AMG GT「C」はなぜつくられたのか?(写真:Mercedes-Benz提供)

AMG――。メルセデス・ベンツが展開するさまざまな車種の中でも、特に高性能なモデルにつけられるブランドだ。たとえば、メルセデスで最もコンパクトな「Aクラス」に「AMG」を冠する「メルセデスAMG A45 4MATIC」は、最高出力381馬力という、このクラスで世界最強のとてつもないパワーの直列4気筒ターボエンジンを積む。

ダイムラー・ベンツの開発部門でレース用エンジンの開発に取り組んでいたハンス・ヴェルナー・アウフレヒト、エアハルト・メルヒャーという2人のエンジニアと、彼らが育った土地であるグロース・アスパッハ。これら3つの単語の頭文字を組み合わせたのが「AMG」の語源だ。「モータースポーツこそが技術力の優秀性を何よりも端的に示す」というコンセプトの下に、エンジンや駆動系、足回りなどの性能を徹底的に磨き上げる。

これがAMG GTの本命だ


ドイツで、AMG GT Cを試乗(写真:筆者提供)

そんなAMGの中でも最高峰ともいえるフラッグシップモデルとして2015年に世に送り出された2ドアスポーツカーが「AMG GT」だ。その新グレードとして「C」が追加されたと聞き、ドイツまで試乗に行ってきた。

日本を含め、成熟した先進国での自動車市場において、ラインナップやグレード展開の拡大は必須。それはAMG GTにおいてもである。ファンを増やして販売台数を伸ばすのは当然として、ファンの放出を防ぐためにも、細かなニーズに応えていかなければならない。

AMG GT「C」は10月25日に全国限定12台、車両価格2290万円で日本にひっそりと導入された。予想はつくだろう。わざわざ遅れて今、導入するモデルだ。悪いわけがないし、事実、触れてみて直感した。これがAMG GTの本命だ。

そもそもAMG GTとはどんなクルマか。メルセデスにおいて十分に開拓することのできていなかった、本格スポーツカー市場でのポジショニング確保とAMGブランドの牽引がその役目。そのためには、市場の中心に長年君臨している、誰もが認めるスポーツモデルのポルシェ「911カレラ」と戦う必要がある。

しかし911カレラはベースグレードからしてハイパフォーマンスであり、「S」や「ターボ」、さらにはサーキットでの全開走行まで涼しい顔でこなす「GT3」など多数のグレードを取りそろえている。メルセデスがこれに打ち勝つには、一般向けに作られた既存モデルをハイパフォーマンス化する通常のAMG手法では性能面やパッケージ面で難しい。


すべてをAMGのためだけに(写真:Mercedes-Benz提供)

日常に非日常を与えるようなモデル

そこですべてをAMGのためだけに、サラブレッドのようにこのAMG GTを作り上げたわけだ。

だからこそ、まずAMG GTを通常のAMGモデルのようなイメージでとらえるのはやめたほうがいい。各国のレースシーンではすでにAMG GTのレース規格車両「GT3」が見事な成績を収め続けているが、レースシーンまで視野に入れた本格スポーツモデルこそ、その姿である。

すでにAMG GTには2015年の登場当初から、4リットルV型8気筒を2つのターボで武装した最大出力462馬力、最大トルク600Nmの「ベースグレード」と、それを基軸に最大出力を48馬力増強した510馬力・最大トルク650Nmを誇る「S」が存在する。

そこに2017年5月、公道を走れるレーシングモデルとしてレースシーンからのフィードバックを受けた「R」を追加。「S」に対して75馬力も強化した最大出力585馬力・最大トルク700Nmのエンジンを積み、それに見合う専用ボディを採用している。

この3グレードに加えた今回の「C」の存在。ポジショニングは「S」と「R」の中間。Sの刺激では満足できず、かといってRほどの非日常感はいらないというユーザーを満足させるためのモデルである。

「実際、AMG GT『C』をなぜつくったのか?」という筆者の質問に、開発者はこう答えた。

「AMG GTは日常に非日常を与えるようなモデルで、その非日常体験には、要求に最適に応じることが必要です。排気音、加速力、ハンドリングといった味付けへの好みは千差万別なので、AMG GTは電子制御も使いながら乗り味を変えられるし、今回のようなグレードの細分化も大事です。この『C』はカスタマーからの要求に応じた結果でもあります」

触れてみると、まず見た目の迫力や存在感がベースやAMG GT「S」とはまったく違う。AMG GT「R」と同様に左右合計57mmも幅が拡張されたリヤオーバーフェンダーがつき、相応の極太タイヤ305/30R20を履く。これだけで見た目のカッコよさは当然として、ワイド&ローの地面に吸い付くような低重心のどっしり感が強まり、旋回力が格段に向上。また外からはわからないが、AMGとして「R」にだけ与えていたリアタイヤも操舵する機構を「C」にも採用した。


通常モデルよりも大幅に運転席が後方に配置されている(写真:Mercedes-Benz提供)

AMG GTは、運動性能に最も適した重量バランス位置にドライバーを配置することを狙い、通常モデルよりも大幅に運転席が後方に配置されている。

人に例えると足が長く見える効果も発揮するそのロングノーズパッケージは、曲がる行為に対して感覚上で若干ノソッと動くデメリットがある。それを乗りこなし重量バランスのよさを生かしてプロドライバーは戦うが、一般道で誰もがそれを容易にコントロールできるようにリア操舵が「C」についた。この効果は絶大で、ベースや「S」以上に素直にスムーズに気持ちよく曲がるようになり、特に連続するカーブを直感的なハンドル操作で理想の旋回姿勢を保ちながら曲がっていける。


アクセルの踏み込み加減に応じた非日常感の演出まで自由自在(写真:Mercedes-Benz提供)

スポーツカー好きなら外せない

加えてスポーツカーに大事な刺激の源になる加速力や排気音を生み出すエンジンも強化。その味付けは、所有しているうちに慣れてしまうことがなく、それでいて過敏で過剰に感じない絶妙な仕上がり。「S」より47馬力増強した最大出力557馬力・最大トルク680Nmのエンジンは、アクセルの加減に応じた非日常感の演出まで自由自在。もちろんサーキットを走っても十分すぎる速さを生み出している。懸念するなら、始動音が激しく、閑静な住宅街での深夜早朝での使用には気を使いそうなことくらい。

これらスポーツモデルとしての高い仕上がりに加えて、実は乗り心地もいい。ワインディングを含めた荒れた道での安定した高いグリップを求めて、タイヤを的確に優しく路面に設置させ続けるためのしなやかに動く足回りが、同時に乗員にも優しさを提供してくれていると考えると理解しやすいだろう。

もちろんAMG GTが持つゴルフバッグが2個を楽に積める積載力や、2シーターモデルながらシート後方にスペースを設けて休めるほどのシートリクライニングを可能にするなどの実用性も健在だ。このような魅力を備えた「C」、ハイパフォーマンスカー好き、スポーツカー好きなら気に留めておきたい1台だ。