Okada Takuro、吉田ヨウヘイgroup、Yunomi…日本インディーシーンの充実を示す6枚

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 今回のキュレーション原稿は日本のインディーシーンの充実を示す新作をセレクト。いわゆるJ-POPの王道とも、フェスとライブハウスを中心にしたバンドシーンの潮流とも離れたところで、実力ある作り手がきちんと存在感を示しているように思う。

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■Okada Takuro 『ノスタルジア』

 元・森は生きているの中心人物、岡田拓郎がリリースした初のソロアルバム。マスタリングにはBon Iverを手掛けたグレッグ・カルビ。マネジメントはGotch主宰のonly in dreams、レーベルは欧米の人気インディレーベルの作品をリリースしているHOSTESSという体制でリリースされた一枚だ。先行シングルの「硝子瓶のアイロニー」を一聴した瞬間、唸ってしまった。

 最初にTwitterで書いた「ブルックリンで蘇った大滝詠一のような感じ」という感想は我ながらバカみたいな言い方だったけど、アルバム全体にそういう過去と現在が手を取り合っているようなセンスがある。『ノスタルジア』というタイトルから想起されるように、基本的に彼の音楽家としての参照軸は過去にある。ニール・ヤングやThe Bandや、はっぴいえんどや、The Beach Boysや、さまざまな名盤の養分を吸っている。それは森は生きている時代から変わっていない。けれど、ソロになってより箱庭化するかと思いきや、逆に外側に向けて開けたような感じがある。フィル・スペクターなど60年代〜70年代のヴィンテージポップと、Bon Iver以降の10年代の音楽シーンを見据えて、きっちりとポップに仕上げた印象がある。

■吉田ヨウヘイgroup『ar』

 活動休止期間を経て、2017年1月より活動を再開した吉田ヨウヘイgroup。吉田ヨウヘイ(Vo, Gt, A.sax)、西田修大(Gt, Cho)、reddam(Vo, Key/元OK?NO!!)、クロ(Vo, Tp, Syn/TAMTAM)の新体制となった彼らによる2年半ぶり4枚目となるアルバムが本作。

 筆者が彼らを初めて観たのは2014年4月のこと。青山・月見ル君想フで行われたイベントには、彼らの他にも、森は生きている、ROTH BART BARONが出演していた。その当時、居合わせたライターの金子厚武さんらと「この先の東京インディーシーンは間違いなく面白くなる」と語り合ったのを覚えている。そこから3年。先述のOkada Takuro 『ノスタルジア』に吉田ヨウヘイgroupの西田修大、ROTH BART BARONの三船雅也が参加しているのも象徴的だが、それぞれ歩みを進めていて感慨深い。

 新作は、彼ら持ち前の管楽器を含めた濃密なバンドアンサンブルが詰まった一枚。変拍子による複雑でトリッキーなアレンジを人懐っこいメロディが縫う「メビウス」やミニマルっぽいテイストもある「サースティ」など、難解さと親密さが溶け合っている。reddamとクロの伸びやかな歌声を活かした男女のハーモニーも新たな魅力になっている。

■JYOCHO『碧い家で僕ら暮らす』

 元宇宙コンビニの中川大二朗によるプロジェクト。メンバーに猫田ねたこ(Vo)、hatch(Dr/元 DUG OUT)、シンディ(Ba/空きっ腹に酒、LOW-PASS)、はち(Fl/JWE)を迎えた編成で作った2ndミニアルバムが本作。

 ポストロックやマスロックを経由した技巧的なアンサンブルと、それを難解に感じさせないメロディを併せ持つ、いわばプログレッシブポップとも言うべき方向性になっている。タイトル曲とも言える「碧い家」はかなり変則的な曲調。リード曲になっている「グラスの底は、夜」も、リフレインするフルートのフレーズが耳に残るスリリングな一曲になっている。

 吉田ヨウヘイgroupのクロにしてもそうだけれど、こういったタイプの曲には瑞々しい女性ボーカルがすごく映える。猫田ねたこの起用はとても効果的だと思う。

■Emerald『Pavlov City』

 2014年にリリースした1stアルバム『Nostalgical Parade』以来、3年ぶりのフルアルバム。ネオソウルやジャズを吸収して日本語の叙情やロマンと共に鳴らす彼らの音楽を聴いていると、どこかフィッシュマンズが90年代にやろうとしていたことのアップデートを感じる。そして、ディアンジェロやジャネール・モネイなどのネオソウルやフューチャーソウル、ロバート・グラスパーやホセ・ジェイムスを筆頭とする新しい時代のジャズの担い手がその刺激になっているのを感じる。おそらく2010年代の日本のインディーポップを振り返った時に最重要とされるだろう作品はcero『Obscure Ride』で、きっと彼らも大きな刺激を受けただろうと思う。

 もともとは2011年、楽器陣4人が組んでいたバンドに元PaperBagLunchboxの中野陽介(Vo)が参加する形で結成された彼ら。「コンテンポラリーなブラックミュージックを吸収して〜」みたいなタイプのバンドは他にもいるけれど、彼らの場合は、中野陽介の描く歌詞の詩情とハイトーンのボーカルが持つ陶酔感が武器になっているように思う。「step out」のMVも素敵。

■入江陽「Fish」

 昨年に自ら主宰する出版社レーベル<MARUTENN BOOKS>を立ち上げたシンガーソングライター、入江陽による4枚目のアルバム。かつて「ネオソウル歌謡シンガー」と名乗っていた彼だけれど、そこから新たな方向性に踏み出したような一枚になっている。たとえばTeppei Kakudaがトラックメイキングを担当した「教えて」はベースミュージックを取り入れたドープなサウンド。

 ソウルやR&Bに加えて「心のミカン」などエレクトロニカの方向性を取り入れつつ、全体的に白昼夢的な幻想性を醸し出すアルバム。佐藤伸治を彷彿とさせる入江陽の歌い方も含めて、彼にもフィッシュマンズが90年代にやっていたことを2010年代にアップデートしようとしているような意志を感じる。

■Yunomi『ゆのもきゅ』

 東京を拠点に活動するトラックメイカー/プロデューサーのYunomiがリリースした初のフルアルバム。全曲nicamoqをボーカルにフィーチャーし、チャイルディッシュな女性ボーカルとボトムの太いエレクトロポップが収録されている。特に「インドア系ならトラックメイカー」がいい。ベースミュージックのサウンドや音色を踏襲しつつ、00年代以降のアニソンや電波系の系譜にもつながる「Kawaii Future Bass」のスタイル。脱力したフレーズには一度聴くと耳から離れなくなる中毒性がある。「ロボティックガール」のMVを見ると、増田セバスチャンやファンタジスタ歌麿呂が開拓してきた2010年代のカラフルなジャパニーズ・ポップカルチャーのアートセンスを受け継ぐようなセンスも感じる。

 アルバムはYunomiが女性トラックメイカー/シンガーのYUC’eと共に立ち上げたレーベル<未来茶レコード>からの1枚。同時にリリースされたYUC’e『Future Cake』もいい。(柴 那典)