ビットコインは単なる投機か、それとも既存の金融秩序を破壊する革命なのか(写真:Getty Images/Thomas Trutschel)

国や中央銀行の管理下にない仮想通貨「ビットコイン」。2017年に入り、その価格が急上昇したことで、注目を集めている。

仮想通貨とはインターネット上でやり取りできる、通貨の機能を持った電子データだ。代表格であるビットコインはこの1年で10倍に上昇。10月に入ると1ビットコインが日本円で一時70万円台に達し、過去最高値を更新した。『週刊東洋経済』は10月30日発売号(11月4日号)で「ゼロから分かるビットコイン」を特集。その最前線を追っている。

「トークン」を発行し「ビットコイン」など受け取る

ビットコイン市場の広がりは、企業の資金調達の世界にも及びつつあり、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)という手法が注目を集めている。これは、あるプロジェクトを実現するために、そのサービス内で何らかの形で使用することができる「トークン」と呼ばれる電子資産を提供し、対価としてユーザーからビットコインやイーサリアムといった仮想通貨を受け取る仕組みだ。


株式による資金調達と異なり、短期間、低コストかつグローバルに行えることが魅力だといえる。形としては購入型クラウドファンディングと同様だが、将来的にそのトークンが仮想通貨取引所に上場すると、流動性を得て価格がつくようになる可能性があることが特徴的だ。

一方で、ICOには法規制がない状態で、資金だけ集めて肝心のプロジェクトの見通しが立たないような詐欺的なICOが世界で横行。資金を投じる側も投機的な思惑が大きかった。今年9月に中国はICOの全面禁止を決めた。

そうした中、日本でこのICOを自力で敢行したベンチャー企業がある。その名前はALIS(アリス)。CEO(最高経営責任者)はリクルートキャリア出身の安昌浩氏で、同じくリクルート出身の水澤貴氏とフリーエンジニアの石井壮太氏が中心になって起業した。安氏は「日本におけるICOの先駆者として道を示したかった」と話す。

アリスはデータをチェーンのようにつなげて、誰もが閲覧でき、お互いに監視するネットワークである「ブロックチェーン」の技術を使い、ユーザー同士で直接課金できるメディアプラットフォームの構築を目指している。良質な記事を書いた人と、その記事をいち早く見つけて評価した人に対してトークンが分配される仕組みで、広告モデルには依存しない。

ただ、実際のプロダクトはまだ開発中で、2018年4月にテスト版を出す予定。それでも、ICOの準備からわずか3カ月強で日本円にして約4.3億円を集めた。


事業計画だけを示し、プロダクトが存在しない状態で資金を募るICOは、運営者がユーザーにどれだけ信頼されるかに懸かっている。そこでアリスが行ったのはあらゆる情報の公開だった。

アリスはトークン発行にあたり、経営メンバーへの報酬の配分比率をはじめ、「Trello(トレロ)」と呼ばれるプロジェクト管理ツールの内容など開発過程における社内でのやりとりもすべて公開した。ある金融系ベンチャーの関係者は、「投資家にとって本当に意味のある情報を公開できているかは疑問」と指摘するが、通常ならば社外秘の情報をオープンにしたことは確かだ。

投資家と運営側でコミュニティを形成

また、ICOの特徴は、投資家と運営側でコミュニティが形成されることにもある。メンバーとなった投資家は、プロダクトに役立つ意見を出したり、有力な人材を紹介したりすることはもちろん、情報発信の提案や、「エンジニアであれば、コードを修正してくれることもある」(石井氏)という。通常、情報収集やマーケティング活動などは企業がコストをかけて行うが、ICOのプロセスでは参加した投資家たちが「自分ごと」としてそこに積極的に関わるようになる。

安氏は「ICOのメリットは、投資家がサービスのファンになること。企業がユーザーのニーズを直接とらえ、ユーザーと一緒にプロダクトを作ることができる。これはビジネスの本来の姿だと思う。資金調達だけでなく、事業開発自体が民主化する時代がようやく来たと感じる」と語る。

グローバルで仮想通貨による資金を調達する道のりは未知の世界だった。特に困難を極めたのが、24時間出没し続ける詐欺グループ対策だ。アリスはユーザーとのコミュニケーションにビジネスチャットツール「SLACK(スラック)」を使用している。

その中で運営者のフリをして、ニセの情報を流す悪質なアカウントが現れることがあった。そのため、安氏ら3人は、24時間体制で交代して監視に当たり、詐欺アカウントが現れるたびに警告を出し続けた。

ICOの市場は、株式市場のようにルールが整備されているわけではない。それゆえ、投資家は自己責任であることが原則だ。しかし、事業者としてそれで済ませるのか、積極的に健全化を実現するために動くのかは、価値観によって分かれている。

水澤氏は、「ICOをする側は、詐欺行為を排除する責任を投資家に負っているわけではない。逆に言うと、自主規制に全てが委ねられている。日本で大型のICOを先陣切ってやる以上、1つも詐欺被害を出したくないと考えていた。自己責任で終わりにしたら、この分野もニッチなままで終わる」と危機感を示す。

トークンの上場はオンラインのやり取りだけで完結

ICOが終了した後、アリスのトークンはCoinExchangeとCryptopiaという2つの海外取引所に上場し、流動性を得る形になった。「15の取引所にアプローチしたが、返信がないところもあった。トークンの流動性は、投資家を安心させるためにも重要」(安氏)。株式は取引所に上場するまでに長い道のりがあるが、ICOの場合はまったく異なる。トークンの上場は、取引所とのオンラインのやり取りだけで完結するというのだ。

上場にあたり取引所から求められる情報は、経営者のプロフィールやソーシャルアカウントの状況、ソフト開発に使う「GitHub(ギットハブ)」のURLなど、ごく基本的なものが中心。大手の取引所でなければ、プロダクトの中身やビジネスモデル、将来の見通しについては問われない傾向にある。取引所に支払う費用として、CoinExchangeは日本円で約50万円、Cryptopiaは約250万円が必要になったという。

CTOの石井氏は「(事業内容や資金使途を記載した)ホワイトペーパーを見れば、上場させてはならない詐欺的なICOかどうかは理解できるはず」と話す。ただ、やはりサービスが動いてもいない段階で流動性を持つということは、革新的ではあるが違和感を感じる面もある。

トークンにおける「上場」という言葉は、株式と比較するとまだあまりにも軽いというのが現実だ。投資対象の判断とする基礎となる実態がないため、やはり、購入する場合はそのサービスを純粋に応援し、自分が参加していく気持ちを基本にするべきだろう。

アリスとしては、今回調達した潤沢な資金を活用し、2018年4月に向けて計画通りサービスを立ち上げることが、今後の最重要課題になる。水澤氏は、「自分たちがやってきたことは永久に残り続けるから、プレッシャーは本当に大きい」と話す。投資のプロであるベンチャーキャピタルならば、出資先の事業が失敗しても、「投資した自分たちが悪い」と納得するだろう。だがICOでは状況が違う。

資金を提供しているのは、会社の理念に共感し、プロダクトが発展するという期待を持った一般のユーザーだ。彼らは、高いリテラシーがあるわけではないし、議決権など株主が持つ権利も持たない。それゆえ、運営側は誠実に考えれば考えるほど、事業を成功させてユーザーとの「信頼関係」を維持し、発展させていく責務があるわけだ。アリスは、2018年4月に向けて、プロダクトの開発に着手済みで、採用も進め始めているという。

金融庁はICOに注意喚起促す

金融庁もICOには注目しており、10月27日に利用者及び事業者に対して注意喚起を出した。特に利用者に対しては、「ホワイトペーパーに掲げたプロジェクトが実施されなかったり、約束されていた商品やサービスが実際には提供されないリスクがあります。また、ICOに便乗した詐欺の事例も報道されています」と踏み込んだ表現を使っている。

今のICOは、情報の非対称性が大きく、事業者が資金を提供してくれたユーザーに対して、どこまで誠実に考えるかが拠り所になっている面が大きい。安氏は「ICOによって資金調達したプロジェクトを成功させるには、誰もが欲しがる魅力的なトークンを設計し、それがビジネス自体を成長させていくような仕組みを作ることが重要。私たちが今回得た知見は、どんどんオープンにして、後続に伝えていきたい」と話す。

日本発のICOはさらなる広がりをみせるのか。その行方は、先陣を切ったアリスの事業の成否も大きなポイントになる。

週刊東洋経済10月30日発売号(11月4日号)の特集は「ゼロから分かるビットコイン」です。