―日本ではどのようなニーズがけん引役となるのでしょうか?
 「もともとは米国でのブームが波及しただけの状況だったかもしれない。日本では決済ネットワークは完備しているし、融資も相対的に受けることができる。ベンチャーキャピタルも次々とできており、決済や融資の領域で不満や不便が大きくない。それでは何が必要となるのか。私は将来不安へのソリューションが中心に来ると思っている。政府の債務残高が積み上がり、年金など社会保障システムへの不安が高まる中で、個人や経営者としてどう振る舞えばいいのか。まず現状を認識できるようにして、将来を安心できるようなソリューションを示す。そうして皆が安心して働き続けることができるように後押ししてあげることが、国を挙げてフィンテックを普及する意義ではないか」

NFCってすごい
 ―フィンテックの普及に向け、日本では18%とされるキャッシュレス決済比率の低さも課題となっています。その一方で中国で普及するアリペイが日本に参入するなど、キャッシュレス決済で海外勢に主導権を奪われてしまうのではと懸念されます。
 「日本では(Suicaや楽天Edyなどで使われている非接触タイプの)NFCを最大の武器にしたら良い。インフラが何もないのであれば、(アリペイのように)スマホを決済に使うのも悪くないが、日本には200万台以上のNFC決済端末がすでにある。Suicaなど電子マネーでP2Pの送金だってできるようになれば面白い。“来年のお年玉はSuicaで”というのが実現すれば良いのにと常々思っている。アリペイは中国で(スマホで読み取るための)QRコードを大量に配布して普及を進めたが、NFC端末を設置済みの日本で、どれだけの店舗が導入するのだろうか。それにQRコードを読み取るのは、スマホカメラの起動もあり手間。NFCの方がよほどスピーディで簡単だ。NFCってすごいと言いたい」

江戸時代に戻る?
 「ただ将来の本命は顔認証などの生体認証だろう。決済の領域では、これから江戸時代に戻っていくんだと言っている。江戸時代の商人は大晦日になると集金に走り回ったものだが、それは皆ツケで飲んでいるから。いわば顔を見て与信している。これと同じ世の中がフィンテックでやってくる。もちろん大晦日に集金して回ることはないだろうが」

 ―フィンテックでは仮想通貨などブロックチェーン分野がもっとも注目されています。
 「実質的な技術の価値はこれからという段階。ブロックチェーンが一般の決済システムに取って代わるにはまだ時間がかかる。ビットコインも希少性があるから金の代替物になると言われるが、実際には次々とアルトコイン(ビットコイン以外の仮想通貨)は作ることができるから、仕組み自体は希少ではない。むしろ全銀ネットなどの既存インフラに分散型台帳を活用する動きの方に価値がある」

 ―仮想通貨による資金調達「ICO」も盛り上がっていますが。
 「本質的には購入型のクラウドファンディングと同じであると考えている。ICOは現状では資金繰り手段にも近いところがあり、何らかの制度整備が必要だろう。ただ、それを詐欺だといって騒ぐのも行き過ぎである。投資の対価は必ずしも配当や返済金とは限らない。また、世の中のベンチャーは誰だって世界を変えられると思っているが、たいていは失敗するもの。クラウドファンディングもそうだが、友達に金を貸すなら、あげてしまった方が良いという考えもあり得るだろう」

【略歴】
 瀧俊雄(たき・としお)2004年に野村証券に入社し、野村資本市場研究所で家計行動などの研究業務に従事した。野村ホールディングスの企画部門を経て、2012年からマネーフォワード(東京都港区)の設立に参画。自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」を展開している。2015年には同社Fintech研究所長に就任した。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」に参加。金融庁「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」メンバー。