国民の医療費負担は限界に来ているが、医者も製薬会社も報酬の引き下げには抵抗する(写真:East & West / PIXTA)

衆議院議員総選挙も終わり、2018年度予算編成に向けた議論が加速し始めた。来年度予算の最大の焦点の1つは、「診療報酬」「介護報酬」の同時改定だ。つまり来年以降の「医療給付」と「介護給付」をどのように出すかを決める。

給付を増やせば、より充実した医療や介護ができる。しかし、財源がなければ、給付はできない。1〜3割の自己負担が医療や介護にもあるから、給付が増えると、相似拡大的に自己負担も増えることになり、患者や利用者の財布を直撃する。さらに、給付財源の半分は保険料で負担することになっているから、給付が増えると、保険料負担も増えることになる。保険料は、病院や介護施設に行かない人にも負担を求めるから、保険料が増えると、元気な人でも負担増となる。

最も大事なポイントは、給付と負担のバランスをどうとるかだ。負担には限界があるから、給付を抑制せざるをえない。この観点は、高齢化が進んで医療や介護の給付が年を追うごとに増大する今日、ますます重要となっている。

所得の伸び以上に医療給付が増えるとどうなるか


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10月25日開催の財政制度等審議会で出された資料では、最近3年間で雇用者報酬(働いている者が受け取る給与等の総額)が年率1.3%増加しているから、その範囲で給付が増えるなら保険料率は上げずに済むが、それを超えた率で給付を増やせば保険料率を上げざるをえない、ということが明確に示されている。

被用者の保険料は、所得に比例して徴収されているから、給料が増えるのと同程度に、社会保障の給付が増える分には、負担率(保険料なら保険料率)は変わらない。が、それを超えた率で給付が増えれば、保険財政上、保険料率を上げて対応することになる。

事実、医療保険ではこのところ、雇用者報酬の増加率を上回る率で給付が増えているため、保険料率は上昇の一途である(介護保険・介護報酬については別の機会に譲りたい)。医療費総額の伸びを、最近3年間でみると、年率2.6%となっている。この伸びには、高齢化による影響もあるし(75歳以上の高齢者は若者より1人当たり医療費が高い)、2年に1度の診療報酬改定による影響もある。最近3年間の趨勢でみたとして、医療で保険料率を上げないようにするには、医療費総額の伸びを年率1.3%以下にしなければならない。

単純にいえば、医療費が年率2.6%で伸びているのを年率1.3%の伸びに抑えるには、年率1.3%分の抑制をかけなければならない。診療報酬改定が2年に1度であることを考えると(2018年度に改定されるとその単価は2019年度も据え置かれる)、1.3%×2年分で、改定1回当たり、2%台半ば以上の診療報酬総額の引き下げが必要だ。そうしないと、被用者の保険料率は引き上げられ、負担増となる。

この主張に対して、日本医師会は10月25日の定例記者会見で早くも反論し、診療報酬のプラス改定を主張している。

財務省は診療報酬のマイナス改定を主張する反面、日本医師会や医療関係諸団体はプラス改定を要望しており、両者の隔たりは大きい。とはいえ、今年末までには、診療報酬の大枠を決めなければならないから、残された時間は少ない。どう決着をつけるのか。

何かと注目されるのは、総額としての診療報酬がプラス改定になるのかマイナス改定になるのか、だ。ただしそれは、結果的な仕上がりの姿であって、内容を具体的に見る必要がある。診療報酬は「薬価等」と「診療報酬本体」に分解できる。診療報酬本体とは技術料であり、医師や看護師など医療従事者の人件費や医療機関の経費に相当する。薬価等と診療報酬本体の足し算として、総額としての診療報酬の姿が決まる。これを2018年度政府予算案を取りまとめる今年末までに決めなければならない。

薬価下げて技術料は上げ、両者のメンツを保った

このところ医薬品の単価は、1度使われ始めると下がる傾向にあるから、「薬価等」はほぼ確実に引き下げることとなる。もちろん、高額な単価の新薬が出るという要因はあるが、ここでの薬価は使われ始めた医薬品のものである。薬価等で報酬を引き下げられれば、診療報酬総額もマイナス改定にすることが可能となる。

他方、「診療報酬本体」(技術料)でどうなるか。診療報酬本体は、日本医師会をはじめとする医療関係者が最も関心を寄せるところで、これがプラス改定にならないと、彼らの面目が保てない。これまで診療報酬改定をめぐり、医療関係者は、薬価等で引き下げれば、その分、診療報酬本体を引き上げられる余地(財源)が出るから、その余地をできるだけ多く使って診療報酬本体を上げてほしい、と要望してきた。

が、財務省は、薬価等の削減分は診療報酬本体と関係ないものだから、薬価等で”はがして”診療報酬本体で”つける”やり方は認めない、と対抗してきた。こうした膠着状態から、薬価等を下げて診療報酬本体を上げ、総額としての診療報酬でみればマイナス改定、というところで落としどころを見つけてきたのである。そうすれば医療関係者も財務省も両者顔が立つからだ。

現に前回2016年の改定では、薬価等では改定率にしてマイナス1.33%、診療報酬本体では改定率にしてプラス0.49%で、両者を合わせてマイナス0.84%となった。

もっとも、薬価等を大きく引き下げれば、今度は製薬会社や薬局の猛反発を招く。特に、日本で新薬開発に熱心な製薬会社からは、薬価を大きく引き下げれば新薬の開発が滞り、安倍晋三内閣の成長戦略にも支障を来す、と圧力がかかっている。

とはいえ、雇用者報酬の伸び以上に、総額としての診療報酬が伸びると、被用者の医療保険の保険料率を引き上げざるをえなくなる。この保険料負担は、本人負担分だけでなく、雇い主である企業側も、事業主負担分として増えることになる。企業にとっては人件費の増加圧力だ。だから経済界は、医療保険料の負担増には反対しており、診療報酬の引き下げを主張している。

2018年の診療報酬改定について、今年ならではの案件があるとすると、それは「薬価制度の抜本改革」である。つまり、安倍内閣として取り組むことにした薬価制度の抜本改革で、薬価等の引き下げにつながる取り組みがあれば、それを今回の診療報酬改定に生かそうというのだ。

その1つとして、新薬の開発を支援するためとして設けられた、「新薬創出加算」という診療報酬の制度が焦点となっている。新薬創出加算とは、革新的な新薬の創出などを目的に、後発品(ジェネリック)のない新薬に薬価の加算を認めて、実質的に薬価が下がらないようにする仕組みだ。

これによって製薬会社は、趨勢的に下がるはずの薬価を維持でき、収益を確保できる。ただその新薬創出加算は、真に革新的な新薬かを厳密に精査せず、大半の新薬に認められているため、単純計算すると、直近で年約2500億円の加算が認められたのと同然の効果となっているという。ちなみに診療報酬総額の1%分とは4500億円である。

財務省は、この加算に対するゼロベースの見直しと、費用対効果についての評価を提案している。わが国として、革新的な新薬の創出は望むところだから、画期性や有用性をエビデンス(科学的根拠)に基づいて評価し、認められたものだけに薬価で優遇するという方向性だ。画期的でもなく、有用でもない”新薬”にまで、加算を認める必要はない。

薬価引き下げがないと保険料率は上がりかねない

薬価等をかなり引き下げられれば、診療報酬総額を大きくマイナス改定にできる可能性はある。薬価等で1%程度の引き下げしかできなければ、診療報酬本体でも1%程度の引き下げをしないと、総額としての診療報酬の2%半ばの引き下げはできない。よって被用者の保険料率も上がりかねない。

もちろん医療の今後を考えれば、今回の診療報酬改定では、医療機能の分化・連携の強化、地域包括ケアシステムの構築推進、患者への価値中心の安心・安全で質の高い医療実現をはじめ、細かな医療の検討項目を深く議論することは重要だ。それは総額としての診療報酬改定の議論と同時進行で、社会保障審議会医療保険部会や中央社会保険医療協議会(中医協)などで議論が進んでいる。

わが国の診療報酬改定のスケジュールとしては、来年度政府予算案の閣議決定までに医療費総額の改定率を年内に内閣が決め、総額の改定率が決まった後、年明けに細かな医療の各項目に対する診療報酬のメリハリづけを決める仕組みとなっている。ここはいったん立ち止まり、診療報酬のあり方について、本稿で述べたような議論も必要ではないか。

国民の医療費負担とのバランスを考えれば、給付抑制が「医療崩壊」につながるわけではない。年末に向け、診療報酬改定こそ、注視しなければならない。