草原にはそろそろ緑が出始める時期だが、ここは砂漠が進み、草原とは言えない風景が広がっている=シリンゴル盟・シローンフブートチャガン・ホショー(2015年4月撮影)

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 日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。

 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。

 アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。

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 取材中に、ある老人と話をした。

「ここ数年間牧草地がどんどん悪くなっている。それはこの鉄条網のせいだよ」。

 60歳過ぎのベテラン遊牧民は、眼前に広がる錆かけて、崩れそうになった鉄条網を指しながら私に言った。
家畜が一年中、決められた狭い牧草地の中で動くことしかできなくなったので、同じ植物が同じ場所に育つようになった。つまり、植物も移動できなくなったのだ。

 こうして、草の種類が乏しくなり、多種類の草が育つ豊かな草原が消えている。

 私が小中学生のころは、それほど砂嵐はなかった。

 内モンゴルの草原は、夏になると緑でいっぱいになり、肥沃な土地に思われがちだが、実はとても貧弱な土地で、10センチ、あるいは20センチぐらい掘ると、乾燥した土が出てくる。

 だから、草の細かい根が草原一面に張り付いて土をとどめ、水分をためておくことによって草原が守られてきた。

 しかし、現在はその大切な草の根までが、家畜に食べ尽くされるので、それに覆われることで安定していた乾いた土が、少し風がある度に空に巻き込まれ、だんだん勢いが強まり、砂嵐になる。

「砂嵐が起きて、さらに細かい砂、湖の塩分、石炭鉱の有害物質が、天空に蔓延する。そして、最終的には、他の牧草地に落ちて、そこでも草が育たなくなり、砂漠はどんどん広がる」と、老人は語った。

 確かにその通りだと思う。(つづく)

※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第4回」の一部を抜粋しました。

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アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA)
1977年 内モンゴル生まれ
2001年 来日
2013年 日本写真芸術専門学校卒業
国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。
主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。