自民党が圧勝しただけでなく、与党・公明党に希望の党、日本維新の会なども合わせると、改憲勢力は8割に達した(撮影:尾形文繁)

第48回衆議院選挙は野党の分裂騒ぎの末に、結局、自民党が284議席と単独で過半数を大きく超える圧勝、与党・公明党、憲法改正に前向きな希望の党、日本維新の会などを合わせると改憲勢力は8割に達した。また、自民党は消費増税を予定通りに2019年10月に行うとしているものの、教育無償化などに使途を変更、財政再建はいっそう遠のいた。幅広い知見と一貫した主張で定評のある、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、「あとで振り返ってみると今回の選挙が戦後日本の大きな転換点になったといえるのではないか」と語る。

――今回の衆議院選挙は与党、とりわけ自民党の圧勝に終わりました。このことは今後の日本経済にどのような影響を及ぼすと考えますか。

戦後日本の転換点となる選挙だった。改憲勢力が8割を占め、憲法改正に向けた大きな一歩となった。また、財政規律の緩みも決定的になった。自民党は消費増税をするが、借金を返さないまま使ってしまおうとの考えで、希望の党や立憲民主党は消費増税を凍結するということで、希望の党は財源のあてもなくベーシックインカムなどを提案している。与野党ともに財政規律に緩い考えを持っている。

財政規律が緩んできた原因の一つに、世代間対立があり、その背景には共通するプラットフォームの欠如があると考えている。

若い人からすると、親や祖父母の世代が景気刺激策の乱発や、社会保障制度の拡充で政府債務を勝手に積み上げた、自分たちの責任ではない政府の借金が国の年間のGDP(国内総生産)の2.5倍もあって、その返済を自分たちの世代に付け回しされるのはおかしい、という非常に合理的な判断があると思う。親の世代でなんとかできないのなら、デフォルトするならして、リセットしたところから出直したいという漠然とした意識があると思う。

だから、若い人たちは財政健全化というコンセプトからは距離を置きたがり、どちらかと言えばリフレ派的な発想になる。成長で吸収できないかとか、インフレで散らせないかという安易な発想に傾きやすくなる。

共通の情報源、共通の価値観がなくなった

共通プラットフォームの問題とは、新聞やテレビの影響力が落ち、NHKの7時のニュースのようなかつては誰もがみていたような共通の情報源がなくなっていることだ。SNS経由で情報を入手すると、短い、つまみ食い的な情報しか入らず、解説もない。財政健全化をしないといけないという共通の価値観が形成されないような情報の取り方に変わってきている。特定のバイアスかかったニュースソースの意見に流されやすくなるし、極端な議論にも流されやすくなる。

アメリカの場合は、共和党という財政規律がしっかりした政党が2大政党の中にある。日本にはそういう政党が見当たらず、どの党の公約もある意味ポピュリズム的に財政規律が緩い方向に流れてしまっている。

有権者の間でも財政規律の意識は緩くなっている。ある世論調査を見ると、消費税の使途拡大に賛成が59%、反対は31%と賛成が上回っている。国民の危機意識も薄れてしまっており、今回の選挙で財政健全化の必要性というコンセプト自体が危うくなってしまった。


上野泰也(うえの やすなり)/みずほ証券チーフマーケットエコノミスト。1985年上智大学卒。86年会計検査院に入庁。88年富士銀行(現・みずほ銀行)に転じ為替ディーラーを経て90年からエコノミスト。2000年10月から現職。著作多数。機関投資家の評価も高く、また、具体的な事象を挙げて経済をわかりやすく解説することで定評がある(撮影:尾形文繁)

――景気が緩やかに拡大して、市場の安定していることも危機感が薄れている一因でしょうか。

本来は、悪い金利上昇によって財政運営に警告が発せられるはずだが、今の日本では、債券市場の機能が日本銀行のオペレーションによって完全に麻痺してしまっている。イールドカーブコントロールで短期金利をマイナス0.1%に、長期金利をゼロ%近辺にピンで止めたようになっているからだ。

そこでカギとなるのは為替市場の動向だ。どこかで財政問題が円の信用問題に転じて、円を売る投機的な動きが加速すれば、悪い円安が起こり、インフレが進んで、日本がピンチになることが将来的には想定される。

ところがそうした動きはしばらく起こりそうにない。市場では中国という日本よりもっと大きいリスクファクターが意識されてしまっているからだ。

「中国やユーロ圏に比べて日本は安定」と見える

中国は構造不況業種を抱えており、産業の構造調整が必要だ。また、リーマンショック後の4兆元の景気対策で不動産バブルが崩壊して、地方政府に不良債権が溜まっている。現在は地方債の発行枠を拡大することで表面化しないようにしているが、どこかの時点で不良債権処理をしなければいけない。

人口動態でいうと一人っ子政策の影響で少子高齢化が急激に進むので、社会保障制度、年金や医療保険を整備しないといけない。ただ、これらを整備すれば、家計としては保険料を納入するため、可処分所得が減って個人消費が一段弱くなる。所得が減ると、厳しすぎる情報統制への不満が民主化要求や自由化要求に変わり、社会の不安定化につながる可能性もある。民族問題も火種になりかねない。

そんな中国に比べると日本は安定して見える。ユーロ圏もブレグジット(英国のEUからの離脱)やイタリア、フランスの政治問題で揺れていて、頼りない。そうであれば、「ドル」が不安定化した際の逃避通貨として、やはり「円」が適当だという話になる。この状況が続いているうちは、円という通貨が大きく揺さぶられることはなく、財政規律が緩んでも誰も問題視しないし、マーケット全体にも動揺が生じない。

――すでに2020年度プライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化の国際公約は反故にされ、財政再建は絶望的に見えます。

本気で財政再建をする気はないように思える。2017年のIMF(国際通貨基金)の推計で日本、米国、ユーロ圏の財政状況を比較すると、政府債務残高の対GDP比がいちばん低いのが87.4%のユーロ圏。次に108.1%のアメリカと続く。日本は240.3%と借金の額はあまりに大きい。

最近では、日銀が購入した長期国債については無利子永久国債に振り替えようという話を経済学者までが議論するようになった。究極の塩漬け構想だ。リフレ派からすれば、究極のマネー供給になる。

景気がピークをつける2019年は要注意

――今は、ゴールディロックス経済(適温経済)と言われる中で、まさにぬるま湯に浸かっているかのようです。リスクが意識されるポイントとしては、いつ頃になるのでしょうか

景気が次に転換点を迎える2019年だろう。2019年には、インフラ、宿泊、商業関連などのオリンピックに向けたインフラ整備が一巡する。さらに、2019年10月に10%への消費税率引き上げが予定されており、そのとおりに実行される場合は家計の可処分所得が減る。

最も重要なポイントはアメリカの金融政策の行方と為替相場だ。そもそも物価が弱いのに利上げはやるべきではないが、のりしろを作っておきたいということで、進めている。来年も3回の利上げを想定しているが、来年中には止まるだろう。2019年になれば金融政策は中立もしくは利下げを模索する方向に転じていくのではないか。

今は日銀が緩和、FRB(米国連邦準備制度理事会)が引き締め、という環境であるため、180度方向が違い、円安ドル高になりやすい。しかし、FRBの政策が中立もしくは利下げになれば、ドル安円高方向に動く可能性が高い。為替の面からも景気は2019年が山になるだろう。