10日間の大型連休となった今年の国慶節。日本の観光業界にとっては、まさにかき入れどきである。だが、業界関係者は大きな不安に包まれていた。9月半ばより、中国から観光客が来なくなるのではないか、という噂が流れていたのだ。

 なぜ、そんな噂が流れたのか。その根拠は、中国の観光当局が行った「訪日団体旅行の制限」にある。国家旅游局が訪日団体旅行の取り扱いを減らそうと動いたというのだ。

 中国の旅行代理店への通達は書面ではなく口頭で指導する形で行われた。そのため、日本側だけでなく中国側の旅行代理店も混乱に陥った。

 中国当局が訪日団体旅行を制限しようとした理由は何か。さまざまな憶測を飛んだが、「中国政府が外貨の流出を懸念している」という説が最も有力とされている。

 しかし、本当の理由は明らかにされていない。「出国税を検討する日本への嫌がらせではないか」、あるいは「北朝鮮情勢の悪化に中国の国民が巻き込まれるのを懸念したから」などという憶測もあった。

 中国からの団体ツアーを受け入れてきた静岡県の某ホテルでは、管理職の社員が首をひねりながらこう語る。

「まったくわけが分かりません。中国人のツアーガイドに尋ねたところ、“ぼったくりツアー”を減らすための措置のようだ、と言うんですよ。ぼったくりツアーや激安ツアーを一掃して旅行市場を正常化させる、というのが狙いらしいんですが・・・」

「一流国家」に向けて歩み出した中国は、旅行業界の“浄化”にも動き出した、ということだろうか。

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狙いは「爆買い」を封じるため?

 今回の訪日団体旅行に対する制限は中国の全地域で行われているわけではない。「制限地域となるのは東北部と内陸部で、北京市や上海市は制限の対象外とされている」(中国の旅行代理店)。

 中国東北部の都市では、旅游局が旅行代理店を集めて緊急説明会を開いた。関係者は次のように語る。

「東北と内陸部の旅行者の“爆買い”が激しいため、この地域が制限の対象となったようです。一方、北京、上海、広州の人々は爆買いに一服感があるから制限をしない。やはり、外貨流出を懸念した措置なのでしょう」

 この関係者によれば、制限期間は2017年の年末までだという。説明会では「制限は春節まで続くのか」という質問に「旅游局が口ごもるシーンがあった」(同関係者)。「説明会はなぜか筆記具の使用を禁じられた、異様な雰囲気だった」(同)ともいう。

考えられるもう1つの理由

 中国人観光客を受け入れる旅行会社のある女性経営者は、今回の中国当局の措置は「外貨流出の防止」だけが原因ではないとみる。「政治的な理由なのではないか」との疑念を抱いているのだ。

 なぜならこの経営者は、中国人の添乗員から「韓国に配備された米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)と同様の兵器を、日本が配備しようとしているからだ」と耳打ちされたのだという。

 韓国に配備されたTHAADは「北朝鮮の脅威のみに対応」するものとされており、中国のミサイルを対象としたものではない。だが、レーダーの範囲は北東アジア、さらには内陸にも及ぶため、中国は“国家機密”を収集されてしまうことを危惧している。中国側は韓国のTHAAD配備について「防衛の粋を大きくはみ出すもの」(環球時報)と非難し、今なお韓国への団体旅行を制限している。

 では、日本が配備しようとしているのはどのような兵器か。

 8月17日、日米両政府はワシントンで外務・防衛担当閣僚会議を開き、日本は陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を導入する意向を伝えた。「イージス・アショアの捜索範囲はTHAADより広く、対応できる高度も高い」(防衛省)とされている。

 防衛省は「まだ導入は決定していない」と言うが、中国メディアはこのニュースに敏感に反応した。「イージス・アショアの性能はTHAADを超える」として警戒を強めている。

 ひとたびこれが実行に移されれば、日中間のインバウンドに大きな影響をもたらすことは必至だ。実際に、中国東北部の大連と博多を結ぶクルーズ船は「8月17日以降、大連からの団体客を乗船させなくなった」(日本側で受け手となる旅行代理店)という。

 今回の中国による旅行制限の真相は定かではないが、今後、何かがきっかけとなって日本への客足が途絶える可能性は十分にある。今回の訪日旅行制限は、インバウンドに沸く日本に対する「中国人旅行客はいつ突然いなくなるか分からない」という重要なメッセージとも受け取れる。

筆者:姫田 小夏