学資保険の是非を考えてみます(写真:SoutaBank / PIXTA)

子供が生まれたら学資保険に加入する……。無条件にそう考えている人も多いかもしれない。

学資保険とは教育費の貯蓄を目的として、あらかじめ設定する満期に向けて保険料を積み立てていく金融商品。「保険」の名のとおり、万が一、契約者が死亡や高度障害になった場合にも、満期時に保険金を当初予定どおりに受け取れる。

教育資金の貯蓄は学資保険が最適かどうか? すでに多数のファイナンシャルプランナー(FP)が論じているが、学資保険に否定的な意見が少なくない一方で加入する人は非常に多い。

戻り率115%の学資保険はお得?

一般的な学資保険は毎月1万円程度をコツコツ積み立て、大学入学のタイミングで満期になるものが多い。子供が小さいうちに加入して児童手当に手を付けずに保険料を払い、満期に受け取る保険金は200万円から300万円程度、というのがざっくりとした加入から保険金受け取りまでの一般的な流れとなる。

保険という名前にはなっているが、求められている効果は保険よりも貯蓄機能だ。保険料を払った以上に保険金が増えて戻ってくるものが選ばれる。戻り率とも呼ばれるが元本割れするものは別にして、2〜3%から多いものでは15%も増えて戻ってくるものもある(年利ではなく、支払った保険料の総額に対して受け取る保険金総額で計算)。

戻り率が高いものとしてはソニー生命の学資保険がある。子供が大学へ進学するまで保険料を払い込む場合は110%程度、10歳までに保険料を払い込むと戻り率は115%程度まで増える。短期間で払い込んだほうがより多額の資金を長期間にわたって運用できるため、リターンも大きくなる。

学資保険の契約者は子供ではなく親なので、親が死亡した場合はそれ以降保険料の払い込みが不要となる。生命保険としての機能もあるワケだ。

利息がほぼゼロの預貯金と比べると利回りの差は確かに大きい。現在定期預金の金利は1年で0.01〜0.1%程度、長期でもほとんど変わらない。ソニー生命の200万円を受け取る学資保険と条件をそろえて比較すると以下のようになる。

●ソニー生命の学資保険

保険料月額8392円、18年間の払い込み総額181万2672円、保険金200万円(40万円×5年)
保険料と保険金の差額は約18.7万円(契約者が30歳男性の場合、執筆時点でソニー生命のHPで試算)
○一般的な定期預金

貯金額月額8392円で積み立て、金利0.1%で複利運用した場合、18年間の払い込み総額約181万2672円
預金残高182万5706円、利息額1万6355円

上記のように、両者を比較すると17万円程度と10倍もの差がある。このように利回りが高く、そして生命保険の機能まで付く。一見するとお得に見える学資保険だが、FPの視点から見ると、必ずしもオススメはしない。その理由は以下のとおりだ。

学資保険のリスクとは?

(1)元本の保証性が弱い(信用リスク)

学資保険に限らず、終身保険個人年金保険など積立型の保険全般にいえるが、保険による貯蓄・運用は元本保証がなされない。普段の相談でもすでに加入している人には、「保険会社が潰れないかぎり」貯蓄とほぼ同じ扱い、なので無理に辞める必要はない、と説明する。

保険でおカネを貯めることは銀行や信用金庫とはまったく意味が違い、保険会社の破綻リスクがある。利回りが預貯金より高いのはそのためだ。保険会社はそんなに簡単には潰れない、という人は金融危機で実際に保険会社が破綻したことや、現在では5年に1回くらいのペースで金融危機が発生していることを知らないのだろう。

(2)金利上昇リスク

学資保険は中途解約をすれば元本を大きく割り込むケースが多い。つまり契約期間中に金利が上昇しても解約しにくいため低利で長期固定運用となり損をする、厳密にいえば儲け損なう可能性がある。生まれてすぐに加入すれば契約期間は20年近くに及ぶ。現在はアベノミクスによる金融緩和中で短期間に金利上昇が起きることは考えにくいが、長期で考えた場合は当然のことながら金利上昇リスクも考慮する必要がある。

(3)資金繰りのリスク

15%も増えるならめちゃくちゃお得だ!と感じた人も多いかもしれない。しかし、収入の減少や支出の増加等により手元の貯金が極端に減ってしまうかもしれない。筆者の場合、すでに学資保険に加入していて、子供が新たに生まれたからもう1つ入ろうかと検討している人には、「今入ってるものは辞めなくていいが、さらに入る必要があるかは慎重に考えてください」とアドバイスする。

たとえば満期に200万円の受け取りが可能な学資保険に2人分加入している場合、子供が大きくなれば300万円近いおカネが学資保険に固定されて手が付けられなくなる。それがよいという人もいるが、手元の貯金が極端に減った状況で手の付けられない保険による貯蓄が積み上がる状況は、資金繰りの観点から考えるとマイナスの効果も大きい。

3人分ともなればさらに金額が大きくなる。収入が大幅に減った場合は損得より資金繰りが重要な場合もある。

※契約者貸し付けといって、解約返戻金の範囲内で借り入れは可能だが、当然利息は取られる。

(4)保険機能は大してお得ではない

万が一のことがあれば生命保険の機能もあると説明したが、これはごくわずかでオマケ程度の効果しかない。30歳の男性が55歳までの収入保障保険を月額10万円から同11万円に増やした場合、1万円×12カ月×25年=300万円となり、これは学資保険と同程度の保障だが、その保険料は1カ月当たり215円、年間で2580円、25年間で6万4500円程度だ(アクサダイレクト生命・収入保障2で試算)。

健康体割引や非喫煙割引のある保険ならばさらに安くなる。生命保険が必要であれば別途加入すればいい。

学資保険は良心的?

学資保険から得られる保険会社の利益は非常に少なく、保険代理店で働く知人は学資保険だけしか売れないとお客さんの家まで行く交通費で歩合給が消えてしまうと嘆いていた。

筆者のもとに相談に訪れたご夫婦からも、「学資保険について問い合わせをしたところ、3時間を2回、合計で6時間も保険会社の営業マンがいろいろと丁寧に説明してくれた。それ自体は知らないこともあり役に立ったが、結局当初の予定どおり学資保険だけに加入すると伝えたらすごく悲しそうな顔をされてしまった」とも聞いた。なんとも分かりやすい反応だが、それくらい学資保険は利幅が薄い。

利幅が薄いという意味では良心的な商品ともいえるが、そんな商品を扱う理由も、子供が生まれた家庭は保険の見直しをする絶好のタイミングであり、ドアノック商品といって顧客との接点を作るために採算度外視だからという事情もある。当然のことながら加入する側としてはそういった売り手の事情は関係なく、単純にお得なら加入すればいいというだけの話だ。

学資保険は「貯金+生命保険より学資保険のほうがお得」と説明を受けている相談者が来店することもあるが、何とも危なっかしい説明だと言わざるをえない。

まず、比較の仕方が間違っているケースも散見される。たとえば300万円分の学資保険に子供が生まれてすぐ加入した場合、300万円を18年間保証する生命保険と同じかというと、実態は大きく異なる。なぜなら100万円払い込んだあとに契約者である親が死亡した場合、受け取ることができる300万円のうち、100万円は払ったおカネが戻って来ているだけだからだ。純粋な意味での保険金は200万円にすぎない。

したがって、比較をするには保険金が一定の定期保険ではなく、保険金が徐々に減る収入保障保険で比較する必要がある。保険料は収入保障保険の方が半分以下となる。わざとなのか知識不足なのかわからないが、学資保険のほうが得と見える説明になっている。

また、すでに説明したように、貯蓄型の保険は元本保証ではないため、貯金と同質であるかのような説明は実態としても法的な面でも極めて不適切だ。

たまに摘発された投資詐欺で「元本保証で利回り6%!」などとうたわれているものがある。銀行等でない企業が元本保証と説明している時点で出資法違反になる。

学資保険に限らず、貯蓄型の保険と銀行預金の安易な比較は出資法の観点からもグレーであるといえる。相談者から学資保険や終身の保険を続けるべきか辞めるべきかアドバイスを求められた場合、自分は「保険会社が破綻しないかぎり」と必ず枕詞を入れて説明している。保険とペイオフで保証される預貯金ではまったく性質が異なるからだ(預金保険機構により、銀行預金は1000万円とその利息まで補償されるが、保険は生命保険契約者保護機構で補償されるものの範囲は限定的)。

学資保険よりお得な運用方法は「繰り上げ返済」

学資保険が不利かのような説明に終始してしまったが、それでも学資保険がお得なケースはある。(1)(2)(3)で説明したリスクが発生しなかった場合、つまり保険会社が破綻せず、金利も上がらず、手元資金に余裕があり、なおかつ数万円分とはいえ生命保険として効果も見込めるケースだ。確率としては決して低くはないだろう。

筆者が相談者に対して「無理に辞めなくてもいいですよ」とアドバイスする理由もこの辺りにあるのだが、ではケース・バイ・ケースで話は終わってしまうのかというと、そんなこともない。

もし学資保険に加入を検討している人が住宅ローンも抱えているのであれば、繰り上げ返済に充てたほうがお得と説明するだろう。

たとえば子供が生まれて学資保険の加入を検討している人がいた場合、すでに家を買っているか、これから住宅購入を検討しているケースは非常に多い。こういった場合、200万円の学資保険に加入せず繰り上げ返済に回した場合、以下のようになる。

*借り入れ条件
借入額 4000万円、返済期間35年、金利1.36%(2017年10月フラット35の金利)
借り入れから住宅ローン減税の終わる10年後に172万円を繰り上げ返済をすると……
期間短縮型
短縮する返済期間 1年7カ月
減少する利息 約66.7万円
返済額軽減型
減少する利息 約30.8万円

※ソニー生命の学資保険の場合、毎月1万4368円、10年間で約172.4万円を支払うと18歳から22歳まで毎年40万円、合計200万円の受け取り、115.9%の戻り率で約27.6万円を得られる(契約者が30歳男性の場合。執筆時点でソニー生命のHPで試算)。

※生命保険料控除の枠を使い切っていない場合、学資保険による節税効果も加算して計算できる場合もある。

同じ172万円を払う場合でも、繰り上げ返済は一括で、学資保険は10年間で分割払いと条件は異なる。また、繰り上げ返済は住宅ローン減税が終わるまで積み立てを継続することで、10年間で得られる利息も考慮に入れると、わずかだがさらに差が広がる。

あくまでこのシミュレーションは住宅ローンを借りている人でなおかつ上記の条件で計算した場合となるが、学資保険の27.2万と比較して、期間短縮型の繰り上げ返済は66.7万円と、お得度で言えば2倍以上だ。

おカネに色はついていない

学資保険でおカネを貯めることと、繰り上げ返済で借金を返済することとは全然違うのでは?と疑問に感じた人もいるかもしれない。もちろん、貯蓄と返済はまったく違うが、手元にあるおカネをどのように使うか?という視点で「教育資金」とか「住宅ローン」といった余計なカテゴリーを取り払えば、いちばん得な使い道を客観的に考えるべきというアドバイスになる。おカネに色はついていないため、バラバラに考えるほうが間違っているわけだ。

単純に繰り上げ返済がお得だから学資保険が不要ということではなく、おカネの使い方はすべてリスクとリターンで考える必要がある。貯金・学資保険・繰り上げ返済をリターンの高い順、リスクの高い順に並べ替えると、以下のような順番になるだろう。

リターン
1.繰り上げ返済 2.学資保険 3.貯金
リスク
1.繰り上げ返済 2.学資保険 3.貯金

リスクとリターンは比例しているので、ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンで資産運用の原則どおりとなる。なお、リスクといっても学資保険のリスクは主に保険会社の破綻による「信用リスク」で、繰り上げ返済のリスクは学資保険よりもさらに長期間にわたって手元の資金が減ってしまう「資金繰りのリスク」となる。

ただし、リスク・リターンも人によって、場合によって順位が変わる。上記の比較は固定金利で計算しているため、変動金利でなおかつ金利上昇がなかった場合は繰り上げ返済より学資保険のほうがリターンは高い場合もあるだろう。

また、多額の貯金があり、数百万円程度では資金繰りに影響を受けない場合はリスクは考慮せずリターンの順番だけで使い道を決めてもよい。分散投資の観点から、限られた資金で繰り上げ返済と学資保険を併用するという判断もあるだろう。

学資保険なんてどうでもいい

先日、学資保険についてSNSでつぶやいたところ、「私は教育資金を学資保険や定期預金ではなく投資信託で運用している」というコメントがついた。筆者は「リスクを承知のうえなら別にいいんじゃないですか」と回答した。

SNSだからっていい加減な返答をするなと文句を言われそうだが、有料相談でも同じ解答をするだろう(もう少し丁寧な回答にはなるが)。投資信託もいろいろあるが、株で運用するハイリスクなものでも特に問題はない。

先ほどのリスクとリターン、そして分散投資の観点から考えれば、以下の2つは表現方法が違うだけで、やっていることはどちらも同じだ。

教育資金を株で運用して、残りは貯金

教育資金を定期預金で貯め、余剰資金を株で運用

△寮睫世鯤垢い凸簑蠅あると感じる人はいないだろう。このように考えていくと、学資保険はお得かどうか?どの学資保険がお得か?という話がいかに狭い範囲の小さな議論かわかってもらえたのではないかと思う。

結局、学資保険はお得かどうか?という問いは、問い自体に問題があるといえる。リターンとリスクはセットで考える必要があり、なおかつ教育資金という狭い範囲だけで考えること自体が間違いだ。

おカネに色はついていないと説明したとおり、このおカネは教育資金、これは住宅ローンの繰り上げ返済用、と過剰にカテゴリを分けて貯蓄することはかえってマイナスの効果しか生まない。重要なことは手元の資金をリスクとリターンで最適な形で使い、運用することだ。

リスク・リターンを慎重に考えたうえで学資保険が最適、という結論にたどり着いたなら、それは別に否定するものではない。「教育資金を貯めるなら学資保険」という名称やイメージに流されずに判断するのがベターだ。