「ちっちゃい幸せの積み重ね」――中井和哉が声優を続けていられる理由

『ONE PIECE』のロロノア・ゾロ、『銀魂』の土方十四郎、『戦国BASARA』シリーズの伊達政宗など…。声優・中井和哉が演じるキャラクターの多くは、アニメファンにとって圧倒的な存在である。ところが当の本人は、自らを「超コミュ障」と揶揄するほどにシャイで、謙虚で、笑い上戸な人物だった。映画『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』で演じた“偉そうで、威張っている”アクアマンとは真逆に位置する中井和哉に、その場にいた皆が魅了された――。

撮影/平岩 享 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.

監督のディレクションをもとに“偉そう感”を追求した

『バットマン』や『スーパーマン』など、アメコミの大御所であるDCエンターテインメントと、“超低予算アニメ”『鷹の爪』との“格差コラボレーション”が話題の映画『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』ですが、出演することになったときの感想を教えてください。
えーと……ビックリしました。
どのようにビックリされたのでしょう?
「何事だろう?」というか、「どういう経緯があって、お声がけいただいたんだろう?」って……全然わからなくて(笑)。だいたい僕らのお仕事って、「これがきっかけで、声をかけてくださったんだろうな」とわかったりするんですけど、今回はまったくわからないところから……。“降って湧いたような”と言ったら失礼ですけど、その唐突感にビックリしました。
これまで『鷹の爪』をご覧になられたことはありましたか?
意図せず目にすることはあって、「面白いな」と思っていましたね。何ていうか……「楽しげな語り口で、キツいことを言ってる人たちだなあ。それを見て笑ってる俺も同罪だな」って(笑)。
今作は「鷹の爪団」とDCのコラボということですが、台本を読んだときの感想を教えてください。
「ああ、鷹の爪だなあ」と感じました。「鷹の爪の映画ですよ」って聞いたときに、僕らがおそらく期待するであろうものが、たくさん入っているなと思いましたね。たとえば……みんなが「嫌だな」って思っていることを、うまく笑い飛ばしたり。「この人、ちょっとイジってみたらいいのに」っというタイミングで、しっかりイジったり(笑)っていうところですかね。
今回、中井さんはアクアマンを演じられたということで、DCのアクアマンについてはどう思っていましたか?
アクアマンはおそらく、今回出てくるスーパーヒーローたちのなかで、日本での知名度は低いほうなんだろうなと思うんです。僕も、「アクアマン? よく知らないな」って思ったので。だから、「どんな感じのキャラクターだったかな?」とピンとこないまま、お芝居に臨むことにはなりました。
そういったときは、どのように役作りをされていくのでしょうか?
作品は監督やディレクターのものだと僕は思っているので、まず第一に「こういったイメージを必要としている」というところを聞くようにしていますね。それからキャラクターを見て、集められるかぎりの情報を集めようとは思うんですけど、今回に関してはそんなに……過去の作品を見たりというようなものでもないんだろうなって(笑)。ですから、まずは“FROGMAN監督のお話をよく聞く”っていうのが一番でした。
FROGMAN監督から具体的な指示やディレクションはありましたか?
はい。監督いわく、基本的にアクアマンは「威張っている人」だと。ほかのヒーローみたいに、「人や街を助けなきゃ!」っていうタイプではなくて、むしろ「いや俺、王だし」っていうのがベースにある人だからというようなことを言われました。
それをふまえて、キャラクターの絵も見て、「こういう声かな?」って作っていくのでしょうか?
いわゆる“役作り”に関しては、僕の場合、作品ごとにアプローチが全然違うんですよね。「こういう声にしよう」と考えるときもありますが、今回はそういうことよりも……「自分本位でしゃべる人」というか、“偉そう感”が出ればいいかなと思ってお芝居しましたね。

アクアマンが再登場するシーンのセリフ回しに注目して

今回はプレスコ(※先にセリフを収録して、それに合わせてアニメーションを作る手法)だったとうかがっていますが、絵に声をあてていくお芝居(アフレコ)と比べて、プレスコだから良かった点などはありましたか?
ほかの方との掛け合いでのプレスコだったら、いろんなメリットが生まれると思うんですよ。コミュニケーションのなかで、自然な間合いでしゃべったり、「こういうトーンでしゃべりかけられたら、この人物だったらこう返すよね」って、自分がイメージするそのままで返せるので。そこは良い点かなと思うんですけど…。
別録り(※出演声優が揃って収録するのではなく、ひとりずつ個別に収録するスタイル)だったそうで。
そうなんです。プレスコでしたが、誰かと掛け合ったわけではないので……ほかのキャラとの会話を全部、自分の頭のなかで想像するしかないんですね。だから、「自分のパートは自由にできる」という半面、「ほかの人のお芝居と合うんだろうか?」っていう不安は必ずついてまわりますよね。そこはもう、監督を信頼してやるしかないんですが。
先に収録が終わっているキャラクターの声を聞いたりすることもなく…?
今回はなかったです。
そういう場合に、どうやったら声をパッと発することができるんだろう? って……いつも不思議なんですよね。
不思議ですよね?(笑)
はい(笑)。役にパッと入れるものなのでしょうか?
うーん……入るというか、もうそこは全部、想像ですよね。頭のなかで想像して、「僕が想像したのはこうなんですけど、どうでしょう?」って提示する感じですかね。それでOKが出たら、「あ、これでいいんだ」って思うしかないというか。
台本でほかのキャラクターのセリフも全部読んで、情景を思い浮かべながらお芝居を作っていく感じですか?
そうですね。今回みたいに最初に台本を丸ごといただいた場合は、当然、全部流れに沿って読んでいって「こういう状況なんだろうな」と、自分で想像できるところは想像するんですけど……今回の場合は、想像を絶するところもいっぱいありましたね(笑)。
今作でのアクアマンは、吉田ジャスティス・リーグのことを「俺はこんな連中、信用しない」と言っていなくなったりしますが、中井さんは今回のアクアマンについて、どのように感じられましたか?
作品を通して見ると、「終始、乗せられない人なんだな」という印象です。ほかのスーパーヒーローたちも、おかしなことが起こればツッコんでいるんですけど、そこにはどこか楽しさというか……まあ、楽しくはないんだろうけど(笑)、『鷹の爪』の世界の住人だなって感じるんですよね。でも、アクアマンに関しては「もう、絶対に染まるもんか!」って思っているところが若干あるような気がしますね(笑)。
本作にはいろんなキャラクターが出てきますが、アクアマンのほかに気になる人はいましたか?
文春(ふみはる)と会話できたのは、ちょっと嬉しかったですね(笑)。
『鷹の爪』と『週刊文春』(文藝春秋)のコラボマスコットキャラクターですね(笑)。アクアマンと文春との会話も見どころということで…。そのほかにアクアマンの見どころを挙げるとするならばどこでしょうか?
アクアマンが再登場するシーンですね。収録中に、監督から「ここはすごい絵がカッコよくなりますから!」って言われたので、「カッコよくなるのか」と思ってお芝居したんです。そうしたら、「いや、もっとカッコよくなりますから!」って(笑)……リテイクというか、「もっと渋く」って、やり直した気がします。
海から出てくるところですね。カッコいい絵に乗せて、中井さんがすごく素敵な声でお芝居されているのに、中井さんの声にスポンサー企業の社長さんの声が被って…。
ははは! そうそう! 面白いですよね(笑)。
カッコいい、キメのセリフがちゃんと聞こえないっていう……「鷹の爪ってこうだよなあ」って思いました(笑)。
僕もあのシーンを見て、「なるほど、だから録り直しのディレクションがあったんだ!」って思いましたね。それぐらい、すごくカッコいい絵で……僕も一生懸命、渋い感じで「逃すか!」って言ってるんですけど、そこに「ゴゴゴゴゴ」って(笑)。
スポンサー企業の社長さんが、効果音を声で発するっていう…。
スゴいなって思いました(笑)。
見ていてガクー! ってなりました(笑)。
ははは! そうなんですよ。それに対して、「何やってんだ!」って、悪く言えないところも面白いですよね(笑)。「企業さん、ありがとうございます!」って感じで。
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