ガンバの指導としては、止める、蹴るというボールを扱う上で一番大事になる部分を追求するこだわりがありました。ほかにもいろいろコンセプトはあったと思います。でも、自分の中で大きく残っているのはこの一点に尽きます。
 
 コーチからは何回も、良いところにボールを止められなければ良いキック、良いパス、シュート、そして周りを見渡す視野の確保はできないと言われていました。キックの質についても言われていましたが、まず思うところにボールが止められるか、そして止まったボールを思い通りのところに蹴れるか。これこそが大事だと、いまプロとして戦っていても感じます。
 
 よく数メートル、数センチの差で触れる、届く、届かないなどと言われますが、質の高いボールを蹴れたり、思い通りのところに止められるのであれば、そのプロの厳しい環境下でも落ち着いて良いプレーができると僕は思います。
 
 練習内容としても、ポストプレーからのシュート練習やミニゲーム、半面を使ったゲーム、全面を使ったゲームなどですから、なにか変わった特別な練習メニューやっていたわけではありません。簡単に言うと、「シンプルなトレーニングでいかに集中して、質を高めて行なうか」。そこに特化した練習だったと思います。
 
 なかでも一番時間を割いていたのは、3対1、4対2、6対3などのボールキープ、「鳥かご」と言われるボール回しでした。練習が始まる前に集合した選手から次から次へとグループをなしていき、ボール回しがスタートします。練習前のアップのようにしていましたが、気づけば練習時間まで割り込み、1時間近く続けることもありました。
 
 そのせいか、ユース出身者はボール回しが好きな選手が多くいます。なぜボール回しにこれほどの時間を割いていたのか。ここには明確な判断が含まれます。
 
 ポイントは3つあります。
 
 まずは1点目。鬼になっている選手よりボールを回している選手のほうが多いので、かならずパスコースができます。そのコースをしっかり見つけられるか。
 
 2点目は、狭い局面でも止める、蹴るの質を高め、良い身体の向き、ポジションを取らなければボールがちゃんと回らないため、キックの質、トラップの質の向上に繋がります。
 
 3点目。ひとりで守備をする場合、いかにして相手のボール回しを誘導して取れるようにしていくか。ふたり、3人の場合は、ファーストアタック、セカンドアタックの連携を取ったボール奪取ができるかなど、局面でのボールカットの能力向上に直結します。
 
 ドリブルの選択肢がないトレーニングなので、それは短所かもしれません。でも伝統的にガンバの下部組織が良いパス回しをできているのは、このあたりが影響しているように思います。
 
 止(や)めれる選手は良い選手。指導を受けていた頃、こんな言葉をかけられたのが印象的でした。
 
 ボールをしっかり思い通りのところに止めて、次の選択肢が多数あるなかでも、相手選手に読まれたり、選択が間違いだと気付く時があります。そこで、蹴ろうとしていたプレー判断、ドリブルを仕掛けようとする判断を瞬時に変更して、違う選択を行なえるか。この言葉には、深い意味があります。これに気づける選手が、ガンバの育成選手には多いと思います。
 
 最近はどのクラブでも、すべての年代で一貫した教育を施すのが当たり前になってきましたが、ガンバはその点において、どこよりも早い段階から確固たるスタイルを築いていたように感じます。
 
 そのスタイルはトップチームの監督が代わっても変化しません。育成年代でスカウトする際の基準も明確になっていると思います。