【元川悦子の日本代表にこの選手を呼べ!】37歳を目前にして衰えを知らない戦術眼に長けた司令塔・中村憲剛

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▽2018年ロシアワールドカップ出場が決定し、10月のニュージーランド(6日=豊田)・ハイチ(10日=横浜)2連戦から本番への本格的サバイバルに突入した日本代表。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「私の代表候補は約50人いる。彼らのことはつねに追跡している」と語り、新たに左利きのサイドバック・車屋紳太郎(川崎)を抜擢した。が、目新しいのは彼くらい。8カ月後の大舞台に向けて、基本的にはこれまで呼んだことのある選手を試していく思惑のようだ。

▽そんな状況であるがゆえに、ハリル体制になってから一度も招集されたことのない選手が本大会メンバーに滑り込む可能性は極めて低い。しかしながら、2010年南アフリカ大会に川口能活(相模原)、2014年ブラジル大会に大久保嘉人(FC東京)がサプライズ選出された過去があった通り、信頼できるベテランに白羽の矢が立つことはなきにしもあらずなのだ。

▽ロシアでその候補者になり得る人材がいるとしたら、やはり中村憲剛(川崎F)しかいない。今月31日に37歳の誕生日を迎える大ベテランだが、ピッチ上のパフォーマンスは以前にも増して光り輝いている。9月30日のセレッソ大阪との上位対決でも、日本代表MF山口蛍(C大阪)が守る中盤をいとも簡単に攻略するキラーパスを連発し、小林悠や家長昭博らに再三、決定機をお膳立てしていた。中村憲剛をフリーにしたらやられると分かっているから、山口やボランチコンビを組んだ秋山大地が寄せていくのだが、ギリギリまで間合いを図りながら裏を突くボールを出されてしまうから対処のしようがない。セレッソが5失点大敗を喫した一因がベテラン司令塔の鋭い戦術眼にあったのは間違いない。

▽今季開幕から好調を維持している彼に一度、「代表復帰はどうか」と水を向けたことがあった。が、本人は「ないないない。絶対ない。俺を欲する代表じゃない。だって(中盤の)タイプを見れば分かるじゃん。(3月のタイ戦=埼玉で)高徳(酒井=HSV)と蛍を並べる代表だから。これは書けないね」と冗談交じりに言う。メディア側の提言はアッサリと一蹴されてしまった。

▽確かに中村憲剛の言うように、ハリル監督はデュエルに強いタイプの中盤を好み、パッサーやゲームメーカータイプを重用したがらない。それで最終予選は乗り切ることができたからよかったが、本大会は果たしてどうか…。もちろんアラフォーの選手を頭からフルには使えないだろうが、拮抗した局面、あるいはリードを許していて1点がほしい時、1本のパスやFKで流れを変えられる人間がいれば重宝する。そんな人材がベンチに控えていれば、チームにとってこれ以上、心強いことはないはずだ。

▽加えて、人間性に優れ、人望の厚い彼であれば、ベテランだからと言って扱いづらい存在には決してならない。南アでも初戦・カメルーン戦(ブルームフォンテーヌ)で決勝弾を決めた本田圭佑(パチューカ)がベンチに戻って歓喜を分かち合ったのも、中村憲剛が「点を取ったら来いよ」と事前に声をかけていたからだ。本田は一瞬、忘れそうになったというが、その約束をキッチリ果たして、全員の結束と団結を高めた。

▽自らは出場機会を多くは得られなかったのに、フォア・ザ・チーム精神に徹することができるベテラン選手はそう多くない。どこかでエゴや自己主張を出してしまいがちだが、間もなく37歳になる屈指の司令塔はサッカー界でも傑出した人格者。こういう人物こそ、真の代表に相応しい。

▽彼が最後に日の丸を背負ったのは、2013年6月のコンフェデレーションズカップ(ブラジル)だった。1次リーグ最終戦のメキシコ戦(ベロオリゾンテ)が終わった後、「本番は連戦だし、バックアップの力も必要になる。前回大会(南ア)も途中から出ましたけど、サブの選手たちはホントにすごく大変だった。それでも必死に準備してた。みんなで貪欲に上を目指していけば、もっと上に行ける。俺も負けないようにしたい」と中村憲剛は静かに秘めた闘志を口にしていた。

▽あれから4年以上の月日が経過し、本人は「もう代表は区切りをつけた」と話すものの、その思いはきっと心のどこかにあるはず。そういう選手の悔しさや不完全燃焼感の上に、今の日本代表が成り立っている。その重い事実を次世代のたちに再認識してもらうためにも、彼にはもう一度、日の丸を背負うチャンスを与えてほしいのだ。

▽南アから不動のキャプテンを務めている長谷部誠(フランクフルト)のひざの状態が不安視され、本田のコンディション不良もロシアまでに改善できるか分からない。統率力のある30代のフィールドプレーヤーがワールドカップに参戦できる保証がないだけに、中村憲剛の存在価値はなおさら大きくなってくる。

▽11月のブラジル(リール)・ベルギー(会場未定)2連戦でのテストは難しいかもしれないが、12月の東アジアカップでは是が非でも招集に踏み切ってほしい。ハリル監督がそういう大胆な決断を下せば、川崎のみならず、日本中のサッカーファンが納得するに違いない。とにかく37歳の大ベテランには今季ラストまで調子を落とすことなく、高いレベルを走り続けてもらいたい。【元川悦子】長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。