【福田正博 フォーメーション進化論】

 東京五輪のサッカー男子日本代表監督に森保一(もりやす はじめ)氏が就任――。10月12日にその報せを聞いたときの第一印象は、「よくぞ決断してくれた」だった。


東京五輪に向け、U-23代表の指揮を執ることになった森保監督

 自国開催のオリンピックで代表を率いるプレッシャーの大きさは計り知れない。加えて、東京五輪を戦うメンバーには、今年のU-20W杯、U-17W杯を経験した選手が多くなることが予想されるため、当たり前のようにいい結果を残すことが求められる。それらを理解したうえで監督要請を引き受けるのは、相当な覚悟が必要だったはずだ。

 森保が過去のオリンピック代表監督と大きく異なるのは、J1リーグで3度も優勝している点にある。日本人監督でJ1を3度も制しているのは彼しかいない。しかも、2012年にサンフレッチェ広島の監督に就任してから、毎年のように主力選手を引き抜かれながら残してきた実績だけに、もっと評価されるべきだと私は考えている。

 監督就任6年目の今年は思うように勝ち点を伸ばせず、シーズン途中で退任することになった。それは残念な結果だったが、五輪代表監督として成果を出すことで、広島を率いた6シーズンの価値をさらに高めてもらいたい。

 彼のことは広島やベガルタ仙台などでプレーしていたときから知っているが、とても謙虚で誠実で真っ直ぐな男だった。プレーに妥協はないけれど、他者に対しては常にオープンマインドで親しみやすく、人間的な魅力に溢れていた。

 愛情深いが、サッカーに関してはきちんと一線が引けるのも強みだ。指導者としての彼には、選手たちの考えをよく聞く耳があり、やるべきことをしっかり整理して伝える言葉がある。だからこそ、広島の監督時代に若い選手たちを起用し、その能力を引き出すことで勝利を重ねることができたのだろう。

 ほかにも、トレーニングやモチベーション管理など、選手のマネジメント能力にも長(た)けている。Jリーグで若い選手の育成経験が豊富なことは、”東京五輪世代”を率いるうえで大きなメリットとなるに違いない。

 森保が年齢やキャリアに関係なく、すべての選手をリスペクトすることができるのは、彼自身が決してエリート選手ではなかったからだろう。1992年に日本代表に初招集されているが、これは1987年に入部した東洋工業(現マツダ)サッカー部の監督をしていたハンス・オフトが代表監督になったことで実現したもの。当初は、他の代表選手のほとんどが「森保」の読み方を知らないくらい無名な選手だったのだ。

 しかし、代表デビュー戦となったアルゼンチン戦で活躍し、当時はまだ日本に浸透していなかった”ボランチ”という言葉と共にその名は広まることになる。先入観に左右されずに選手の能力を見極めようとする姿勢は、この経験から培われたところが大きかったのではないかと思う。

「森保ジャパン」が本格的に始動するのは12月からだが、まず手をつけるのは、広島の監督になった際も真っ先に取り組んだ守備の整備だろう。彼は現状の戦力でいかに勝利に近づくかを模索するタイプのため、広島時代に多く採用していた「3-4-2-1」にこだわることなく、柔軟にシステムを構築していくはずだ。

 五輪代表に選ばれそうな選手でいうと、DF陣には中山雄太(柏レイソル)や板倉滉(川崎フロンターレ)、初瀬亮(ガンバ大阪)など、すでにJリーグで出場機会を得ている選手が多い。鹿島アントラーズのCB町田浩樹ら、今後の飛躍が期待できる素材も含め、監督として各クラブの選手の特徴を見てきた森保が、どういった守備陣を作っていくのか楽しみにしている。

 攻撃陣も、堂安律(FCフローニンゲン)や三好康児(川崎F)、久保建英(FC東京)などタレントが揃っているが、彼らが今後、海外クラブでプレーすることになったときに、どれだけの選手を招集できるかが課題となる。現在は堂安だけが海外組だが、2019年6月に18歳を迎え、国外移籍が可能になる久保は再び海を渡る可能性が高い。

 五輪代表にはA代表のような拘束力がないだけに、日本サッカー協会がどれだけ所属クラブと交渉できるかにかかっている。それによってチーム作りが変わるだけに、協会には最大限の努力をしてもらいたい。

 さらに、予選がないなかでのスケジュール管理や強化試合のレベルなど、チーム強化における協会の責任は大きい。とりわけ大きなポイントになるのは、来年のロシアW杯が終わった後にA代表の監督にどういった人物を選ぶかだ。

 東京五輪に向け、監督の森保や選手、スタッフは一丸となって戦っていくことになる。しかし、ハリルホジッチ監督の跡を継いだA代表の指揮官が、東京五輪で主力となりそうな選手を毎回のように招集するようだと、チームとしての強化が停滞してしまう恐れがある。

 もちろん、若い選手が上のカテゴリーで経験を積むこと自体は素晴らしいことだ。大事なのはそのバランス。五輪に向けた強化に理解があり、A代表を優先しすぎることのない人物を選出してもらいたい。

 また、オーバーエイジ枠をどうするのかという問題もある。「使う・使わない」の判断だけでなく、使うのであればどのタイミングから招集するのかも議論されるべきだ。これまでは本大会の開幕直前に合流していたが、今回は開催国で予選がないため、もっと早いタイミングから合流させてチームに溶け込む時間を作るのもいい。

 そうした判断を含め、森保新監督の手腕が存分に発揮されることを願いたい。それができれば、五輪代表監督への就任に際して本人が”使命”と語っていた「トップに食い込むこと」も現実味を帯びてくるだろう。

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