金正恩夫妻とモランボン楽団

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北朝鮮初のガールズグループであり、北朝鮮版AKB48とも言われるモランボン(牡丹峰)楽団。現在、勲功国家合唱団、ワンジェサン芸術団と地方巡業公演を行っている。

地方では滅多に見られないこともあって、盛況ぶりが伝わってくるが、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、公演チケットをめぐり地方当局によるダフ屋行為が横行しているという。

女子大生を拷問で

北朝鮮で歌って踊る女性といえば「喜び組」を連想する向きもいるだろう。

しかし本来、喜び組とは最高指導者の身辺補佐をする女性たちの総称だ。マッサージ、スポーツ、公演などの専門分野に別れており、さらに夜の特別な奉仕をするグループも存在するとまことしやかに伝えられている。

モランボン楽団は2012年、金正恩党委員長の肝いりで創設された。

今年10月の朝鮮労働党総会では、楽団長、いわば総監督で金正恩氏の「元カノ」との噂があった玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏が前代未聞のスピード出世を遂げた。

これだけ見てもモランボン楽団が金正恩氏の特別な寵愛を受けていることがわかる。

モランボン楽団自体も海外のエンタメを研究し、取り入れながら、北朝鮮国内ではすっかり飽きられてしまった独特のプロパガンダ芸術(海外にはファンが多いのだが)の枠を超えようとしている。こうした努力・研鑽が実を結んだのか、地方では大人気だ。

一方、この人気ぶりに目を付けた地方政府が、チケットを買い占め、高額で売りさばいているとRFAは伝える。さしずめ国営のダフ屋行為とも言うべきか。

新義州(シニジュ)在住のRFAの情報筋は、10月10日の朝鮮労働党創建日に、モランボン楽団、ワンジェサン芸術団、勲功国家合唱団の講演を見に行こうとした。元々は10日間で1日3回(15時、18時、21時)の予定だったが、3日間の追加公演まで行なうほどの人気だった。

1等席のチケットの公定価格は8000北朝鮮ウォン(約104円)。コメ1キロちょっと分のお手軽さだが、公定価格で買えた人は誰ひとりとしていなかったという。公演を主催する地方政府が、1等席のチケットを買い占め、100元から150元(約1710円〜2570円)で売りさばいたからだ。

15倍から22倍の高値で売りつけられた市民は「庶民のためのライブなのに、地方政府が外貨稼ぎに悪用している」と怒り心頭だ。

昨年、公演を見たという清津(チョンジン)の情報筋も、「モランボン楽団の公演を良い席で見るには、ダフ屋から高値でチケットを買うしかない」とぼやきつつも、国のすべてのものがヤミ価格で売られているのだからと仕方なさそうに言った。

RFAの情報筋は、モランボン楽団の楽曲は最高指導者を称えるプロパガンダソングばかりなのは不満だが、歌唱力や踊りが素晴らしい最高の芸術団ということもあり、多少の無理をしてでも見ようとする人は多いと語る。

金正恩氏がモランボン楽団に力を入れるのは、北朝鮮庶民を魅了する韓流コンテンツに対抗する狙いがあると見られる。北朝鮮で韓流や海外コンテンツは違法だが、よほど面白いのか庶民の間で拡散しつづけている。

近年では、韓流ドラマを見て韓国社会に憧れ、脱北する若い女性も少なくない。そのせいか、金正恩氏は韓流を厳しく取り締まる方針を打ち出している。一昨年5月には韓流ドラマのファイルを保有していた容疑だけで、治安当局が女子大生に過酷な拷問を加え、彼女を悲劇的な末路に追い込んだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

金正恩氏が、政治的狙いがあるとはいえ、一般庶民も楽しめる娯楽を提供しようとすることを全否定するつもりはない。しかし、その裏で海外文化に触れただけで過酷な拷問を加えるような人権侵害が横行している現状があることを見過ごしてはならない。