロシーたちを殺そうとします。四人は魔女を倒し、のぞみを叶えられるのでしょうか・・・ネタバレになる後半部はさしひかえますが、「オズの魔法使い」は、新しい時代の感覚の斬新な枠組みの中に、同じシチュエーションをバリエーションを変えながら何度も繰りかえす、古いおとぎ話や昔話のお約束(たとえば「白雪姫」や「三匹の子豚」「おおかみと七匹の子ヤギ」「桃太郎」など)を忠実に組み込んだ見事な構成で「新しいおとぎ話」を創出し、子供たちの心を捉えました。

このファンタジーの大好評により、続編を期待される声が高まり、ボームは四年後の1904年、「オズの虹の国(The Marvelous Land of Oz)」を発表します。そしてそれ以降、数年おきに続編を書くつぐ、いわば今で言う「ハリー・ポッター」のように人々に待望されるシリーズとなったわけですが、物語には毎回、第一作に登場したカカシやブリキの木こり系列につながる珍妙な「怪人」の新キャラ、臆病ライオンの系列につながる個性的な動物の新キャラが登場し、事件を起こしたり旧作のキャラクターとからんだりとどたばたを引き起こします。
これらの新キャラには、読者である子供たちから寄せられるアイデアが採用されていたそう。というわけで、オズシリーズに出てくるキャラクターはおびただしい数になります。代表的なキャラクターをちょっとだけ紹介しましょう。


アメリカンフォークロア・オズシリーズには当然のごとくジャック・オー・ランタンも登場!

オズシリーズといえば魔法使いや魔女、さまざまな魔法アイテムも魅力ですが、何と言っても印象的なのはカカシやブリキの木こりに代表される、奇妙な怪人キャラクターのの存在です。物語では、カカシやブリキの木こりの「誕生」譚が語られますが、後のシリーズの多くの怪人も、その誕生について直接描写されたり、回顧譚が語られたりします。
第二作、「オズの虹の国」では、ジャック・オー・ランタン(Jack-o'-Lantern)をモチーフにした怪物「かぼちゃ頭のジャック」が登場。少年チップによって、木の枝を組み合わせて作った胴体に派手な衣装を着せつけ、かぼちゃの頭に怖い顔を彫りつけられたジャックは、はじめはチップが養母の魔女をおどすためだけに作られたのですが、ひょんなことから命を吹き込まれてしまいます。かぼちゃの中の種が脳みそ代わりのジャックは少し頭が弱く、建てつけも雑なので何かの拍子に手足の枝が外れたり、頭が取れてしまったりします。しかし、作ってもらったチップを「お父さん」と呼び、どこまでも忠実についていこうとするけなげな性格をしています。
同じくアメリカの民間習俗を取り入れたキャラクターが、「オズのつぎはぎ娘」(The Patchwork Girl of Oz 1913)に登場するパッチワークガールことスクラップス。スクラップスは、アメリカの代表的な手工芸品パッチワークキルトをモチーフに、布の端切れをつぎはぎして作られた等身大の人形で、頭から足先まで、さまざまな色・模様のドハデな布で出来ています。19世紀初頭、アメリカでは紡績工場とプリント技術がさかんとなり、さまざまな布が手に入るようになりました。パッチワークキルト自体はイギリスの富裕層の婦人たちが発祥ですが、アメリカにわたり、より庶民的な手芸品として爆発的に広がり、アメリカンフォークロアのひとつとなりました。スクラップスは見た目のクレイジーさそのままに、性格もクレイジー。傍若無人でふざけてばかりいるスクラップスがきまじめな同行者オジョ少年をふりまわす様子、カカシとの出会いでのやりとりなど大笑いの連続で、スクラップスの大活躍で「オズのつぎはぎ娘」はシリーズ中でも屈指の傑作といわれています。
近年日本でも大人気のスチームパンク(steampunk)の先駆け的なキャラもオズには登場します。ブリキの木こり(本名はニック・チョッパーという生身の人間でした)自体スチームパンク的ですが、さらにスチームパンクぶりが顕著なのが、銅製ロボット、チクタクです。「オズのオズマ姫」(Ozma of Oz 1907)ではじめて登場したチクタクは動力はねじまきのロボットで、ねじを巻いてやらないと動かなくなってしまうというのが弱点。そのため肝心なところで動かなくなり、まったく役に立たなくなるというとぼけたキャラクターとして人気を博しました。
本場アメリカのハロウィーンのコスプレと言うと、こうしたオズシリーズのキャラクターに扮するのも定番中の定番。日本定番の仮装もよいのですが、オズシリーズのキャラクターに仮装すれば、思いがけず、見かけた外国人などから注目されたりするかもしれません。


オズの魔法使いは今もアメリカカルチャーの原型として宿り続けている

1939年封切られた映画「オズの魔法使い」は、その主題歌である「虹の彼方に(Over the rainbow)とともにあまりにも有名ですが、それ以外にも数多くのオズ関連の映画、演劇、音楽が製作されています。
映画では、先述したジャックやチクタクのほかめんどりのビリーナ、ノーム、オズマ姫などのオズシリーズのスターが多く登場する「オズ(Return to Oz 1985)」、マイケル・ジャクソンとダイアナ・ロスが出演したことで話題を呼んだ「ウィズ」(The Wiz 1978)またつい近年でも「オズ はじまりの戦い(Oz the Great and Powerful 2013)などがありますし、ミュージカルでは「ザ・ウィズ (The Wiz)」や「ウィケッド」(Wicked)などがあります。
音楽でも、日本ではアルバムに「黄昏のレンガ路」という意味不明な邦題が付けられてしまいましたが、オズの国を縦横に走っているメイン街道である「黄色いれんがの道」をモチーフにしたエルトン・ジョンの名曲「Goodbye Yellow Brick Road」がよく知られていますね(エルトン・ジョンはイギリス人ですが)。
アメリカのドラマや映画を見ると、ひんぱんにオズの魔法使いでの喩えやジョークが登場します。さしずめ日本人が桃太郎やかぐや姫で冗談を言ったりパロディーを作るようなもので、日本では昔話の登場人物が次々に登場するCMがロングランで人気なように、アメリカ人の心のどこかには、常に「オズ」の物語が原型として宿っているように思われます。日本人が気がつかないだけで、近年のアメリカドラマにもかなり頻繁に「オズの魔法使い」をイメージしたジョークや言い回しが登場しています。オズシリーズを知っておくと、ニヤッと出来ること請け合いです。