黎明通りを視察する金正恩氏

写真拡大

北朝鮮にも見栄っ張りの人はいる。ここ最近の北朝鮮はカネがモノを言う社会になりつつあることから、自分の価値を低く見られないためにも無理をして見栄を張る。懐具合が多少さびしくても、ファッションや携帯電話に大枚をはたく人は多い。

なによりも、最高指導者である金正恩党委員長の虚栄心、自己顕示欲は尋常ではない。

空から汚物が

金正恩氏の虚栄心を象徴するのが、平壌市内に建設された倉田(チャンジョン)通り、未来科学者通り、黎明(リョミョン)通りなどの高層マンション群だ。次々と高層マンション群の建設事業を進めながら、財力のあるふりをし続けている。

ただし、高層マンションの多くは、劣悪な電力事情ゆえに、エレベーターがまともに稼働しない。水道すら使えず、地上で汲んだ水を運ばなければまともな生活も送れない。ある地方都市のマンションのトイレ事情に至っては目も当てられないという。

(関連記事:空から汚物が…「金正恩住宅」のトイレ問題が深刻

自分専用のトイレ

金正恩氏の虚栄心は、高層マンション群の建設だけでは終わらなかった。2012年7月には、「敵どもが撮影した衛星写真にわが国の建物の屋根が写ってしまう、社会主義制度をけなすのに悪用されてしまう」との理由で、全国の公共の建物と住宅の屋根を「現代化」、つまり葺き替えることを指示した。2013年5月には工場、企業所にも同様の指示を下した。

当局は住民から費用を徴収し、工場を建てて金属製の屋根板を製造させた。また、中国から屋根用の鉄板を大量に輸入した。しかし、屋根の葺き替えが終わったのは全体の3割に過ぎない。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)がその内情に迫っている。

慈江道(チャガンド)の情報筋によると、今月14日に幹部講演会が開催された。講演会では、屋根の現代化が国連の対北朝鮮制裁に対抗するにあたって最重要課題であり、現代化を早急に進めて対北朝鮮制裁の効力がないところを見せつけよう、衛星写真を見た世界をあっと驚かせようという方針が伝えられた。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、市の人民委員会(市役所)や洞事務所(末端の行政機関)は「屋根の現代化を早急に行なえ」と大騒ぎしている。しかし、葺き替えは遅々として進んでいない。多額の費用がかかるからだ。

屋根の葺き替えにかかる費用は、居住者が塗装と工事を行う場合で1平米あたり中国人民元で15元(約260円)、市場で完成品を購入した場合で1平米あたり40元(約690円)。平屋建ての家1軒の屋根をすべて葺き替えれば、1200元(約2万円)もかかる。

ちなみに、今年9月末時点でのコメ1キロの価格は概ね6100北朝鮮ウォン(約79円)、平均的な4人家族の1ヶ月の生活費は50万ウォン(約6500円)。そんな大金を用立てるのは決して容易ではない上に、経済制裁のせいで生活が苦しい。そんな状況下で屋根の葺き替えを強要すれば、経済制裁の効果をむしろ高めてしまう可能性さえある。

当局は昨年4月にも、全国の工場、企業所に対して「社名の入った表札を照明付きのものに取り替えよ」との指示を下したが、これも見栄っ張り政策の一環だ。しかし、慢性的な電力不足に苦しめられている北朝鮮で、表札の照明を点灯し続けるためには、自家発電設備が必要となる。

しかし、そんな設備を導入する余裕がない工場が多いため、取り締まりを避けて、路地の奥の方に入り口を付け替えたり、引っ越したりするなど、アクロバティックな対応をしているという。

こうした方針からも、金正恩氏が、いかに政策のプライオリティを誤っているのかがわかる。例えば、黄海北道(ファンヘブクト)の山間部は、歴史上一度も上水道の恩恵を受けたことがなく、住民は何キロもの道を歩いての水汲みを余儀なくされているが、全く改善がなされていない。

金正恩氏は、自分の身を守るためには、トイレにさえ細心の注意を払っているとされている。まがりなりにも最高指導者という自覚があるのなら、屋根の現代化で虚栄心を満たすよりも、マンションのトイレ事情も含めて一般庶民の生活により気を配るべきだ。