オーガニック化粧品ブランド「SHIGETA」を立ち上げたCHICOさん。産後わずか4カ月ほどだが、すでに仕事に復帰している(筆者撮影)

「マタハラ」「ワンオペ育児」「産後クライシス」――。日本では妊娠・出産した女性の環境をめぐるネガティブな言葉が少なくない。妊娠に向けた不妊治療でさえ、高額の治療費や時間のやり繰りなど、つらいイメージが先行している。そんなことを考えると、今の日本では「子どもは持ちたいけれど、なんだか怖い」との思いにアラフォーの筆者は駆り立てられてしまう。

そう思っているのは1人だけではない、ということを示すデータが最近公開された。米医療機器メーカーが日本とフランスを含む各国の都市部に住む19〜39歳の女性を対象に行ったアンケートで、「将来子どもを持ちたいと思うか?」という問いに対して、日本では全体の63%が「持ちたい」と回答。これは、フランスの80%、アメリカの79%、スウェーデンの73%をはるかに下回っている。

フランスでは8割の女性が「子どもを持ちたい」

日本で、「持ちたいと思わない」と回答した人たちの理由を見ると、「子育てをする自信がないから(51.4%)」「子育てが大変そうに思えるから(44.6%)」と、やはり妊娠・出産、そして子育てに抵抗感を持っている人が少なくないことがわかる。

一方、80%が「持ちたい」と答えるフランスは、子どもを持ちたい、または育てている女性にとってどんな環境なのだろうか。たとえば、フランスでは不妊治療は基本的に100%保険適用で、出産は無痛分娩が主流。子どもが生まれてからは、男性が積極的に育児に参加するほか、ベビーシッターを利用することも当たり前で、母親1人に育児の負担がかかることはない。

とはいえ、出産・育児に限らず、結婚や、各人の生き方まで十人十色なスタイルがあるフランスには、日本のように決まりきった定番の型があるわけではない。そこで、パリでは実際、どんな妊活や妊娠、出産、子育てをしている人がいるのかを探ってみたいと思う。

今回、話を聞いたのは、今年6月に43歳で双子の赤ちゃんを出産したホリスティックビューティコンサルタントのCHICO SHIGETAさんだ。在仏歴17年のCHICOさんは、自らのオーガニック化粧品ブランド「SHIGETA」を立ち上げ、日本でも展開。著名人の愛用者が多いことで知られている。日常生活の何げない1コマをアップしている自身のインスタも人気だ。

CHICOさんに会うために訪れたのは、パリの老舗高級デパートの真裏にあるオフィス。インターホンを押すと、CHICOさんが満面の笑顔で迎えてくれてほっとした。いくらフランスで子育てしているとはいえ、まだ出産から3カ月ほど。しかも、仕事を再開してバリバリ働いていると聞いていたので、ひょっとして疲れているのでは、と思っていたからだ。

なぜCHICOさんが、そんな余裕の笑顔を浮かべられるのか。まずは、出産に至る経緯からじっくり話を聞いてみたいと思う。

――お子さんは長いこと望まれていたのでしょうか?

私たち夫婦が子どものことを考え始めたキッカケは、私が35〜36歳になった頃でした。夫に「どうしても子どもが欲しい。これは時間が待ってくれない問題だし……」と切り出さたれたんです。

私も、もともと子どもも好きだし、欲しくないというわけではなかったのですが、パリに来て自分のブランドを立ち上げてからというもの馬車馬のように働いていたので、子どもを持つ心の余裕がなかったんですね。

あらゆることを片っ端から試した


SHIGETA主宰、ホリスティックビューティコンサルタント。美しい肌と体を育むためには心身のバランスこそが不可欠と考え、長年フランスおよび日本にてビューティメソッドを探求。現在は、パリのセレブリティやアーティストのためのパーソナルコーチとして活動するほか、大手化粧品会社や美容機器会社のコンサルティングおよびブランドスポークスマンとしても活動。『「リセットジュース」を始めよう〜パリ美人のダイエット』など、著書多数(筆者撮影)

「その時夫とは、結婚してから6年以上経っていて、夫婦というよりも、完全に仕事のパートナーという関係になっていたんです。まずはそこから考え直さないとな(苦笑)、というところからスタートしました。

とにかく2人とも出張が多くて、1年のうち4分の1程しか一緒に生活している時間がなかったんです。ですから、まずは、なるべく2人が一緒にいられる時間を作ろう、とスケジュール調節を始めました」

ところが、タイミングを合わせてもなかなか妊娠には至らず、その後、はりやヨガなどの自然治療から始め、続いて37歳のころからフランスの専門医にかかり、人工授精、体外受精へと不妊治療のステップアップをしていったという。

「私たち夫婦は2人とも、健康には気を使っているし、実際、健康体。『こんなにヘルシーな生活をしているのに、どうして妊娠できないんだろう?』って思っていました。そして、とにかく片っ端から「妊娠に効く」といわれるものは食べ物でも、ヨガでも、自然治療から最先端のテクノロジー治療まで、それこそ本が1冊書けるくらい、あらゆることを片っ端から試しましたね」

――不妊治療にとりかかると、心身ともにかかる負担が大きいといわれますが実際のところいかがでしたか?

「そもそも『不妊治療』という言葉が、まるで女性に欠陥があるような印象を受けるので好きになれないのですが……。治療を1度開始すると、やることも増えるし、病院に通うことも多くなったので、仕事の業務の一貫のように『こなす』という感覚でしたね。精神的には案外落ち着いていました。もちろん、なかなか結果が出ずに落ち込むようなこともありましたが、あまり感情的になるということはなかったです」

「フランスは日本と違って、不妊治療は保険適用であることで、経済的にも、精神的にも負担を減らしてくれているのだと思いますが、私が治療中に気持ちをリフレッシュできたのは、通っていたヨガ教室によるところが大きかったなと思います。

というのも、その教室は『妊娠したい女性』たちに向けての教室だったので、私と同じように治療をしている人もいて、体験者同士だから共感できることや、情報共有できることがあり、お互いに励まし合えたことにずいぶん救われました。

たとえば、治療中にむくみなどが出て医師に相談しても『気のせいだ』とあまり取り合ってくれないことでも、そのヨガ教室で同じ治療の体験者に出会って『あなたはIVF(体外受精)何回目? やっぱり、私もむくみひどかった〜!』なんて共感し合ったりできるところです。

ほかにも、『妊娠に効果的なはりの先生は△△』だとか、『食品ならどこの○○がいいよ』なんて情報もフランクに共有できる場でもありましたね」

「妊娠を望むヨガ仲間」が心強い存在だった

――日本だと、同じ治療中の女性同士でもなかなかわだかまりがあって、付き合いも大変だということを聞いたことがありますが、そうした空気はなかったのでしょうか?


妊娠をインスタグラムで報告すると、フォロワーからお祝いの言葉が殺到した(CHICOさんのインスタグラムより)

「それはありませんでしたね。誰かが無事に妊娠に至ると、自分のことのように喜ぶというような人ばかりでしたし。みんなが、それぞれ子どもを授かれるようにと願い合っているチームのような感じで、とても心強く感じていたほどです」

37歳から妊娠を望み、その後治療を何度もトライしたけれども、なかなか妊娠には至らなかったというCHICOさん。そんな彼女が43歳になった年にトライした体外受精で、双子の妊娠に至った。

「結局、赤ちゃんは私たちが迎え入れられるタイミングを見て来てくれたんだなと本当に思いました。というのも、妊娠する数カ月前までは、自分の会社が10周年を迎える大変重要な節目でイベントもたくさんあって、とてもじゃないけど忙しかった! それが終わって一段落したときに、ふと、やってきてくれたんです。

妊娠してからは、ずっと寝付きが悪かったり、後期は足がむくんでビーチサンダルですら足が入らなくなってしまうほどのマイナートラブルに次々と襲われてしまいました。その都度、はりに通ったり、ホメオパシー(※)に相談に行ったりと原因を探りつつ、 糖分や塩分を減らす食事療法も取り入れ、少しずつ改善を試していきました」

(※ホメオパシー:フランスでは知名度が高い自然療法の1つ)

妊娠を報告したらみんな泣いて喜んでくれた

双子を妊娠していたということもあり、出産は計画帝王切開となったCHICOさん。出産時に出血が多かったなどの不具合もあり、入院はトータル2週間という長期に。その後は母子ともに回復し、子どもたちも順調に育っている。


インスタグラムには、子どもの成長過程もアップしている。猫のベティちゃんも頻繁に登場(インスタグラムより)

――実際に妊娠、出産をされて周りの環境について何か、日本と違うなと思うことはありましたか?

「まず妊娠を報告した際、周りの友人や家族たちが想像以上に喜んで、お祭り騒ぎになったことに驚きました。本当に、みんな大げさではなく、泣いて喜んでくれたんです。見知らぬ他人でさえ、妊婦にはとても親切にしてくれるのは当たり前ですし、赤ちゃんを近所に連れ出そうものなら大変です。

道ですれ違う大人も子どもも、赤ちゃんを見ると『わ〜小さな赤ちゃんが、しかも、2人もいる! カワイイ!』とか『名前は何て言うの?』とか、大騒ぎになっちゃうんですよ。なんというか、パリの人たちは皆、赤ちゃんが大好きで大歓迎するという雰囲気がとてもありますね」

妊娠後期や出産の困難はあったものの、無事に元気な双子の赤ちゃんを出産したCHICOさんでしたが、妊婦、そして母になっても自らの会社の代表であることには変わりない。出産前後も社員や製品工場は稼働し続けるため、製品チェックや打ち合わせなどで、なかなか完全には休めなかったという。

そんな経営者でもあるCHICOさんが、いかに仕事と出産・子育てをやり繰りしているのか。次回はCHICOさんのフランス流両立術について詳しくご紹介する。