プラスワン・マーケティングの増田薫社長(2016年11月撮影)

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 モバイル市場では大手キャリアより大幅に安い格安料金のスマートフォン(スマホ)が着実にシェアを伸ばしており、事業者数も668社(総務省調べ、2016年末時点)に上る。その一方で、どの事業者も赤字に苦しんでいるという実態が露わになってきた。

 9月26日には、業界3位の楽天モバイルが「FREETEL」ブランドで知られるプラスワン・マーケティングのMVNO事業(仮想移動体通信事業:自社でモバイル通信のネットワーク設備などを持たずに、大手キャリアの回線を一部買い上げてサービス提供する)を買収。契約者数の合計では業界2位のIIJに並んだ。これを皮切りに、今後は格安スマホの淘汰が本格化するとの見方は多い。その背景には、単体では儲けが出ないという厳しい事業環境がある。

●儲からない格安スマホ

 テレビCMでも連日のように連呼される「格安スマホ」は、日本における認知度が90%を超えているとの調査もあるほど、馴染み深いものになっている。

 その中身は、格安の通信料金を実現した「格安SIM」と、3万円前後の価格帯を中心とした「SIMフリースマートフォン」端末から成っている。このうち、楽天モバイルが買収したのがFREETELの格安SIM事業だ。

 楽天が開示した資料によれば、FREETELの2017年3月期決算は100億5900万円の売上高に対して55億3000万円もの赤字を出している。だが、これはFREETELだけの問題ではないというが業界の見方だ。たとえばKDDIの100%子会社となったビッグローブは、40万人の会員を抱えながら損益分岐点に達しておらず、黒字化には100万人を超える会員が必要で、あと数年はかかる見込みだという。

 そもそも格安SIMは大きく儲けることが難しいビジネスだ。各事業者はNTTドコモなど大手キャリアから帯域を借り、そこに多数のユーザーを詰め込むことで格安を実現している。技術的な工夫の余地はあるものの、徹底したコストダウンが求められる。

 当初の格安SIMは、大手キャリアのような全国各地の実店舗や手厚いサポート、派手な広告を省くことで、格安を実現するという目論見だった。だがユーザー層の広がりに伴い、実店舗やサポートの競争が激化。さらにテレビCMまで打ち出すことになる。料金や通信速度に大差がないのであれば、あとは認知度やブランドイメージの勝負になるからだ。

 FREETELもそのすべてに足を突っ込んでおり、業界からは「本当に利益が追いついているのか」と懐疑的な見方が増えていた中での買収劇となった。

●他の事業とのシナジーは必須に

 FREETELが大きく飛躍したきっかけは、ヨドバシカメラと組んだことも大きい。ヨドバシカメラはプラスワン・マーケティングに22.3%を出資し、創業者の増田薫社長に次ぐ大株主だったことが明らかになった。

 だが、両社の関係は昨日今日に始まったものではない。かつてデルの営業職だった増田氏はヨドバシカメラ新宿西口本店の売り場に足繁く通い、当時の店長だった日野文彦氏の目に留まったとのエピソードがある。

 数ある格安SIM事業者の中でヨドバシがFREETELを選んだ背景には、こうした長年の信頼関係があったともいえる。だが楽天による買収を境に、そのヨドバシからもFREETELの売り場は大部分が撤去されてしまった。

 今後、プラスワン・マーケティングはFREETELブランドの端末事業に注力するという。増田社長の人脈を中心に、同社は海外展開に意外な強みがある。これまでカンボジアやメキシコ、ベトナムに展開してきたほか、8月にはナイジェリアへの進出も発表した。

 増田社長が掲げてきた「2025年に世界一を目指す」との目標はさすがに厳しい状況だが、儲からない格安SIM事業を手放し、経営を立て直すことで事業継続の可能性は見えてきた。

 一方、FREETELのユーザーを獲得した楽天モバイルの狙いは、スマホを起点として楽天市場での買い物や楽天が提供する各種サービスの利用、ポイントプログラムなど「楽天経済圏」の拡大にある。格安SIM単体では儲からない以上、他の事業とのシナジーを打ち出していけるかどうかが鍵になりそうだ。
(文=山口健太/ITジャーナリスト)